<世界航空機年鑑>

2001年版ヘリコプター

パブリック・アクセプタンスの課題

 近年、ヘリコプター・メーカーの間で最も重要な課題となっているのは「パブリック・アクセプタンス」である。飛行性能や搭載量など技術的な要目が如何にすぐれたヘリコプターでも、社会一般に広く受け容れられなければ何にもならない。ところが環境問題がきびしくなった今日、ヘリコプターは受け容れられるどころか、逆に排除されるような趨勢が出てきた。

 ヘリコプターをもっと積極的に受け容れて貰うにはどうすればいいのか。重要な3点は騒音の軽減、コストの低減、安全性の向上であろう。ヘリコプター・メーカーも近年、これらの要件に留意しながら設計と開発を進めるようになった。

 たしかに、最近のヘリコプターは騒音が小さくなり、ICAOの基準を下回るものが多い。巡航中のローター回転数を落として、騒音を下げるような工夫をした機種もある。騒音基準は今後さらにきびしくなるだろうから、実際の騒音はもっと小さくなるだろう。もっとも、騒音計にかけると鉄道や自動車の方が数字は大きいという測定結果も出るので、騒音は数字だけで論じるわけにはいかない。如何にして嫌われないような音にするかが大切である。

 安全性に関してはエンジン、トランスミッション、ローターなどの信頼性が高まり、飛行中に故障するような事例も減っている。また最新のアビオニクス技術を採り入れて、衝突防止や航法にかかわる安全性を高め、操縦がしやすくてパイロットの負担が小さくなるような工夫も出てきた。そして製造工程の改善、材料の改良、耐久性の増大などで製造および運航コストが下がりつつある。

 これらの努力はまだまだ完全というわけではない。けれども最近のヘリコプターでは高い評価を得られるようになった。これによって社会的に受け容れられる機材が増えるならば、技術的な改善もいっそう進み、パブリック・アクセプタンスの問題も解消に向かうであろう。新世代のヘリコプターにいっそう期待したいところである。

活発なユーロコプター

 さて、この1年ほどの間に、ヘリコプターの世界ではどんな話題があっただろうか。

 初飛行という観点からすれば、2000年11月27日にユーロコプターEC725、12月7日にベルAH-1Z、2001年2月3日にベル/アグスタAB139、6月25日にボーイングCH-47Fチヌークがそれぞれ飛んでいる。

 また新たな型式証明を得た民間機は2000年12月にEC130B4、12月20日にEC145、2001年2月9日にエンストローム480Bなどがある。一見するとユーロコプター機が3機種も入っていて、同社の活発な活動ぶりがうかがえる。

 といって他のメーカーが怠けているわけではない。たまたまこの1年間に初飛行や型式証明といった節目にめぐり合わなかっただけで、シコルスキー社ではS-92の開発とS-76の改良研究が進み、ベル社ではAH-1Zに加えて、BA609ティルトローターの開発やオスプレイの修復努力がおこなわれている。そしてロビンソン社は2年間にわたって、どのメーカーよりも多くの機体を製造してきた。

 こうした話題の中から主なものを見て行くと、ユーロコプター社からは2001年初め、EC725とEC130が公表された。EC725は民間型をEC225と呼び、現用シュペル・ピューマ/クーガーを基本として、昨年秋Mk2+として初飛行した。エンジン出力は従来の14%増となり、トランスミッションも強化されて、全備重量が11トンに増加、ペイロードも900kg増の5トン余となった。主ローターは新しい5枚ブレードに変わり、コクピットのアビオニクス装備も改良されている。目下試験飛行がつづいているが、2003年から量産機の引渡しに入る予定。

 一方、EC130B4はAS350B3を基本とする単発機。胴体幅が広くなって、パイロットを含む座席数は最大7席だが、前後3人ずつの6人乗りにすればゆったりと快適なキャビンになる。また4座席とストレッチャー1人分の救急機として使うことも可能。尾部ローターはEC135の技術を借りたフェネストロンに変わり、キャビンドアはEC120からの準用で、開発費や製造費の節約になっている。

 EC145/BK117C2は昨年末、基本型式証明が認められたが、現在なお試験飛行がつづいている。これはカテゴリーAと計器飛行証明の完璧を期するためで、2001年秋から量産機の引渡しに入るもよう。


(EC130B4)

三つ巴の攻撃ヘリコプター

 ユーロコプター社に関してはもうひとつ、2001年8月オーストラリア陸軍がタイガー攻撃機の採用を決めた。この新攻撃ヘリコプター計画は、総額6.6億ドル(約800億円)の予算を計上して、タイガーのほかにボーイングAH-64アパッチやベルAH-1Zが名乗りを上げ、三つ巴の競争が続いていた。オーストラリア側の、さまざまな要件を総合した検討結果は、タイガーが1位、AH-1Zが2位、AH-64が3位だったという。

 タイガーへの発注は今年末までに正式契約が調印され、2004年から22機の引渡しに入るもよう。これに伴い、ユーロコプター社はオーストラリア国内にヘリコプター工場を建設し、タイガーの尾部ローターその他の部品を、オーストラリア機ばかりでなく仏独両国向けの分まで製造し、将来はオーストラリア機の重整備もおこなう計画。さらにEC120B小型民間ヘリコプターを年間20〜50機生産するというおまけもついている。

 AH-1Zは、オーストラリアでこそタイガーに敗れはしたが、新世代の攻撃ヘリコプターとして昨年末初飛行した。外観は従来のAH-1と変わらないものの、内容は全く異なり、至るところに最新の技術を取り入れた新鋭機である。頭の上にはミリ波レーダーも装備して、AH-64Dアパッチ・ロングボウにも劣らない。このコブラ・レーダー・システム(CRS)は既存のロケット・ランチャーやヘルファイヤ・ミサイルと組み合わせて、気象条件の悪い中でも自動的に敵味方を区別し、地上軍でも航空機でも攻撃することができる。日本でも陸上自衛隊の次期攻撃ヘリコプターとして、アパッチとの間でひそかな競り合いがつづいている。

 もうひとつ次世代の偵察/攻撃機RAH-66コマンチは、ボーイング社とシコルスキー社が開発中だが、これから製造開発(EMD)段階に進むことが発表された。コマンチは現在2機が試験飛行中で、400時間以上の飛行を重ねてきた。EMD1号機は2004年初めに飛びはじめる。そして2006年から実用段階に入り、2009年までの3年間に96機を生産する計画である。

 軍用機の話題では、もう一つ、NH90輸送用ヘリコプターの開発と量産にポルトガルが参加することになった。2001年6月のパリ航空ショーで公表されたもので、10機を発注し、2006〜07年に受領するという。NH90は、かねてフランス、ドイツ、イタリア、オランダの4か国が共同開発をしてきた。その結果、2000年7月4か国の政府がNHインダストリー社との契約に調印し、総数298機の量産がはじまったところである。それにポルトガルが加わって受注数は308機となった。量産1号機は2004年に引渡される。なお4か国の調達数は今後さらに増えて595機になる予定。

 
(タイガー)

AB139とBA609

 伊アグスタ社は米ベル社の協力を得て、AB139中型双発ヘリコプターの開発を進めている。2月に初飛行した1号機につづいて、6月4日には原型2号機も飛びはじめた。同機は最新のヘリコプター技術を取り入れ、同級競合機にくらべて飛行性能にすぐれ、カテゴリーAの飛行でもペイロードを減らす必要がない。また市場の要請に応えてコスト削減のために、たとえば胴体を金属製として、高価な複合材は使っていない。これで実証ずみの材料を使うことにもなり、信頼性も向上した。 防氷装備をすることもできる。型式証明の取得は2002年秋の予定。

 同じベル/アグスタ社が開発中の民間向けティルトローター機、BA609は間もなく、2001年末にも初飛行する。ベル社の工場では原型4機の製作が進んでおり、試験飛行の開始から2年ほどで型式証明を取り、2003年から引渡しに入る計画である。

 受注数は約80機。社用ビジネス機、オフショア石油開発の支援、そして定期旅客輸送などの用途が考えられる。機体価格は1,000〜1,200万ドルだが、運航費がどのくらいになるかはよく分からない。定期運航や石油開発によく使われているシコルスキーS-76とくらべた場合、客席数は4分の3だが、速度が2倍で所要時間が半分になるとすれば、コストは1.5倍程度まで許容できるかもしれない。

 ビジネス機としては、搭乗するVIPの時間価値や行動範囲の拡大、もしくは機動力の強化などを考えれば、大きな効果が期待できよう。

 そこで、問題はパブリック・アクセプタンスである。騒音は定期便やビジネス機として便利な市街地のヘリポートで発着できるような程度であろうか。そして何よりも、史上初めての民間向けティルトローター機として高い安全性を確保しなければならない。

 ロータークラフトの将来は、ヘリコプターに新しいティルトローターを加えて、困難も大きいが楽しみも大きくなった。

(西川 渉、『世界航空機年鑑2001』掲載)


(AB139初飛行――2001年2月3日) 

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