<本のしおり>

トランプとヒトラー



 

 

(2017年6月10日刊)

「われわれの課題は失業対策、失業対策、そしてまた失業対策だ」
 同じ言葉を繰り返して選挙演説をくり広げたのはトランプではなく、ヒトラーであった。この2人の置かれた政治状況がいかによく似ていたか、その対応ぶりもいかにそっくりであったかを描いたのが本書である。
 ヒトラーといえば先ず想起するのがユダヤ人の大量虐殺だが、これは最後に行き着いた結末であって、その前に1914~18年の第1次世界大戦ではドイツ帝国陸軍の優秀な志願兵として栄誉ある「一級鉄十字章」を授与された。戦後は軍の情報員として政党の動向を探っているうちに政治に興味を持ち、小さな「ドイツ労働者党」に入り、次第に頭角をあらわしてゆく。
 その結果、ヒトラー自身を党首とするナチスに発展し、国会の第1党となって首相に任命され、国民の支持を得て、国家の全権を掌握するに至る。これが1933年のことで、当時のドイツ経済は敗戦による過酷な賠償に追われ、世界大恐慌の影響もあって失業者があふれ、ハイパーインフレを招いて崩壊の状態にあった。
 これを立て直すために、ヒトラーは先ず失業対策に取りかかり、高速道路アウトバーンなどの公共事業に着手した。それも大規模な国家事業として大量の予算を投入し、失業者を一挙に減らし、景気を回復させる。
 トランプ大統領も本書の書かれた2017年初め頃には同じように、大量の公共投資による失業対策を主張していた。ただし2018年秋の現在、その効果がどこまであらわれているか、必ずしもはっきりしない。
 さらにトランプの移民阻止とヒトラーのユダヤ迫害も似たところがある。メキシコとの国境を越えようとしている中米からの不法移民に対し、トランプは軍隊に武器の使用を許可する命令を出したというから、ひょっとしてヒトラーの二の舞になりかねない。イスラム諸国への対応ぶりも、いつ火がつくかもしれない。
 ヒトラーの再来といわれるトランプが、その轍を踏まぬように願うばかりである。             

(野次馬之介、2018.11.22)

       
       
       
       
   
       
 
 


表紙へ戻る