<ボーイング>

747改造の特殊輸送機

 ボーイング社が747-400貨物機を改造した特殊輸送機が完成、9月9日に台湾で初飛行した。

 この改造型747の役割は、エアバス社が使っているベルーガ大型輸送機と同様、スウェーデンなどの国外で製造した787の大型構造部材をそのまま積みこんで、シアトルの最終組立て工場まで輸送してくるもの。

 胴体全体が大きくふくれ上がっていて、外観は決して見ばえのよいものではない。今後合わせて3機がつくられ、日本やイタリアからも787の大型部材を空輸する。


ボーイング自らみにくいと称する747改造機

 この不格好な飛行機を見て、シアトルでは飛行機製造のかなりの部分が外国へ移り、地元の仕事が減ることの象徴であるとして、警戒感を強めている。たとえば787の主翼は日本の三菱重工で、胴体の主翼支持構造は富士重工、胴体中央部は川崎重工で製造される。ほかにもイタリア製が増えることから、世界で最もみにくい輸送機は地元作業の削減を宣言するものとなった。

 しかしボーイングは、シアトルの自社で製造するよりは、国内外の他社へ下請けに出す方がコストが下がり、新しい技術が利用できて、完成品をその国へ売りこむ手段にもなるという戦略的な考え方を取っている。

 ただし、この戦略の裏側には問題もある。特に外国メーカーとの間の調整に手間ひまがかかるし、ボーイング自体の技術力が低下する。さらにエアバスのように中国のメーカーを下請けに使うようなところまで進むと、技術水準や信頼性の問題が生じて、かなりのリスクを伴う。そんなときボーイングは、かつては仕事を引き揚げ、自社で製造することにしていた。1998年のことだが、717の主翼を韓国の現代重工で製造していた当時、問題が生じるや直ちに契約を打ち切って、ボーイング・トロント工場へ仕事を移したことがある。

 しかし、そうするためにはボーイング側にいつでもピンチヒッターになれるような戦力を温存する余裕がなければならない。今や、そんな余裕はない。何としてでも、下請けメーカーに頑張って貰うという考え方に変わった。

 といっても、ボーイングは城を開けわたすつもりは全くない。本丸はあくまでシアトルである。研究、設計、開発などの知的作業はここで行ない、そこから世界中の下請けメーカーに指示を出すのである。「知的財産はシアトルに蓄積しておく」という考え方を、ボーイングは地元財界に向かって言明している。

 こうしたグローバリゼーションは、ボーイングの戦略如何にかかわらず、世界的な必然性でもある。航空機メーカーとして世界のトップ・リーダーの立場を確保するためには、そうせざるを得ないのである。

 747特殊輸送機も、改修作業が行なわれたのは台湾であった。同機はその後シアトルまで飛行し、このほどボーイング・フィールドに到着した。いずれ日本でも見られるようになるだろう。


エアバス社のベルーガ特殊輸送機
日本ではエアバス機の部品をつくっていないため、
ほとんど飛来したことがない。

(西川 渉、2006.9.18)

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