<世界航空機年鑑>

2000年版ヘリコプター

ティルトローターの時代へ

 ヘリコプターとティルトローターを含むロータークラフトの世界で、この1年ほどの間にどんな話題があったか。将来的な意義を考えながら振り返ってみると、ひとつはティルトローターがいよいよ実用段階に達したことであろう。1999年5月、ベル社とボーイング社の共同開発機V-22オスプレイの引渡しがはじまったのである。

 これで史上初の実用ティルトローター機が誕生したことになる。V-22の初飛行は1989年春だったから、実用化までにちょうど10年。今後は海兵隊で2000年なかばまで実用評価試験をおこない、2001年初めには最初の12機で編成するオスプレイ飛行中隊が発足する計画である。

 ただし去る4月8日、アリゾナ州ツーソンに近いリージョナル空港で夜間訓練中に本機の事故が起こった。原因はまだはっきりしないが、実戦配備はやや遅れるかもしれない。

 一方ベル社では、民間型ティルトローターBA609の開発も進んでいる。伊アグスタ社の協力を得ながら、6〜9人乗りのVIP輸送、または人員輸送を目的として2000年末までに初飛行、2002年には型式証明を取る予定である。受注数は2000年春の時点で77機に達した。

 こうしたアメリカ側の動きに刺激されたか、ヨーロッパでもティルトローター研究の動きが出てきた。ユーロコプター、CASA、フィアットなど欧州9か国33社から成るグループが新しい欧州製ティルトローター「ユーロティルト」(19席)の研究をはじめる。かつてのユーロファー構想の延長線上にあって、まずは実物大の地上試験機をつくる予定。その制作と試験のためには8,150万ドル(約9,000億円)ほどかかるようだが、半分は民間企業グループで負担し、残りを欧州委員会から出して貰いたいとしている。

 これと平行して、アグスタ社もBA609の開発に協力する一方、独自の「エーリカ」研究計画を打ち出した。20席程度のティルトローター旅客機で、ローターは固定翼の外側半分と一緒に変向し、ティルトローターとティルトウィングの両方の特性をもつ。これら二つの研究計画に対して、欧州委員会は一つにまとまれば研究費が出せるかもしれないとしており、メーカーの間で話し合いが進んでいる。


(ユーロティルト)

タイガー攻撃機を正式発注

 昨年のヘリコプター界で、もう一つの大きな動きは1999年6月、仏・独両国政府がタイガー攻撃機について正式契約をしたことであろう。同機は仏・独共同でユーロコプター社が開発してきた攻撃ヘリコプターだが、まずは両国80機ずつを買い入れるというもの。引渡しは2002年にはじまる。

 タイガー開発計画は今から10年前、1989年11月にはじまり、原型5機で2,000時間の試験飛行をしてきた。 最終的にはドイツ陸軍が212機、フランス陸軍が215機を調達する予定である。

 この軍用契約に気を良くした欧州のメーカー各社は、次はNH90輸送ヘリコプターの正式契約も近いと期待している。NH90は仏、独、伊、蘭の4か国がNATO諸国の次期戦術輸送ヘリコプターをめざし、ユーロコプター、アグスタ、フォッカーの各社共同で開発してきた。グラス・コクピット、フライ・バイ・ワイヤ、自動操縦装置など最新の装備を持つ。

 1999年5月31日に原型4号機が初飛行したが、この時までに1〜3号機で420時間以上の試験飛行がおこなわれていた。量産機の引渡しは2003年からはじまる予定だが、4か国で642機の調達が計画されている。


(タイガー攻撃機)

OH-1とMH2000

 日本では、陸上自衛隊向けOH-1の実用配備がはじまり、三菱重工の開発になるMH2000も型式証明を得て量産に入った。そして川崎重工がユーロコプター社と共同生産中のBK117の発達型BK117C2が初飛行した。

OH-1は陸上自衛隊の武装観測機として1993年に設計がはじまり、96年に初飛行した。近年は陸上自衛隊明野駐屯地で防衛庁技術研究本部と飛行開発実験隊が4機の試作機を使って実用評価試験をしていたが、99年9月末に終了、実用機として認定された。

 観測機といっても、外観は細長い胴体の前方に前後2席のコクピットがあり、胴体左右に短固定翼が張り出し、その下面に空対空ミサイルをつけている。したがって戦闘攻撃機にも見まがうような機体で、飛行性能にもすぐれている。主ローターは4枚ブレード。ハブは独自のベアリングレス機構で、すぐれた操縦特性を示し、ホバリング状態からの宙返りも可能。尾部はダクテッドファン。降着装置は尾輪式の3車輪だが、引込み脚ではない。 エンジンは三菱XTS1-10(884shp)が2基。飛行速度は最大290q/hである。

 これとほぼ同時に完成したのが民間向けのMH2000。三菱重工が開発した10人乗りの中型双発ヘリコプターで、99年10月から営業飛行を開始した。同機は1996年に初飛行、97年6月26日に輸送TB級の型式証明を取得したが、その後も2年間にわたって飛行試験をつづけ、99年9月24日にTA級の運航が認められたものである。

 この間、エンジンをMG5-110(876shp)に換装して出力を上げ、最大離陸重量を4,300kgから4,500kgに増やすと共に、超過禁止速度(Vne)を120ktから150ktに上げている。またローター回転数を90%に落として「静粛モード」にすれば機外騒音も小さくなる。このときのVneは100ktだが、振動と騒音がなくなって快適性が増す。都内上空をゆっくりと遊覧飛行するには最適であろう。

 なおアメリカではグランド・キャニオンやニューヨーク上空など、騒音のために遊覧飛行が制限されている。しかしMH2000ならば、そうした問題を起こさなくてすむかもしれない。FAAの型式証明も取得して輸出されることを期待したい。機体価格はおよそ4億円。シコルスキーS-76にくらべると半分程度らしいから、可能性も大きい。むろん騒音の小さいことは遊覧ばかりでなく、どんな飛行でも重要なことである。


(OH-1)

BK117C2/EC145が登場

 もうひとつ日本に関連する話題としては、川崎重工によるBK117C2の開発がある。共同開発のパートナー、ユーロコプター社ではEC145という新しい名前で呼んでいるが、双方同じものである。従来のBK117にくらべて外観は一新され、機首はEC135にも似て洗練された形状となった。キャビンも大きくなり、現用機がコクピットの2席を含めて総数11席だったのに対し、13席になる。

ヨーロッパ側ではすでにフランス政府からシビル・ガード向けに32機の注文を受けており、現用アルーエトVに代わって、捜索救難や輸送に当たる予定。日本でも最近、川崎重工が15機の受注を発表した。

 以上のほか、この1年間ほどの主な話題は、ベル社の新しい軽双発機、モデル427が99年12月カナダ運輸省の型式証明を取得、2000年1月から量産機の引渡しがはじまった。基本価格は220万ドルで、最近までの受注数は80機以上という。

 同様にアグスタA119コアラ単発タービン機も99年12月30日に型式証明を取得、この5月から量産機の引渡しがはじまる。さらにアグスタ社が開発中のAB139中型双発タービン機(15席)は昨年秋、英ブリストウ・ヘリコプター社から初の2機を受注、今年1月にもオーストラリアとベネズエラから各1機を受注した。同機はこの夏初飛行の予定。

 初の受注ということでは、シコルスキーSー92大型機(旅客19席)も、今年1月カナダの定期旅客輸送用に1機、海底油田の開発支援に5機を受注した。

 小型ピストン機、R44とR22を生産しているロビンソン・ヘリコプター社は昨年278機を生産、機数では前年につづいて世界最大となった。ロビンソン機は現在、世界中で約3,800機が飛んでいるという。

 同じく小型機のメーカー、シュワイザー社は新しいモデル333(トリプル3)小型タービン機を発表した。現用330SPの派生型で、出力が強化され、総重量が3割増となり、飛行性能が向上した。今年4月から引渡しに入る。

(西川 渉、『世界航空機年鑑2000』掲載)


(EC145)

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