<世界航空機年鑑>

1999年版ヘリコプター

ベル407の成功

 近年、民間ヘリコプター市場には次々と新機種が登場している。昨1998年にはユーロコプターEC120とEC155が型式証明を取り、99年2月22日にはカナダ運輸省がロシアのカモフKa-32A-11BCの型式証明を承認した。最近のロシア製ヘリコプターが西側の証明を取得するのは珍しい。また99年春には、わが三菱重工が開発してきたMH2000が型式証明を取って実用段階に入るし、同年夏にはベル427とアグスタA119コアラが型式証明を取る予定である。

 さらに新しいヘリコプターでは98年ロシアのカモフKa-62中型双発機が初飛行した。同年末にはシコルスキーS-92も飛びはじめた。

 将来に向かっては、S-92に対抗してユーロコプター社からスーパーピューマMk3の開発構想が出てきた。EC145やアグスタA139の計画も具体化しつつあり、ベル206ジェットレンジャー後継機や412プラスの開発構想も進んでいる。

 ジェットレンジャー後継機はEC120への対抗策となるもので、一時はMDヘリコプターのノーター機構を採用するつもりだったが、後述するようにMD機の製造がベル社でできなくなったためノーターも使えなくなった。しかしEC120登場後もジェットレンジャーの売れ行きは落ちないところから、後継機はしばらく不要、このまま生産を続ける方が経済的という見方もある。

 ベル412プラスは、ベル社が共同開発をすることになったアグスタAB139と競合する。そのため具体化できるかどうか分からないが、アグスタ社としては、412プラスはAB139完成までのつなぎと割り切っているらしい。

 なおベル社では407軽単発機が好調の売れ行きを見せ、1996年初めの引渡し開始から3年間で300機近く生産され、350機の注文を受けた。ベル社としては近年にない成功という。その好調ぶりに乗って、双発モデル427も98年末までに85機以上の注文を受けている。モデル430の売れ行きも良いらしい。


ベル407

 

続々とEC新機種  

 ユーロコプター社は、近年の新機種としては先ずEC135双発機から入り、98年からEC120単発機の引渡しを始めた。この両機も好調の売れゆきを見せており、とりわけEC135は小型、双発、静かという特徴を生かして救急分野で伸びている。

 ユーロコプター社では98年末、EC155中型双発機も型式証明を取った。99年から引渡しがはじまっている。乗客は最大12人乗りで、シコルスキーS-76に対抗し、社用ビジネス機や人員輸送の分野をねらっている。

 さらに同社は、1999年中にEC145の開発に着手するもよう。現用BK117の後継機となるもので、尾部にフェネストロンをつけるほか、さまざまな改良を加え、99年末までには正式開発に入る予定。すでにフランス警備隊から32機の注文を得ている。

 最近はアグスタ社の動きも活発である。A119コアラ小型単発機は99年5月に型式証明を取る予定で、これまで20機余の注文を受けている。双発のA109パワーは、やはり99年なかばからチュルボメカ.アリウス2K1ターボシャフトを装備したA109Fが登場し、飛行性能が向する。

 またアグスタ社はベル609ティルトローター機の開発に協力しながら、新しいA139計画にベル社の協力を得られることになった。ベル412と同クラスの中型双発ヘリコプターである。

 アグスタ社からは1998年夏、EH-101大型3発機の民間向け1号機も出荷された。東京警視庁向けの機体で、99年春には立川飛行場を本拠として稼働体制に入る予定。 


EC120

MDヘリコプター社が誕生

 もう一つ大きな話題は、ボーイング社が買収した旧マクダネル・ダグラス・ヘリコプターの落着き先が決まったことであろう。98年初めにベル社へ売却されることになったが、独占禁止法にひっかかって駄目になり、98年末オランダのRDMホールディング社が買い取ることになった。そのため米国内にMDヘリコプター社を設立、5種類のMD小型ヘリコプターの製造を続けるという。

 うちMD520N、MD600N、MD902エクスプローラーの3種類はノーター機。MD500EとMD530Fの2種類は普通の尾部ローターで、向こう1年ほどは今まで通りアリゾナ州メサの旧MDH工場で生産される。その後は新しい場所に移転する予定。

 この生産計画の中で、MDヘリコプター社は早速MDエクスプローラーの価格を50万ドルほど引き下げ、総重量を2,950kgとしてペイロードを115kg増やすよう検討中と伝えられる。

 シコルスキー社では1998年12月23日、S-92ヘリバスが初飛行した。長距離の海洋石油開発など人員輸送分野を目的として開発中の大型機だが、採算を取るには30機以上の注文が必要と見られ、最終的に量産されるかどうか予断は許されない。

 日本では三菱重工のMH2000が99年春にも型式証明を取る予定。1号機はエクセル航空に引渡され、ディズニーランドに近い浦安ヘリポートから東京上空の遊覧飛行に使われる。ということは、誰でもこの純日本製のヘリコプターに乗れるということである。


MD902

ロビンソン20周年

 小型ピストン機では、ロビンソンR22ヘリコプターが1979年3月に型式証明を取ってから20周年を迎えた。量産1号機は同年秋に引渡されたが、最近までのR22生産数は2,900機を数える。ほかにR44も約500機生産されている。また1998年の生産数はR22が117機、R44が134機で、機数で見る限り新製機の引渡し数としては世界のヘリコプター・メーカーのトップに立った。

 シュワイザー機は98年中に41機を生産した。うち3機はタービン機。99年は43機の生産計画である。エンストローム社は98年、モデル480タービン機を11機とF-28/F-280ピストン機を3機引渡した。99年は15機の予定という。

 以上のような民間機は1998年、西側世界だけで総数821機が生産された。メーカー別に見ると、ロビンソン社が最も多くて251機、次いでユーロコプター社の216機、ベル社205機、アグスタとシュワザーが各41機、MDヘリコプター36機、シコルスキー16機、エンストローム14機である。なお97年は総数832機だったから11機減になる。


ロビンソンR44

ティルトローターも実用段階へ 

 軍用ヘリコプターの分野では、長年にわたって紆余曲折を経てきたユーロコプター・タイガー攻撃ヘリコプターが先ずフランス政府から80機の注文を受けるもよう。そのための調達費がフランス政府の99年度予算に盛り込まれ、将来さらに80機が追加発注されるという。またNH90ヘリコプターについても150機相当の予算が盛り込まれ、これら2機種の新しい欧州軍用ヘリコプターは1999年度だけでドイツ分も合わせて300機の調達契約が調印され、2003年までには600機以上が発注される見こみである。

 軍用ヘリコプターに関しては、インドでも新しい小型観測用ヘリコプター(LOH)の開発が検討されている。ヒンダスタン・エアロノーティックス社(HAL)によるもので、総重量3トン程度、ペイロード約1.5トンの双発機。特にパキスタンとの国境に近いカラコルム山岳地でも使えるような高地性能を重視した設計になる。機体は複合材を主とし、主ローターはベアリングレス、尾部にはフェネストロンがつく。計器類や装備品の一部はALHのものを流用するが、逆にLOHの複合材技術を重量増加に悩むALHに利用することも考えている。

 最後に、ティルトローター機は、いよいよ99年からV-22軍用機の引渡しがはじまる。1989年3月19日の初飛行から丁度10年目である。

 この10年間、オスプレイは苦難の開発を続けてきた。大きな問題は2度の事故があったこと、性能の割に値段が高すぎるという批判にさらされたこと、その結果として一時は国防省ですら同機の開発計画を中断したことである。

 この計画中断は議会の後押しによって、1992年10月いまのEMD――技術・製造・開発計画として再開され、前量産型4機が製作された。そして1,000時間に及ぶ試験飛行の結果、1999年5月から海兵隊向け量産機MV-22の引渡しに漕ぎ着けた。

 最初の12機は訓練部隊に納入され、50機を発注している空軍との共同飛行訓練に当たる。そこで訓練を受けたパイロットは訓練終了後、各地の基地で教官としての仕事をする。V-22による最初の実戦部隊は2001年前半に実現し、最終的には向こう14年間に360機のMV-22が海兵隊基地に配備される計画になっている。

(西川 渉、『世界航空機年鑑1999』所載)


V-22オスプレイ

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