<ボーイング>

787いよいよ就航へ

 ボーイング787旅客機は来月、量産1号機が全日空へ引渡されるもよう。その1号機が8月6日、塗装工場から姿をあらわした。そしてキャビン内装が公開され、8月9日のシアトル・タイムズ紙が案内記事を書いている。

 乗降口を入ったところは天井が高く、広々した空間を構成し、明るい照明で、これまでの旅客機には見られない斬新な感じを受ける。通路も天井が高く、機内の照明は乗ってきた乗客に開放感を与えるような色合いになっていて、飛行中は色を変えることもできる。

 座席の前後ピッチは、しかし、少しばかりがっかりするかもしれない。全日空はこの1号機と2号機を、国内の近距離路線に使う計画で、メーカーのいう標準座席数250席に対して、264席まで詰めこんだ。したがって膝周りがせまく、現用機と変わらない。全日空がアメリカ人の足の長さと日本人の足の短かさを考えてそうしたのかどうか、ボーイングのニュース資料には書いてなかった。

 もっとも全日空の3号機は100席ほど減らして158席(ビジネスクラス46席、エコノミー112席)とし、欧米向けの長距離路線に使う予定。これで787は、日本からアメリカ東海岸まで直行することができる。

 窓ガラスは大きく、現用機の3割増し。エコノミー席の左右8人掛け(2-4-2)の真ん中の席からも外がよく見える。さらに、窓ガラスはボタンひとつで明るくしたり暗くしたりできる。これがボーイングご自慢ののひとつで、窓側の乗客はボタンを押すだけでマジックのように窓の透明度を何段階かに分けて調節可能。その仕組みは2重ガラスの間にジェル状の物質を挟みこみ、電流を通したときの化学反応によって透明度が変わるというもの。最も暗くしたときでも外界が見えなくなることはなく、窓側の乗客は真っ黒なサングラスをかけたときのように外を見ることができる。

 トイレには他のエアラインでは見られない仕組みがある。「ビデが2つ付いていて、押しボタンでコントロールし、好きな方を使うことができる」と、シアトル紙はヘンな説明を書いている。日本のウォッシュレットは、なぜか欧米のどこへ行ってもほとんど見ることはない。もっともボーイング社の内装デザイン研究所では、何年か前に訪ねた折に普通に使っていた。たぶん全日空の787に取りつける見本を、そのまま実用に供したのかもしれぬが、筆者にはわざわざそのトイレに入って使ってみるほどの探求心はなかった。

 トイレの広さは現用機と変わらない。けれども、キャビン中央部のひとつだけは2倍の広さがあり、窓もついている。この窓ガラスには上述のような透明度を変える仕組みのほかに、普通のプラスティック製のシェードもあって、地上に駐機中など外から覗かれないようにできている。むろん高空を飛んでいるときは覗かれる心配はない。1万メートルの高みから遙かに下界を睥睨(へいげい)しながら用をたすという密かな楽しみが味わえよう。

 かくして、新しいボーイング787は8月13日をもって試験飛行を終了、間もなく型式証明を取得して全日空へ引渡される。旅客運航は10月から開始の予定で、最初は東京〜香港間に特別チャーター便を飛ばすが、あとは羽田から岡山と広島への定期便となる。

 最初の2機は、こうした国内線向けだが、3号機は欧米向けの長距離用158席機となる。その後も全日空は2012年3月末までに12機を受領、次の1年間に追加8機を受け取る予定。総数では55機の787を発注している。

 なおボーイング787は、最近までに800機以上の注文を受けており、2013年には月産10機の製造が計画されている。1機あたりの価格は約2億ドル。

 ところで、シアトル紙は「全日空はシアトルへの定期便は飛ばしていない。しかし787は777(365席)や747(416席)よりも小さいので、ニューヨーク線やロスアンジェルス線ほどの旅客需要がなくとも、シアトル線の開設が可能のはず」と、採算性まで心配しながら書いている。よほど787に飛んできて貰いたいらしい。そうなれば、われわれもイチローの野球を見にゆくのが便利になるだろう。

(西川 渉、2011.8.12/加筆2011.8.15)

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