<ボーイング対エアバス>

2005年の勝負

 12月30日付けの米「シアトル・タイムズ」が、ボーイング社の1年を振り返る記事を書いている。

 ボーイング社は1月、717の生産を2006年をもって打ち切るというマイナス・イメージのニュースで2005年をスタートした。3月にはストーンサイファー社長が女性スキャンダルでCEOの座を追われ、9月は1か月間にわたる従業員のストライキに苦しんだ。製品の受注状況も初めのうちは決して順調とはいえなかった。しかし今、年の瀬を迎えて、民間ジェット旅客機の受注数がエアバス社を上回る結果となった。これは5年ぶりのことである。

「まさに、信じられないような逆転劇だ」とアラン・ムラーリ社長はいう。この6年間、ボーイング社は経営方針もしくは営業戦略が定まらぬまま、行く手を見失った船のように暗い海面をさまよってきた。この間、競争相手のエアバス社に追いつかれ、追い抜かれてしまったのだ。

 しかし今年、777の生産と売れゆきが順調に進み、787の開発と販売も軌道に乗って、受注総数は従来最高の1988年の記録(965機)に迫るに至った。

 今年これまでのボーイング社の受注数は確定895機である。まだ70機の差があるとはいえ、この数字は半月ほど前までの確定受注数で、その後も契約交渉が続いている。現に29日になって、アイスランドのアビオン・グループから777貨物機を4機受注したと伝えられた。ほかにも、たとえばエア・インディアとの間で68機の契約交渉が進んでおり、これらの交渉が成立すれば、年末までには最高記録を上回り、1,000機を超える可能性も出てきた。

 他方エアバス社の方は最近までの受注数が749機で、すでに勝負あったと見てよいであろう。

2005年大型ジェット旅客機受注数

ボーイング

エアバス

機  種

受注機数

機  種

受注機数

737

500

A320

591

767・787

217

A300・A350

123

777

130

A340

15

747

48

A380

20

合  計

895

合  計

749
[資料]シアトル・タイムズ紙、2005年12月30日付

 

 ボーイング社の優勢は金額面でも示されている。受注総額は推定1,000億ドルほどになったはずで、エアバスよりも300億ドルほど多い。特にエアバスは今年、A380の試験飛行がはじまったものの、売れゆきは思いの外に伸びなかった。それに対して、ボーイング機は新しい787の受注数が伸び、777も順調である。

 とりわけ787の新鮮なイメージは、顧客の気持ちをしっかりとつかんだかに見える。その背景には787が大きい割に軽量で、それゆえに燃料効率にもすぐれているというボーイング社のキャンペーンがある。経費がかからず、輸送効率のすぐれた機材というイメージである。

 これに対するエアバス社の対抗馬はA350である。しかし、エアバスの懸命のキャンペーンにもかかわらず、A330の焼き直しという印象がぬぐいきれず、新鮮味に乏しいものとなった。

 もうひとつ、今年のボーイング機が伸びたのは、機体価格の大幅引き下げによるものであろう。もとより単なる値引きとかダンピングではない。製造コストを切りつめることによって値段の引き下げが可能となったのである。たとえば2004年7月、中東のエミレーツ航空がA340長距離機を8機発注し、競争相手の777を閉め出した。このときシアトルでは、ボーイング社のトップが従業員に対し、777は高すぎる。このままではエアバス機に太刀打ちできない。何とかしてコストを引き下げなければならないと呼びかけた。その結果、今年11月エミレーツから大量42機の777を受注したのだった。

 こうした受注増によって、今年290機だったボーイングの生産数は、来年は400機近くに増加する予定。2008年までには500機に達し、2010年頃まで続くだろうと見られる。売上高も2010年までに今の1.5倍になるにちがいない。

 かくて今のところ、中型長距離機にかけるボーイングと超大型機が伸びるというエアバスの見込みは、ボーイングの方が正しかったように見える。最終的な結論が出るのはまだ先のことだが、新しい年もまたボーイング対エアバスの激しい競争は続くであろう。

(西川 渉、2005.12.31)

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