<エアバス>

豪華ビジネス機

 

 旅客機がビジネス機としても使われることは、今に始まったことではない。昔プレイボーイ誌のオーナー、ヒュー・ヘフナーがダグラスDC-9を自家用機として所有、キャビンには毛皮を敷き詰めたベッドを置いて、プレイメイトと呼ばれた女性たちと飛びまわり、世の男どもを羨ましがらせたことはよく知られている。1970年代のことであった。

 最近はエアバス社が旅客機を改造したビジネス機に力を入れており、A318やA320の内装を改め、エリートとかプレスティージなどの名前をつけて売り出している。旅客機としては単通路であっても、普通のビジネスジェットにくらべて2倍以上のキャビン幅だから、豪華な大型ビジネス機に変わる。

 したがって金に糸目をつけなければ、特に長距離を飛ぶには快適な乗りものとなることは間違いない。さらにA330、A340などのワイドボディ機も自家用ビジネス機として使われている。

 そうしたエアバス・ビジネス機は、これまでに160機が売れており、うち100機余りがA320シリーズというから、残り約50機がワイドボディのビジネス機もしくは自家用機ということになる。

 驚くべきは自家用のA380で、800人乗りの機体を1人で使おうというのだから、こんな贅沢はあるまい。発注しているのはサウジの王族で、公表されてはいないが、間違いないらしい。値段もはっきりしないが、5億ドル程度(約500億円)と推定されている。当然、史上最高額のビジネス機である。

 機内にはロールスロイス車を収めるガレージもあって、王族は乗用車に乗ったまま後部ランプから機内に入り、エレベーターで上のデッキに上る。またターキッシュバス――日本のトルコ風呂とは違う――があったり、小ぶりのグランドピアノを置いたコンサートホールもある。また階下の「魔法のじゅうたん」と呼ぶ部屋は床面全体が巨大な透明スクリーンになっていて、自分自身が空中を飛んでいるような気分で真下の景色を眺めることもできる。

 寝室にはキングサイズ・ベッドが置いてある。無論これは自分のためであって、招待客は普通の旅客機のファーストクラスに似た座席で眠らなくてはならない。もっとも、このスイート席もゆったりと豪勢で、20席ほど用意されている。 

 このサウジ王族向けの自家用機A380は、すでに飛んでいるのかどうか知らぬが、昨年春に構想が発表された当時、驚きと共にちょっとした反応も聞かれた。「空飛ぶ宮殿」という評価は月並みだが、いずれはアラブの石油も涸渇するだろうからオイルマネーも涸渇する。したがって、これは砂上の楼閣ならぬ「雲上の楼閣」だとか。

(西川 渉、2010.4.10)

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