<小言航兵衛>

広辞苑の「ドクターヘリ」



 
    今年1月に改訂された『広辞苑第七版』(岩波書店)に初めて「ドクターヘリ」の言葉が収められた。それを聞いて私は、日本の代表的な辞書だから、これでドクターヘリも広く認知されるようになり、まことに喜ばしいことと感じた。
 そこで早速、この大部の本を開いてみると、ドクターヘリはドクターという見出し語の派生語のひとつとして「(和製語)医師が同乗し、患者に治療を施しながら病院に搬送するヘリコプター」という語釈が示されている。
 なるほど間違いではないが、肝腎のところが抜けている。というよりも、これではドクターヘリの本質もしくは本義が示されていない。ここは「(和製語)迅速な治療のために医師が乗って現場へ飛ぶ救急医療用ヘリコプター」とすべきではないか。
 『広辞苑』の語釈では、患者の搬送に重点が置かれ、搬送中も治療が続けられるということだが、その前にドクターヘリ本来の目的は急病の重症患者に対して手遅れのないよう一刻も早く治療を開始することにある。そのために医師が現場に飛ぶのであって、現場治療によって患者の容態が安定すれば、あとの病院までの搬送は救急車でもよいような症例も少なくない。
 実は、上の修正案は原文と同じ文字数にしてあるので、そのまま入れ替えることができる。出版元にはできるだけ早く改めて貰うよう希望しておきたい。

 
 
 
 
    ここまで書いてきて思い出すのは20年近く前に読んだ『広辞苑の嘘』(谷沢永一・渡部昇一、光文社、2001年10月30日刊)という本である。今は亡き2人の碩学が「『広辞苑』は間違いだらけである……語釈は要点から逸(そ)れている。うっかり信用したら恥をかく」と語り合った本だが、まさしく「ドクターヘリ」の語釈もそのとおりで、要点から逸れているといえるであろう。
 しかし単に無知であるがゆえに逸れたり間違えたりするのならまだ許せるが、『広辞苑』には何か特殊な意図をもって逸らしたり、収録語の選択をしたり、そんな疑いが感じられるところがある。
 たとえば「従軍慰安婦」とか「南京大虐殺」といった言葉が、新しい第七版にも堂々と収まっている。いずれも朝日新聞のデッチ上げた嘘で、何年か前に朝日自体が新聞紙面を取り消し、謝罪すると共に、社長が辞任しているのである。それを岩波書店が知らなかったはずはない。
 そのうえで「南京大虐殺」という項目を立て、「日本軍が中国軍の投降兵・捕虜および一般市民を大量に虐殺し、あわせて放火・略奪・強姦などの非行を加えた事件」と麗々しく書く。また従軍慰安婦についても前の版から削除することなく「日本軍によって将兵の性の対象となることを強いられた女性。多くは強制連行された朝鮮人女性」と、ありもしない嘘について説明するのである。
 ほかにも170項目ほどの言葉が2人の碩学によって嘘や間違いとして指摘されているが、こんな辞書を多くの日本人が有難がって参照しているかと思うと、夏の盛りというのに肌寒くなるような気がする。
 自動車や電機や食品など、いったん売り出した製品でも、基準に合わないときはメーカーが市場から回収するように、『広辞苑』なる不良品も家庭から図書館から本屋の棚から、岩波が自主回収すべきであろう。
 
  (小言航兵衛、2018.7.13)

 
     
 


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