<ボーイング・デー>

787がロールアウト

 ボーイング社は7月8日、ファンファーレと共に787ドリームライナーのロールアウト式典をにぎやかに開催した。シアトル郊外の巨大なエバレット工場には787を発注しているエアライン各社のスチュワーデスがステージに並び、格納庫のドアが大きく開くと、中から787旅客機が同機のために作曲されたテーマ音楽と共に引き出され、人びとの前にゆっくりと姿をあらわした。

 そこに集まったのはボーイング社と関連企業の従業員や退職OBを含めて、およそ15,000人。ほかに市内のフットボール・スタジアムで25,000人が巨大スクリーンを見守った。

 この式典にはライバルの欧州エアバス社からも祝電が届いた。それには「明日からはまた、お互いに激しい競争がはじまりますが、今日はボーイングの日。787の完成をお祝いします」と述べられていた。

 この時点で、787の受注は677機、金額にして1,100億ドル(約13兆円)相当に達した。ロールアウトまでにこれだけの注文を獲得した航空機は初めてである。

 787の製造は約7割が外注によって行われる。そのための下請け企業は米国内のほか、日本、イタリア、フランス、イギリス、韓国など世界中にまたがり、900社以上に及ぶ。最終組み立ては、もとよりボーイング社で行なわれるが、そのためにシアトル周辺では8万人の人びとがボーイング社で働く。

 シアトルは、かつてボーイングの町であった。10人に1人はボーイングに勤めていた時代があり、1990年の時点では従業員が127,000人に達した。それが減少に転じ、代わってマイクロソフト、アマゾン書店、スターバックス・コーヒーがシアトル経済活動の3大企業となった。しかし今、再びボーイングが大きくせり上がってきたのである。

 ロールアウトの前日、ボーイング社はドイツのエア・ベルリンが25機の787を発注したと発表した。同時に、かねて12機を発注していたクウェートのALFリース会社が10機を追加し、その前日にはオーストラリアのカンタス航空が20機を追加して45機を65機とし、さらに20機を仮注文すると発表した。

 パリ航空ショーではボーイングの受注数が少なく、エアバスの史上最高記録425機に対して、ボーイングは125機、うち787は52機にとどまった。けれども新たな受注発表は、この日のために温存してあったものと見られる。これで787の受注数は合計677機。2015年までの生産分が売約ずみとなった。

 量産体制は最終的には1機を3日間で組立てる計画。ただし、その前に日本やイタリアなどの世界各地から運ばれてきた胴体や主翼などの構造部分について、配線や配管などに数週間をかける。

 原型1号機の初飛行は今年8月末か9月初めの予定。その後、合わせて6機で飛行試験、2機で地上試験を行なう。そして製造9機目が量産1号機として来年5月、全日空へ引渡される。就航は6月の予定で、まず国内線に使用、次いで近距離国際線に使う。2008年夏には北京オリンピックにも飛ぶ予定。

 1機あたりの公表価格は1億6,200万ドル(約200億円)。あるいは3種類の派生型によって、1億4,600万ドル〜2億ドル(約175億〜240億円)ともいう。こうした787を、リース会社の中には驚いたことに1ヵ月100万ドル(約1.2億円)で貸すところもあると伝えられる。

 このような真新しい航空機の開発は、ボーイング社としては13年ぶりのことである。1994年4月9日にロールアウトした777がそれで、同機は50%がアルミニウム、12%が複合材であった。量産1号機の発注者はユナイテッド航空。1995年5月15日に受領している。

 以下、787に関する面白いデータを整理しておこう。

 受注状況:47社から総数677機。

 主な発注者
  ILFC(ロサンジェルスのリース会社):74機
  中国政府(航空各社の分をまとめて):57機
  全日空:50機
  豪州カンタス航空:45機
  エア・カナダ:37機
  日本航空:35機

 787開発の経緯
 2002年12月:計画発表
 2005年9月:設計完成
 2006年6月:主要部品の組立て開始

 設計仕様
 客席数:210〜330席(派生型によって異なる)
 航続距離:4,600〜15,000km
 最大速度:マッハ0.85

 開発費
 総額:100億ドル(約1.2兆円)
 分担:60億ドル(ボーイング)
     40億ドル(日本その他)

 製造材料
 複合材:50%
 アルミニウム:20%
 チタニウム:15%
 鉄鋼材:10%
 その他:5%

(西川 渉、2007.7.11)

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