<日本航空医療学会総会>

ドクターヘリ普及のための3点

 

 

 去る11月12日、福岡でおこなわれた第11回日本航空医療学会で、ドクターヘリ普及のためには如何にあるべきかにつき、以下の3点を整理し提案した。すでに多くの識者が論じていることだが、ここに記録しておきたい。

15分ルールの設定

 救急関連法規の中に、初期治療は15分以内に着手しなければならない旨の原則を定める。そのための移動は、救急車でもバイクでも徒歩でもヘリコプターでも、手段を問わない。

 このような規定はドイツの場合、16州のうち14州で「できれば10分以内、最大15分以内――実施目標95%」「原則として15分を超えてはならない」「原則12分、最大15分」「原則10分――目標95%」「原則14分、へき地17分――目標95%」といった文言で規定されている。こうした規則の中から制限時間の数字だけを抽出すると次表のようになる。 

ドイツの救急許容時間

許 容 時 間

州 の 数

10分以内

5

10〜15分

1

12分

3

12〜15分

1

14〜17分

1

15分

3

 山岳国スイスでも、アルプス山中ですら15分以内に医師が駆けつける体制ができている。むろん昼夜を問わないから、日本の農山村に見られるような医療過疎や無医村の問題もヘリコプターによって解消することができる。

健康保険の適用

 ドクターヘリの運航に健康保険を適用するという考え方は、誰もが考えることである。しかし現在それが実現していないのは、ヘリコプターの費用が高いとか、ヘリコプターによる搬送は医療とはみなされないという理由からであろう。

 しかし、これらの議論は全て供給者側の論理であって、患者の立場からすれば、普段から健康保険に加入しているのは緊急事態にこそ救われるためである。それが、いざというときに役に立たないとすれば、何のための保険か。

 また救急治療の成否が時間との闘いなどと言いながら、そのための最適搬送手段を認めない保険制度は、救急医学の理論に反するばかりか、国民の生命をも無視したものである。

路上着陸の日常化

 小泉首相は2003年1月、わが国交通事故の死者が32年ぶりに半減したのを受けて「今後10年間を目途に、交通事故死者数を更に半減する決意」を固めた旨の談話を発表した。また2004年6月には国会で、ドクターヘリの高速道路本線上への着陸について「直接離着陸ができるよう各省庁が連携して取り組む」と答弁した。この二つの発言は密接に関連しており、早急に具体化すべきである。

 下の表はドクターヘリの成果を示すものである。

   

厚生労働科学研究

HEM-Net

対  象

2003年度全症例

2002年度交通事故

死者実数

542

83

死者推定

821

136

その差

279

53

PD 比

34%

39%
 [注]PD比:Preventable Deathの推定回避率

 

 ここに見られるように、厚生労働科学研究(益子邦洋教授ほか)によれば、2003年度ドクターヘリの治療を受けた重症者のうち死者は542人であった。それに対し、もしもヘリコプターがなければ死んだと思われる人は821人。その差279人は推定死者数821人に対して34%であった。つまり3分の1の重症者が無駄な死(Preventable Death)を免れたのである。

 同じように2002年度の重症者の中から交通事故だけを抽出すると、「避けられた死」の比率はさらに大きくなって、4割近くになる。つまり交通事故の救助にヘリコプターを使えば、4割近い人が死を免れる。ということは小泉首相の言う死者半減、すなわち5割減のうち4割近くをヘリコプターによって実現することができる。

 逆に、ヘリコプターを使わなければ、半減達成までには再び30年以上かかるであろう。あるいは「百年河清を待つ」ような結果に終わるかもしれない。 

(西川 渉、「第11回日本航空医療学会総会抄録集」に加筆、2004.11.18)

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