<タービン革命>

アダムA500とA700

 先の本頁で「人も知る航空界のベテラン」と書いたのは、そのリンク先からもお分かりのように、畏友宮田豊昭にほかならない。宮田さんは最近登場してきた小型のジェット乗用機を見て、あれは多くの人が言うようなビジネスジェットの小型化ではなくて、レシプロ軽飛行機のジェット化であると見抜いた。

 これは進化のベクトルが世界の見方とは逆であるだけに、ラマルキズムとダーウィニズムの論争にもたとえられるかもしれない。もっとも、どちらがラマルクでどちらがダーウィンかは、当のご本人に決めてもらうことにしよう。

 

 さて最近、このような宮田理論を具体的に裏付ける実例が再びニュースとなって聞こえてきた。それは米アダム・エアクラフト社が計画中の所謂「ビジネスジェット」である。 

 リック・アダムの起こしたベンチャー企業、アダム社は現在A500と呼ぶ6人乗りの双発レシプロ機を開発している。2003年なかばまでに型式証明を取る予定だが、そのうえで同機にターボファン2基を装備してジェット化するというのである。ベクトルの方向はまさしく理論通りといってよいであろう。

 レシプロ機A500は、原型1号機が2002年7月11日に初飛行、目下デンバーのセンテニアル空港を拠点として試験飛行が続いている。最近までに75時間を飛行した。さらに試験機2機の組み立てが進んでいるらしい。

 機体は全複合材製。主翼後縁からは2本のブームが後方へ伸び、上へはね上がって垂直尾翼となり、その最頂部に2本のブームをつなぐようにして水平尾翼がつく。

 エンジンはコンチネンタルTSIO-550E(350hp)が2基。これを胴体の前後に取りつけ、それぞれが前と後のプロペラを駆動する。これにより、6人乗りの同機は最大速度460km/h、巡航410km/h、航続2,100km、実用上昇限度7,620mの飛行性能を持つ。総重量は2,850kg、自重1,900kg、燃料搭載量230ガロン。また主翼スパンは13.4m、全長11.2m、全高2.9m。

 プロペラは、それぞれ3枚ブレード、降着装置は3車輪の引込み脚で、機内は与圧されている。最近までの受注数は60機。


(初飛行時のA500)

 

 リック・アダムは元海軍のパイロット。民間ライセンスは最近取ったばかりだが、レシプロ機A500とジェット化のA700をもって、悲惨な状態にあるジェネラル・アビエーションの世界に革命を起こすというのがその野心である。

 アダムがジェネラル・アビエーションの世界を悲惨と見るのは、ここには長年にわたって新しい技術が注入されていないからという。そこでカーボン・ファイバーの機体をつくり、双発の推力を中心線上に縦に置くという形が生まれた。ただしA500が最終的な技術革新の目標ではない。

 最終目標は「先端技術の中から実証ずみのものを拾い出し、それらの論理的、効率的な組合せによって、安全で、経済的で、高性能の飛行機を生み出すことにある」

 A500の2つの推力を縦に置いた理由は何か。「双発の利点は1発が停っても、片発で安全が保てることにある。しかし離陸時のように低速、高出力で1発停止が起こると、飛行機は統御できなくなることがある。この問題をなくすのが2つの推力を中心線上に置くことだ」

「とりわけ操縦初心者にとって、今の双発機に見られるような、2つの推力を左右に並べた形では安心できない」

 なおA500はグラス・コクピットで、飛行データやエンジン・データは液晶画面にディジタル表示され、操縦桿はジョイスティック。エンジンにはFADECがついているからプロペラ・セッティングや燃料流量は自動的に調節される。。

 こうしたA500は2003年半ばまでに型式証明を取得し、初年度は25機、次年度は50機を生産する予定。機体価格は935,000ドルと安く設定されている。


(アダムA500)

 

 このA500レシプロ機をジェット化するのがA700である。機体部品の8割はA500と共通。主翼も、2本のブームから成る尾部もレシプロ機と同じものである。胴体だけが長くなり、後部にトイレがつき、高度12,500mを飛ぶために与圧が強化される。

 エンジンはウィリアムス・インターナショナルFJ33ターボファン(推力540kg)が2基。

 当然のことながら、グラス・コクピットになっていて、いくつかの大きな液晶画面に飛行、航法、通信のデータが表示される。また気象レーダーや地形および周辺航空機の有無なども表示される。

 最大巡航速度は630km/h、航続2,035km。離陸滑走路長900m。機体の大きさは、主翼スパンが13.4mでA500と変わらず、全長が12.4mと長くなる。全高は2.9m。

 機内は対抗馬と目されるセスナ・サイテーション・ムスタングよりも大きい。ゆったりしたキャビンにパイロット2人、乗客4人が乗って、高度12,500mを気象条件に影響されることなく、快適に、安全に、高速で飛ぶことができる。

 A700の初飛行は2003年後半。2004年末には量産機の引渡しを開始する計画という。機体価格は200万ドル弱である。

(西川 渉、2002.11.4) 


(A700完成予想図。冒頭の口絵も) 

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