<ボーイング>

787とストライキ

 

 ボーイング社のストがようやく終結した。9月6日から11月2日まで、2ヵ月近く27,000人の従業員が職場を放棄したものである。

 ストの目的は、近年の787旅客機の受注数が、まだ飛んでもいないうちから増えつづけ、会社としては絶好調であることから、その分け前をわれわれ労働者にも寄越せという組合の主張。

 さらに航空機の製造にあたっては外注が多すぎる。しかも外注作業の結果、納品されてきた品物は手直しの必要なものが多い。そんなことなら初めから、社内でつくるべきだという要求もある。外注の方が安いはずだったが、実際は高くついたのかもしれない。

 安く上げよう、楽をしようと考えて、日本企業の仕事のやり方を恰好だけ取り入れた。しかしアメリカと日本では1人ひとりの仕事に対する愛着心のような根本の気質が異なる。日本人のようなきめ細かさがなければ、うまくゆくはずがない。

 ともかく経営陣と従業員との間に、いろいろ行き違いがあって、それがストに発展した。けれども、そうなるとせっかく受注した飛行機の開発や製造が遅れ、引渡しが遅れて違約金が増えるなど、なんだか矛盾だらけの現象で、横から見ていてもうまく論理がかみ合わない。何が何だか分からなくなってしまった。

 ボーイングはストの多い企業である。20年前から勘定すると、4回の大きなストをやっている。1989年の48日間、95年の69日間、2005年の24日間、そして今回の58日間である。

 何もかもうまくゆき過ぎて足が地につかず、有頂天のあまりに蹴つまづくことはあるが、ボーイングのストもそのたぐいであろうか。787の開発日程がまた遅れそうだ。

 ところで、787は昨2007年7月8日にロールアウトの披露をした。その華美な式典から今日まで、まもなく16ヵ月になろうとしているが、いまなお初飛行がいつになるのかはっきりしない。ロールアウトから初飛行まで、こんなに間があくのは航空機の開発史上かつてない記録ではないのか。そんな話が、先週の英フライト・インターナショナル誌のすみの方に書いてあった。 

 それによると、たとえば超音速旅客機コンコルドは1967年12月11日にロールアウト、69年3月2日に初飛行した。その間15ヵ月である。中露は知らず、西側の実用旅客機としては、これが最長記録だが、787はすでにそれを破って、記録を伸ばしつつある。

 もうひとつドルニエ728は2002年3月21日にロールアウトしたけれど、永久に飛ばなかった。途中で会社がつぶれたためで、これは記録とはいえないだろう。

 787の運命も、ストの多いボーイングのこと、まさかドルニエと同じように永久に飛ばなかったなどということにはならぬでしょうね。

(西川 渉、2008.11.7)

  

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