<エアバス>

A380の前途

 

 A380の公式披露の翌日、19日付けの英「フィナンシャル・タイムズ」紙は、この超巨人機について、欧州航空工業界の大きな賭けがはじまったと書いている。A380が必ずしも大きくない航空市場の中でどこまで売れるか、ドル相場の値下がりに対してどこまで耐えてゆけるか、過去35年間にわたって航空界に君臨してきたボーイング747の地位をどこまでおびやかすことができるか。

 そのための賭け金は開発コスト137億ユーロ(約1兆8,500億円)に上る。

 大型旅客機のメーカーは今や、ボーイングとエアバスの2社になってしまった。それも20世紀はボーイングの時代だったが、21世紀に入ってからはエアバスの時代になりつつある。過去6年間のスコアは、売り上げについてはエアバスが5対1で勝っている。受注数も、ボーイングの1,097機に対して、エアバスは1,500機と、1.5倍の得点を上げた。

 今年2005年もエアバスの引渡し数は、3年連続でボーイングを上回る見込みである。おまけにエアバスは、ボーイング7E7に対抗するA350の開発計画を打ち出し、さらにヒットをねらっている。

「われわれはすでに航空界のリーダーとしての地位をボーイングから奪い取った」というのがエアバス社の言い分。事実、民間機の分野ではボーイングの2倍の利益を上げている。というのも「製造工程におけるコストの削減と生産性の向上に成功したからで、そのためにマーケット・シェアが拡大し、利益が増大した」という。

 逆にボーイング社の引渡し数は、1999年のシェアが約68%だったが、昨年は47%まで落ち込んだ。機種によっては売れ行きも止まっており、昨年は757狭胴機の製造を終了した。近く717の製造も終えることが正式に発表された。そして767ワイドボディ機の生産も2008年から7E7に変わるであろう。しかし7E7とて、どこまで売れ行きが伸びるか。場合によっては短期間で生産終了ということにもなりかねない。

 だが、ボーイングにも言い分はある。A380などは無用の長物で、あんな機体はデカすぎるし、金もかかりすぎる。そんなに売れるはずはないと。450席以上の大型機について、エアバス社は向こう20年間に1,250機の需要があると見るが、ボーイング社は900機程度しかないという。

 たしかにボーイング社は内心747発達型の開発を考えているもようだが、自らいうように1機の注文も出ていない。

 「今もボーイング社への忠誠に励んでいるのは日本だけ」とフィナンシャル・タイムズ紙は皮肉まじりに書く。日本は国を挙げて7E7の支援をしており、政府が先頭に立って補助金を出し、それを受けた企業が3重工を初め多数のメーカーこぞって資金的、技術的に参画、エアラインも全日空が50機を発注してローンチカスタマーとなり、それにならって日本航空も30機を発注した。

 実は筆者も、このような一本調子の行き方には、いささか疑問を感じるところである。日本のメーカーがボーイング機の開発に参画するのはいっこうに構わぬが、それは自分の資金で行くべきではないのか。その資金をなぜ政府にたかるのか。

 そのたかりに応じる政府の方も、金の使い方を知らぬとしか言いようがない。北朝鮮に対する経済制裁はできないし、中国への経済援助もやめられない。たかられ体質は、いつになったら直るのか――といえば大人しい表現だが、要するに出鱈目なのである。その陰にどんな利害関係が生じているのか、知るよしもないが。

 話をボーイングに戻すと、同社に有利な状況はドルの相場が下がってきたことである。1ユーロに対して1.3ドルという現状は、将来1.6〜1.7ドルにもなりかねない。そうなれば欧州勢の力は大きくそがれるであろう。A380の将来に強い自信を示したエアバス社だが、ドルの下げ具合には懸念を見せている。

 エアバスにとっての賭けというのは、その辺りのことをいうのかもしれない。

 A380のロールアウトと同時に、エアバス社は世界最大の小荷物宅配会社UPSが同機を10機発注し、さらに10機を仮発注したと発表した。UPSは現在、長距離国際便にはボーイング747貨物機を使っているが、A380は747よりも3割増の荷物を搭載し、2倍の距離を飛ぶことができる。このA380をUPSは2009〜12年の間に受領する。

 UPSの競争相手で、小荷物業界第2位のフェデラル・エクスプレスも、かねてから確定10機、仮10機を発注している。

 UPSの発注で、A380の受注数は総計149機となった。

(西川 渉、2005.1.20)

 

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