雪崩の危険は生命の危険

 スイス航空救助隊REGAのホームページの中で「雪崩の危険」に関する警告を見つけた。これから雪崩(なだれ)のシーズンに向かって、スイス・アルプスの救助の専門家からの警告である。

 それによると春先の美しい雪の上で、まばゆい陽光を浴びてスキーを楽しむ人は多い。そんなとき突如、背後から雷鳴のような轟音が襲いかかる。その雪崩のために死亡した人は昨シーズンのスイスで21人だった。

 これは全くの無駄死にである。というのは、さまざまな研究の結果でも、雪崩による死亡事故の半分以上が助かるはずだったからだ。

 雪崩の危険は生命の危険である。もしも雪崩に巻き込まれた場合、15分以内に発見された人は92%が生還している。しかし35分を経過すると生還率は30%に低下するし、2時間たてば生還者は3%しかいない。このもようは下図に示す通りである。

 

 これら犠牲者の3分の2は雪の下で窒息する。残り3分の1は怪我または体温低下によって死亡する。

 雪崩の事故は時間との勝負である。スキーをしていて雪崩に襲われ、仲間が雪の下に埋まったときは直ちに捜索にかからなければならない。それが仲間を助ける唯一最良の方法である。

 もちろんREGAは、知らせを受ければ直ちにヘリコプターを飛ばして、捜索犬を連れた救助隊と捜索器具を現場に送りこむ。けれども、わずかな時間差が命取りになることが多い。

 これはスキーヤーへの呼びかけである。諸君の娯しみの背後からはいつ何どき危険が襲いかかってくるかもしれない。実際に雪崩に遭遇したとき、その恐怖を逃れたあとはショックのために呆然たる思いであろう。しかし助かったからには直ちに行動を起こし、雪の下の人命救助に向かわなければならない。それが人間というものである。

(西川渉、98.2.1)

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