<ボーイング787>

尽きない悩み

 ボーイング787の悩みが尽きない。このほど原型6号機の製造工程で小さな欠陥が見つかり、7月末に予定されていた飛行開始が9月なかばまで遅れることになった。

 そのうえエア・インディアからは27機を発注している量産機の引渡し遅延に対して、10億ドル(約1,000億円)の賠償請求が持ち出された。この賠償請求についてはインド政府も支持しているもようで、アメリカ政府がインド側に対しなだめ役になっているもよう。

 エア・インディアに対するボーイング787の引渡しは、元来2008年に始まるはずであった。これを現用エアバスA310やボーイング747-400の代わりに使う計画だが、今のところ2011年3月まで待たなければならないという。エア・インディアも待ちくたびれて、しびれを切らしたのであろう。


エア・インディアの787想像図

 こうした状況について、米国内では開発と製造コストの削減をねらう余り、世界中の余りに多くの企業に作業の下請けをばらまいたためという見方が強い。したがって次は、下請けの範囲をせばめ、できるだけ米国内でつくるべきだといった意見が出てくる。その背景には、自分たちの仕事を外国にもっていかれたことを不満とするアメリカ労働組合の考え方もあるが、果たしてそれだけで問題が解消するだろうか。

 ひとつは787という旅客機がドリームライナーの名のとおり、夢の航空機をめざしていることにある。その理想を実現するために、さまざまな先端技術を取り入れているが、この困難な技術問題が開発遅延の根底にあることは間違いない。そのうえで、第2に運営管理や製造作業のキメ細かさに欠けるところはなかったか。トヨタのジャスト・オンタイム方式を取り入れたものの、その運営管理について日本人のようなキメ細かさがなかったせいではないか。この問題は国民性に関連するもので、最近は日本も余り自慢はできないが、アメリカだけでつくったからといって良いものができるとは限らないだろう。

 なお現在飛行中の原型5機は、最近までに合わせて463回、1,446時間の試験飛行をこなしてきた。このうち原型1号機は159回、467時間の飛行をしている。

 また量産1号機の引渡しは全日空が受けることになっている。引渡しの時期は公式には今年末という計画だが、実際は2011年初めにずれこむだろうという見方が強い。

 こうした問題から、今年は787の受注数がマイナスになるかもしれないと伝えられる。今年に入って32機の発注取り消しが出ているためで、今のところ受注28機を差し引くと、4機の減少になる。

 なおボーイング機全体では今年、7月末までに319機の注文を獲得、64機を失って純受注数は255機になった。ちなみにエアバス機は7月末までの受注数が286機、取り消しが41機、純受注数は245機である。

 また量産機の今年末までの引渡し計画は、ボーイングが465機、エアバスが500機。エアバス機の昨年の引渡し数は498機であった。

(西川 渉、2010.8.13)

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