<ドクターヘリ>

Japan -a recent success

 

 以下の文章は今年3月に書いたものである。それを山野さんに英訳していただき、依頼先の豪州"HeliNews"誌に送り、今年5月号に"JAPAN - A RECENT SUCCESS"という表題で掲載された。その英文は本頁にも6月4日付けで掲載してある。

 ところが、最近送ってきたヨーロッパ航空医療連合委員会(EHAC)の機関誌"4 Rscue"(秋期号)にも"Japan - a recent success"という表題で同じものが掲載されているのを見つけた。ここに再び英文を載せる必要もないので、今度はその基礎となった日本文を以下に載せておきたい。外国人むけの記事なので、日本人には分かりきったような説明も出てくるが、ご了承いただきたい。

 1995年1月、日本の神戸で大地震が起こった。この地震で6,000人以上の犠牲者が出たが、このとき人命救護のためにヘリコプターはほとんど使われなかった。もしヘリコプターが使われていれば、もっと多くの人が死を免れたにちがいない。

 それ以前から、救急専門医やヘリコプターの関係者たちは、欧米に見られるようなヘリコプター救急の制度を日本にも整備すべきだと主張してきた。そうした意見の持ち主が集まって日本エアレスキュー研究会が発足したのは1994年夏。その半年後、案の定といわんばかりに神戸の大地震が起こったのである。

 こうした反省から4年後、1999年夏ようやく、日本政府中枢部の内閣官房が事務局となって「ドクターヘリ調査検討委員会」が発足した。同時に救急装備をしたヘリコプター2機を2ヵ所の病院に置いてヘリコプター救急の実験的な運航を1年間にわたって実施した。

 その実験の結果と委員会の結論により、2001年4月から本格的なヘリコプター救急制度が発足する。日本では、これを「ドクターヘリ」と呼び、国と都道府県が半分ずつ負担して民間ヘリコプター会社から救急装備の専用ヘリコプターをチャーターし、救命救急センターに拠点を置いて救急飛行にあたっている。

 飛行に際しては、パイロットのほかに医師と看護師が同乗する。さらに機付整備士が乗って航法、無線連絡、見張りなど副操縦士の役割を果たし、飛行の安全性を高めている。

 ドクターヘリの拠点数は今年4月現在、全国22ヵ所になった。発足から9年間の出動実績は3万件を超え、28,000人以上の患者がヘリコプターで救護された。

 それでも、日本のドクターヘリはまだ足りない。当面は全国47都道府県に1ヵ所ずつの拠点配備が目標だが、それに対して現状は半分に満たない。目標に達するのは5〜6年後のことになろう。

 だが、この目標は必要最小限の拠点数にすぎない。そのあとはさらに細かく、山岳地や離島の多い医療過疎地に重点的にヘリコプターを配備する必要がある。それらを加えて、最終的なドクターヘリ配備の理想は、およそ80機と見られる。その理想の体制が完成するのは今から10年後くらいになるであろう。

(西川 渉、2010.9.20)

【関連頁】

 "Japan - a recent success"(4 Rescue, Vol.11, Fall 2010)

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