<ベル・ヘリコプター>

モデル429日本に飛来

 新しいベル429ヘリコプターに乗せてもらった。三井物産エアロスペース社のご厚意による。

 4月19日の東京ヘリポートは、久しぶりの明るい陽ざしで風もなかったが、上空に上がると薄いもやがかかって、写真撮影には余りよくない天候であった。そのもやの中から、太い棒のような建物が突き出しているのは、いま建設中の超高層タワー「東京スカイツリー」である。2011年に完成するらしい。

 操縦するのはベル社のアメリカ人パイロット。機体が米国籍(N10984)のためである。その代わり、横の副操縦席に日本人パイロットが乗って、飛行経路などを誘導し、コントロールタワーとの交信にあたりながら、「ただいまの速度130ノット」とか「140ノット」といった案内もおこなう。最大速度は150ノットである。

 機内は、主キャビンが5座席。いずれも前向きのゆったりした座席で、すわり心地も良い。もっとゆったりした向かい合わせの4座席にすればVIP乗用機になり、前向きばかりの6座席に増やせば総勢8人乗りの人員輸送や遊覧飛行に使える。

 主ローターは複合材製の4枚ブレード。尾部ローターも4枚ブレードだが、騒音を減らすために不等間隔に取りつけてある。エンジンはプラット・アンド・ホイットニーPW207D1(598shp)が2基。航続4時間の飛行が可能という。航続距離は750kmである。カテゴリーAの飛行や計器飛行も可能。


ヘリコプターから見た東京スカイツリー

 ベル429のカタログには石油開発、社用ビジネス飛行、報道取材、警察などの用途が挙げてあるが、本機の最大の狙いは救急飛行であろう。そのため、元フライトナースのサンドラ・キンケードさんを役員に迎え、2000年から2008年まで助言を受けながら開発してきた。

 キンケードさんは、テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学の看護学科を卒業後、同大学付属病院の救急ヘリコプター「ライフ・フライト」で9年余り飛び続けたのち、2000年から8年余りベル社の役員を勤めた。その間2年間、ビジネススクールでMBAの学位を取り、2002年から昨年までは国際航空医療学会 (AAMS:Association of Air Medical Services) の会長でもあった。

 この人の女らしい気配りが至るところに見られるのも、ベル429の特徴である。たとえば機内が薄暗くて患者さんに不安感を与えないようにというので、キャビンの窓ガラスはできるだけ大きく、後部の貝殻ドアにも透明な小窓がついている。

 この貝殻ドアの開閉はヒンジ(蝶番)ではなく、腕木によっておこなわれるので開口部が大きく、開けたときのドアも左右に広がらず胴体沿いに前方へ移動するような恰好になる。したがってローターのダウンウォッシュなどにあおられるようなことも少ない。

 また、貝殻ドアを開けたときのテールブームが高く取りつけてあるので、医師やナースは腰をかがめることなく、まっすぐ立ったまま患者の手当をすることができる。

 なお尾部ローターはテールブーム先端左側で、むき出しのまま回っているが、救急機としてストレッチャーを後方から出し入れする場合にそなえて、近くテールガードを取りつける予定。これは日本からの要求で、目下FAAのSTC(補足型式証明)取得の手続きが進んでいる。このガードは2008年秋、横浜で開催された国際航空宇宙展で展示されたモックアップ機についていた。

 またドアの機内上方に日本の車で見られるような把っ手がついていたり、インターコムが座席の肩の位置に取りつけてあったり、こまかい気配りが見られる。

 整備点検に当たっては、エンジン・カウリングが大きく開いて作業がしやすいとか。

 こうしたベル429は2007年2月27日、ベル・カナダ社で初飛行、2009年7月1日に型式証明を取得した。量産1号機は救急機として米エアメソッド社に引渡された。

 日本にも今秋輸入され、年内に浜松の聖隷三方原病院でドクターヘリの任務につく予定。将来は病院間の計器飛行も計画されている。


ベル429ドクターヘリの塗装案

 ベル429の最近までの受注数は約300機。公表された基本価格は1機あたり約500万ドルという。


滑走路へ向かってタキシング


離陸


ミス429と搭乗記念撮影

(西川 渉、2010.4.21)

 

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