<吹き荒れる嵐>

ユナイテッド航空の危機

 

 日本では8月のお盆に里帰りする人が多く、この時期には汽車や飛行機が家族連れで混雑する。同じようなことがアメリカにもあって、11月下旬の感謝祭とその後の日曜日にはさまれた何日間かの連休がエアラインの稼ぎ時だそうである。

 しかるに今年は旅客が少なく、2年前にくらべて10〜15%減ったらしい。しかも1人当りの平均運賃は18%減というから、合わせて3割減というのが業界全体の売上げであった。結果として、2002年は90億ドルの赤字になるだろうという予想も出ている。 

 米エアライン業界の不調は、昨年の9.11テロの影響と景気の後退という二重の要因が重なったものである。人びとは航空旅行を怖がるようになり、不景気のせいでビジネス客も減少、いざ覚悟を決めて出かけてくれば空港では長い列をつくって待たされ、きびしい手荷物検査を受けなければならず、飛行機も時間通りには到着しないといった有様で、航空旅客の足はますます遠のいている。


ユナイテッド航空「9月11日の次は破産法第11条へぶつかりそう」

 こうした影響を最も大きく受けているのが、世界最大といわれたユナイテッド航空である。昨2001年のユナイテッド航空の決算は21億ドルの赤字であった。それが2002年はさらに増えて23億ドル、悪くすると25〜27億ドルに達すると見られている。資金的にも行き詰まって、倒産の瀬戸際に立たされた。

 このため労働組合に救援を求め、賃金カットの交渉がおこなわれた。交渉は難航したが、最後は組合側も会社の提案を受け入れ、12月2日には整備士組合も今年春に続く2度目の賃金カットに合意した。とはいうものの、これはまだ一時しのぎに過ぎない。根本的な苦境を脱したわけではなく、ユナイテッド航空の前途はまだ予断を許さない状況にある。

 それというのも、ユナイテッド航空の問題は9.11以前、何年も前から発生していたのである。その一つはオーバーキャパシティで、需要に対して供給量が大きすぎるという状態が長く続いてきた。そのうえ競争相手のアメリカン航空やコンチネンタル航空にくらべて運航コストが高いという状態にもあった。

 パイロット組合との間には小型のリージョナル・ジェットの導入を制限する協定もあった。これで需要が少ない路線にも大型機を飛ばさざるを得ず、合理的な運航ができなかった。

 そのうえ1994年の経営危機に際して社内持ち株制度を大規模に導入し、株式の55%が従業員のものとなっていた。そのため利益が減って配当金が下がると、賃金を上げて補うなど、不健全な状態が続いたのである。

 さらに外部では、格安航空会社が勢力を伸ばし、ビジネスジェットを使った定期便が飛ぶなど、新しい競争相手も出現、足もとの需要基盤そのものが浸食されてきた。そんな中で経営トップが二転三転し、9.11以降は新しいトップが登場した。

 昨年秋には、政府の航空輸送安定本部(ATSB)から9.11補償金として12億ドルを受け取ったが、それも大した効果は出ていない。


ユナイテッド航空「まだ離陸可能です。目下準備中ですから暫くお待ち下さい」

 ユナイテッド航空の現状は、従業員が2001年9月の10万人から8万人に減り、今後なお6,000人の解雇が予定されている。供給量も17%減って、向こう1年間でさらに6%減らされる。具体的には139機の大型旧式の旅客機を退役させ、発注ずみの機材も引き取り時期を2006年まで延ばすことにしている。

 ここ数日来のニュースでは、ユナイテッド航空がATSBに申請していた18億ドルの融資保証は拒否されたもよう。これで破産法第11条の申請は避けられないと見られるに至った。

 こうした苦境はユナイテッド航空だけにとどまらない。アメリカン航空は近く米国内線の大幅減便を予定しており、これに伴って客室乗務員1,100人を解雇すると伝えられる。

 エアライン業界の嵐はいっこうに収まりそうもない。


ユナイテッド航空「かつては世界最大だった。今じゃ安売りエアラインの餌食か」 

(西川渉、2002.12.10)

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