<破産法11条>

再建なるかユナイテッド航空

 

 ユナイテッド航空の危機について本頁に書いたのは20日ほど前であった。同航空はその直後、19億ドルの融資保証要請を米政府の航空輸送安定化委員会(ATSB)に却下され、破産法11条の申請となった。

 これでユナイテッド航空は230億ドルの負債をかかえて倒産し、その経営と財務は法律の保護と管理の下に置かれることとなった。運航はこれまで同様に続けられるもようだが、きびしい合理化を強いられることになろう。その内容は最近の米『アビエーション・ウィーク』誌(2002年12月16日号)に詳しい。

 たとえば1998年から2001年までの3年間に、1席1マイルあたりの人件費がどのくらい増加したか。また2001年のパイロット1人あたりの月間飛行時間がどのくらいだったかという数値が出ているが、他のエアラインとくらべて、ユナイテッドの数字は如何にも悪い。 

エアライン

1席1マイル当り
人件費増加率(%)

パイロット1人1か月当り
平均飛行時間

ユナイテッド航空

26

36

アメリカン航空

23

39

デルタ航空

22

45

コンチネンタル航空

13

49

ノースウェスト航空

12

40

USエアウェイズ

50

サウスウェスト航空

62
 

 パイロットの月間飛行時間が36時間とは、日米間の太平洋横断ならば月に1回半でしかない。あとは寝て暮らしているのかどうか知らぬが、誰よりも高給取りのパイロットがこんな状態では経営は成り立たないであろう。もっとも、他のエアラインのパイロットもたいして多いとはいえず、ヘリコプターのパイロットと余り変わらぬように見える。

 といって、ヘリコプターのパイロットが飛ばないというわけではなくて、その仕事は1時間に10回を超える離着陸をすることもある。ここに見られるような大手エアラインならば、長距離路線も多いだろうから、1回で何時間も飛ぶだろうに、それにしては少ないというのである。

 その結果、たとえばワシントン・ダレス空港からオークランドまでの米大陸横断便は、2002年第1四半期の1回あたりの運航費がエアバスA320を使って片道26,437ドル。ジェットブルー航空の18,914ドルに対して1.4倍であった。これでは競争に負けるはずである。


「あったわ、2772便、出発時刻10時45分、ゲート36番、目的地11条だって」

 

 これからは、そうした肥満体質を改善するために、当面まず役員や幹部を減らし、機材や施設を売却し、2003年初めにはパイロット350人、客室乗務員2,700人を解雇するという。

 財務内容の改善も厳しく求められる。これまでの旅客収入は2000年が169億ドル(約2兆円)だったが、2001年は138億ドル(1兆6,500億円)へ2割近く減少し、2002年はさらに15%減の20億ドルほど減るものと見られる。

 にもかかわらず、これから累積赤字を減らし、2003年2月末には9億6,400万ドル(約1,150億円)とし、9月末には9,800万ドル(118億円)と10分の1にまで抑えこまなければならない。

 そして翌月からは早くも黒字に転じ、1か月後の2003年10月末には累積黒字4,600万ドル、11月末には1億1,200万ドル(約135億円)の計上が求められている。この累積黒字は、さらに2003年末までに5億7,500万ドル、2004年5月末には13億8,300万ドルに達していなければならない。

 倒産した企業が1年以内に利益を挙げるという、こんな芸当が果たしてできるのか。なんだか奇蹟を頼むほかはないような気がするが、少なくとも今後1年半は破産法の保護下で再起をめざすことになる。


混雑空港「連邦破産裁判所」

 

 しかし、破産法の保護または適用を受けたからといって、必ずしも再起できるとは限らない。米エアラインの中で破産法11条を申請した企業の前途について、英『フライト・インターナショナル』誌(12月17日号)は予断は許されないとして、過去の実例を挙げている。そのもようは下表の通りで、パンナムやイースタンなど米国を代表する航空会社が再起できなかった。

 そのうえユナイテッド航空の債務の金額は、これらの実例にくらべて3倍にも達している。

 

エアライン

破産法申請

結  果

アメリカ・ウェスト

1991年

1994年再起

コンチネンタル航空

1983年と1991年(2回)

1993年再起

イースタン航空

1989年

1991年消滅

パンアメリカン航空

1991年

1991年消滅

TWA

1992年と1993年(2回)

2001年アメリカン航空が吸収


「赤字つづきで赤インクの補給が必要なのだ」

 

  ユナイテッド航空の経営がここまで落ち込んだ原因は、さまざまに考えられるが、その一つを再びアビエーション・ウィーク誌が書いている。それは本頁でも折りに触れて書いてきた「スコープ・クローズ」である。

 これは乗員組合と会社との間の、リージョナル・ジェットの使用を制限する労使協定で、アメリカ特有のものだが、経営の合理化を阻み、企業の競争力を弱める要因にもなってきた。なにもユナイテッド航空ばかりでなく、ほかのエアラインにも見られる取り決めだが、ユナイテッドの場合は次の通り、ことさら厳しい内容になっている。

 ほかにも、いくつかの条項があるが、これでは需要の多寡に応じて供給機材を入れ替えたり、人員を加減するなど、柔軟に運用するという合理的な経営はできようはずがない。リージョナル機をのけものにすると天罰が下るというのが、地域航空総合研究所の所長としての結論であります。

(西川渉、2002.12.29) 

【スコープ・クローズ参考頁】

 ボンバーディアCRJファミリーの全貌

 エムブラエル・リージョナル・ジェットの全貌 

 リージョナル・ジェット最近の動向

  
エアライン経営者は呼吸困難

(表紙へ戻る)