AMTC2009の開催と安全 今月26日(月)から3日間、米カリフォルニア州サンノゼでAMTC2009(Air Medical Transport Conference)が開催される。筆者も出かける予定だが、世界中から航空医療関係のドクター、ナース、パラメディック、パイロット、運航管理者など、私のような野次馬も含めて、例年通りならば2,500人ほど参集するであろう。
大ホールでは、救急装備をした多数のヘリコプター実機も展示され、医療機器など150社以上の展示が並ぶはずである。
昨年は、この3日間に160題の講演、講義、調査結果、研究発表などがおこなわれた。今年はそうした中で安全の問題が最大の話題になるに違いない。もちろん医学上の問題も脳外傷(TBI)などが主要なテーマになるはずである。
救急ヘリコプターの安全に関しては、今年もシカゴ大学のアイアラ・ブルーメン教授の講演が予定されている。昨年ミネアポリスで開かれたAMTC08でも教授の講演には大勢の人が詰めかけた。というのも、救急ヘリコプターの事故は今やアメリカの社会問題にもなっているからで、今年2月ワシントンで米国運輸安全委員会(NTSB)が41人の関係者を集めて3日間にわたる公聴会を開いたのもそのためであった。
この公聴会で、ブルーメン教授の示した救急ヘリコプターの事故多発の状況をまとめると下表のようになる。
年 事故総数 死亡事故 死亡事故率 死 者 1999
10 3 30.0% 10 2000
13 4 30.8% 11 2001
13 4 30.8% 5 2002
14 5 35.7% 9 2003
19 4 21.1% 7 2004
14 6 42.9% 18 2005
17 6 35.3% 10 2006
12 3 25.0% 5 2007
11 2 18.2% 6 2008
13 9 69.2% 29 合 計 136 46 33.8% 110 すなわち、1999年から2008年までの10年間に136件の事故が発生し、そのうち46件が死亡事故であった。死亡事故の割合は平均3割強だが、2008年だけは7割近くまで跳ね上がった。したがって死者の人数も、29人と極端に多くなり、この年がヘリコプター救急史上最悪の年といわれるゆえんである。
ところが今年は、救急ヘリコプターの事故が1件だけですんでいる。1件だけといっても喜ぶわけにはいかないが、9月25日サウス・カロライナ州の救急ヘリコプターが病院で患者をおろしたのち、拠点基地に戻ろうとして悪天候の中で墜落したものであった。
実は一昨年のAMTCでも、ブルーメン教授は講演の中で「今年は幸いにも死亡事故が全くない」と語った。2007年9月のことで、まだ3ヵ月余り残っていたが、12月に入って立て続けに2件の死亡事故が発生した。
今年も1件だけですむかどうか、油断はならない。
今年の1件の事故は9月25日、サウスカロライナ州ジョージタウン付近で発生、パイロット、フライトナース、パラメディックの3人が死亡した。
ヘリコプターはオムニフライト社のユーロコプターAS350B2単発機。夜中の11時30分頃の事故で、それより2時間ほど前の午後9時35分頃チャールストンの病院で患者をおろし、90マイルほど離れたコンウェイの基地へ戻る途中であった。
ヘリコプターがチャールストンの病院を飛び立ったときの天候は比較的好かった。しかし23分ほど飛んだ頃、小雨が降りはじめた。そしてコンウェイに近づくと悪くなり、そのためジョージタウン空港へ向かうと伝えてきた。この地域一帯は当時、雨であった。
間もなく、ヘリコプターは乱気流の中に入り、降下したことが当時のレーダーに残された記録で分かっている。墜落時の天候は激しい雷雨に変わっていた。
オムニフライト機は飛行中、自社の通信センターと15分ごとにポジション・レポートの交信をすることになっている。パイロットからの最後の交信は11時16分頃だったが、それから15分後には緊急通信もないまま交信が途絶え、異常事態発生ということになって、11時半頃から警察の捜索が始まった。
上空から見た事故現場事故機の残骸が見つかったのは午前2時ごろ。ジョージタウン空港から1マイルほど南へ下がった木立の中であった。
墜落現場の周辺の樹木は10mくらいの高さにある枝が折れるなど、ヘリコプターの当たった跡があり、機体は地面に60°の角度で衝突していた。機首の方位は156°。やわらかい地面には衝撃のために深さ1m近い穴ができていた。
これまでの調査では、飛行中にトランスミッション、主ローター、尾部ローター、その他の構造部分などに機械的な異常が発生したような痕跡は見つかっていない。エンジンも墜落の瞬間まで正常に作動していたと思われるし、火災も起こしていない。ただし墜落後炎上し、ほぼ完全に燃えつきた。
原因は悪天候かと思えるが、まだそう決まったわけではなく、NTSBはあらゆる原因を想定して事故調査を進めている。
オムニフライト機の残骸を見る事故調査官(西川 渉、2009.10.22)
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