ヘリコプター三千丈
(Zhi-11)新年早々、中国から景気の良いニュースが伝えられた。向こう20年ほどの間に、中国は世界最大のヘリコプター市場となり、1万機の需要が発生するだろうというのである。
この予測を出しているのは、中国政府傘下の開発研究センターというが、どんな機関なのか具体的なことはよく分からない。とにかく、その予測するところ2013年までに2,000機の需要が発生し、2020年までには1万機のヘリコプターが売れるだろうという。
その兆しはすでに始まっており、最近中国警察にAS365のライセンス生産機Zhi-9ヘリコプターが引渡されたとか、中国中央テレビがAS350類似のZhi-11小型単発ヘリコプターを取材用に発注したなどのニュースが見られる。ほかにも数機のZhi-9やZhi-11を発注したというニュースがあって、今後も運輸省や税関、あるいは一般企業からの発注が見込まれるとか。
このニュースを伝えるCNNによると、世界中の民間ヘリコプターは現在、人口100万人あたり平均3.9機である。しかるに中国は0.06機しかない。米国には約10,560機の民間ヘリコプターが存在する。カナダでは100万人あたり54.1機である。
こうした先進国の水準に中国が追いつくためには、今後なお持続的、安定的な経済発展がなければならないのは当然だが、ヘリコプター工業にも積極的な開発投資をしてゆく必要がある。国際的には、ヘリコプター産業に1万ドルの投資をすれば、10年後には80万ドルの見返りがあるとCNNはいう。
また飛ばす方の環境をととのえる必要もあり、中国では高度2,000フィート以下の空域をヘリコプター用に開放する計画がすすめられているらしい。
(Zhi-9)上の100万人あたりの数字をもう少し整理すると、下表のようになる。
国 人 口 ヘリコプター数 百万人あたりの機数 カナダ
3,000万人 1,623機 54.1機 アメリカ
2億7,500万人 10,560機 38.4機 日 本
1億2,700万人 940機 7.4機 中 国
12億6,500万人 76機 0.06機 世 界
60億人 23,400機 3.9機 この表は上のニュースから各国の人口をもとに推計し、さらに日本の数字をつけ加えたものだが、カナダのヘリコプター保有率は非常に大きい。米国は絶対数は多いが、人口も多いから保有率はやや低下する。日本は、機数についてはアメリカ、カナダに次いで第3位、民間機に占めるヘリコプターの割合は4割で世界最高だが、人口対比にするとかなり低くなる。
中国の百万人あたり0.06機というのは、総人口12億6,500万人に掛けて逆算すると、76機しか存在しないことになる。なるほど民間機はその程度かもしれない。
また世界全体の保有率が3.9機であるとすれば、60億の人口に掛け算をすると、23,400機となる。これが世界の民間ヘリコプターの総数で、別の根拠に照らしても、およそ合致する。
なお、上のニュースで高度2,000フィート(600m)以下を開放するというのは、アメリカが進めているヘリコプター専用の低高度航空路の設定と同じようなものではないだろうか。日本も負けてはいられない。
余談ながら、このニュースの中でZhi-9とかZhi-11というのは「直−9」とか「直-11」と書くのであろう。中国語ではヘリコプターのことを「直升飛机」と表記したり、「直升机」と略したりする。その頭文字を取って番号をつけたものであろう。もっとも簡体字であらわせば、直は左の縦棒がなく、飛は一番上のガンダレの逆とその右側のチョンチョンしかない。そして升は昇の簡体字、机は機の簡体字である。
したがって本来の漢字は「直昇飛機」となって、いかにも垂直離昇をするヘリコプターらしい言葉である。
なお、簡体字はインターネット上にあらわすことができない。簡体フォントをインストールすれば可能だが、読者のパソコンにもインストールしてなければ表示できないから、ここでは文字の説明だけにとどめた。
そこで、もう一度上のニュースに戻ると、今の中国のヘリコプター数76機はたしかに少ない。それが10年余で2,000機になり、20年足らずで1万機まで増加するというから驚きである。
正月らしい話題ではあるが、古人の言う「白髪三千丈」がヘリコプターにも当てはまらねばいいのだが。
(Zhi-11)(西川渉、2002.1.4)
(表紙へ戻る)