航空の現代電脳篇 → ホームページ作法(10)

企業ホームページの失敗

 

 

 ベル社は、わが敬愛するヘリコプター・メーカーのひとつだが、ホームページの出来が良くない。昔は良かったけれども今年に入ってデザインに凝る余りか、利用者にとっては使いにくいサイトになってしまった。画面表示は遅いし、プリントはうまくできない。本頁にそのことを書いたところ、斎藤実昭さんから画面をはみ出した記事は紙を横に使ってプリントすればよいという示唆をいただいた。

 ところが今度は三井物産の野田真吾部長から、ベル社の画面左隅のあたりにプリント・マークがあるから、それをクリックすればよいというご教示をいただいた。余分なワクが取れて、普通の紙面にもうまく印刷できるようになるという。早速やってみると、わざわざ紙の設定を変えなくてもうまくプリントすることができた。

 しかし、それはそれでいいのだが、私のような素人にそこまで気づくのはなかなか難しい。ベルのサイトを見る人の何割がこの小細工に気づいているだろうか。おまけにベルの場合、ニュース・レリーズが遅くて古いのも問題だ。社外のソフト・ハウスに外注しているからであろう。

 古いニュース・レリーズも、もとより重要である。ベル427の初飛行がいつだったかというようなことを、ちょっと調べるにも都合がよい。しかし、それが生きるのは現状を知ったうえでの話である。427の開発が今どこまで進んでいるのか、その現状が不明のまま古い話だけを聞かされても3日遅れの新聞を読まされているようなものである。

 実際ベル社のニュース・レリーズの頁を見ると、11月11日現在ニュースの最新版は11月1日付だし、その前は9月8日付、もうひとつ前は8月28日付である。これだけの国際的な大メーカーが社外に発表すべきニュースが1〜2か月にひとつくらいしかないというのはおかしい。現に私は10月下旬のビジネス航空ショーで、ベル609民間型ティルトローター機の受注数が70機に達し、目下2〜3機の契約交渉を進めているから、間もなく72〜73機という発表ができるだろうという記者会見を聞いてきたばかりである。

 いったいベル社の広報担当者は何をしているのか。担当役員や社長は何を見ているのだろうか。

 ついでに、セスナ社のホームページもひどい。サイテーションについて、このほど一挙4機種の開発がはじまったとのことで、その詳細を見ようと思っても画面がなかなか出てこない。ベルよりも遅くて分単位で待たされる。JAVAなる仕掛けを起動しているためだが、いよいよ画面が出てきても青地の背景に青い小さい文字でちまちまと書いてあるので、よく読めない。青地の背景ならば、文字は黄色か白にすべきだろう。

 眼が痛くなるのを我慢しながら、それらしいところを探し当ててクリックすると今度は朱色の背景に変わり、ますます眼がチカチカしてくる仕掛けになっている。結局ニュース・レリーズなど詳しいことは分からぬままサイトを閉じる次第となる。

 ベルもセスナも、実はテキストロン傘下の姉妹会社である。だからホームページまで同じようなところへ外注して、同じように食い物になっているのだろう。気の毒というほかはない。

 このような企業のホームページについて、ヤコブ・ニールセン先生は「企業ウェブサイトの失敗」と題して、次のように書いている。

「平均して、ウェブサイトはうまく機能していない。ウェブサイトに向かって、何かをしようとしても、ほとんどうまくゆかない」という前置きをしたうえで、最近のオンライン・ショッピングに関する3つの調査結果を示す。

@ジェアード・シュプール氏が大規模コマーシャル・サイト15か所を調査した結果、目的達成までの総時間のうちの58%は、そのホームページに到達するのに費やされた。

Aゾナ・リサーチの調査では、ウェブ上の買い物客は、62%が最終的に自分の買おうとしたものを探しあてることができずに断念した。

Bフォレスター・リサーチが主要サイト20か所を調査したところ、利用者の使いやすさという基本原則にかなったサイトは51%しかなかった。半分が利用者無視のサイトである」

 このような調査結果にもかかわらず、当の企業の経営者たちは、ほとんどの人が何の自覚もしていない。フォレスターの調査によれば、辛うじて56%の経営者がホームページは画面表示の「速いこと」が重要と答えた。しかし実際に自社のホームページの利用テストをしたことのある人は24%に過ぎなかった。

 では、使いにくいウェブサイトをこのまま放置しておけばどうなるか。その企業に対して次のような影響を与えるという。

@利用者が最終的に目的の頁へたどり着けなかったために失われた売上高は、ほぼ5割に達する。

Aこのような失敗を経験した利用者は、4割の人が二度とそのサイトには戻ってこない。

 こうした問題を解決するにはどうすればいいか。サイトを閉鎖するほかはないというのがフォレスターの結論である。サイトを開設したまま放置しておけば、その企業の印象や名声がますます悪くなるからだ。

 ほかにも解決策はあるかもしれない。たとえばサイトの設計にかける費用を倍増するといったやり方である。いま何千ドルという費用をかけているならば、それを何十万ドルまで増やしてもいい。企業の名声が損なわれたり、売上高が半減するのにくらべれば安いものである。

 これからの企業サイトは使いやすくなければならない。その設計を外部に依頼する企業は、まず使いやすさを基本にするようデザイナーに要求するべきである。使いやすさを考えないサイトは、その企業に大きな損失をもたらすであろう。

 

 以上がニールセン先生の論旨だが、ここでもう一度、私の体験に戻ると、ボーイング社のホームページはまことに素晴らしい。画面は白地の背景にグラデーションのかかったきれいなカット写真をあしらい、読みやすくて、何よりも動きが速い。同時に内容も速くて、ニュース・レリーズはその日のうちに掲載される。

 新聞記者の諸君も、わざわざ記者会見に出かけなくても、インターネットを見ていればボーイングの動きが分かるかもしれない。むろん現場に行かなければ詳細を質問したり、突っ込んだ話を聞くことはできないのだが、記者を怠け者にするほどの出来である。

 もうひとつボーイングのサイトにはジャーナリストのための個人頁が設定されている。そこに自分の名前や所属を登録しておくと、「ウェルカム、西川さん」といった呼びかけの文字を筆頭に、記事の執筆に使うためのいろんな情報があらわれる仕組みになっている。ボーイング創業当時の歴史上の写真も手に入れることができる。決して待たされることなく、こちらの欲しいものを取り出すことができるのである。

 ベルとボーイングを比べて、やや極端な言い方になってしまった。そこまでの差異はないという反論もあるかもしれぬが、ベルのウェブサイトの改善を望みたい。インターネットのホームページは今や企業の顔でもある。

(西川渉、98.11.12、98.9.13改)

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