テキサス砂漠に舞い降りた白頭鷲

 

 

 昨日のこと、3月6日(金)の夕刻、ベル・ヘリコプター社のテリー・スティンソン社長の記者会見を聞いた。その中で、民間型ティルトローター機BB609の受注数が63機になったという話が出てきた。20日前の国際ヘリコプター協会(HAI)大会での発表では61機ということだったから、私はこれはと思って聞き耳を立てた。

 あとで直接話をする機会があったので、聞いてみると2日前にシンガポールのリージョンエア(Region Air)から2機の注文が出たのだという。私は初耳だったので、そのことをベル社のニュース・レリーズか何かでアナウンスしているのかどうかを訊ねると、どうやらまだらしい。今日の記者会見が初めてだったようで、それならば私のホームページで書きましょうということにした。

 それを聞いてスティンソン氏も、私の名刺に印刷してある本頁のアドレスを確かめていたが、日本語だからちょっと読んでもらうわけにはいかぬかもしれない。が、そういうわけで、本頁は世界で初めてモデル609の受注数が63機に伸びたことを報じるニュースではないかと思う。

 なおスティンソン氏は1974年からユナイテッド・テクノロジー社の役員を勤めたのち、1991年にテキストロン社に移り、1997年10月からベル・ヘリコプター・テキストロン社の社長兼CEOに就任した人で、まだ4か月くらいしか経っていない。

 昨日の東京都内での記者会見のもようは以下の通りである。

◎ BB609の受注数は2日前に63機に達した。シンガポールからの注文である。これで発注会社の数も37社となった。うち1社は三井物産で、3機の注文を貰っている。

 BB609の開発は、2月12日に公表したように、ボーイング社が民間ヘリコプター事業から手を引き、ベル社単独で進めることになった。ただし目下、ボーイング社に代るパートナーを探しており、取りあえずテキストロン・エアロストラクチャー社がリスク負担で計画に参加する予定。同社はこれまでもV-22の尾翼の製造をしてきた。開発への参加は、ほかにもメーカー何社かと話し合いを進めている。

 BB609の最終組立ては、ボーイング社の撤退の如何にかかわらず、それ以前からテキサス州のベル社工場でおこなうことに決まっていた。

 今後10年間の同機の販売見通しは350〜450機である。

 

◎ ボーイング社の民間ヘリコプター事業からの撤退により、同社が保有していたMDヘリコプターの製造販売権は、MD500シリーズと新しいMD600Nについてベル社が買い取ることになった。

 これをカナダのミラベル工場で製造し、日本向けには三井物産を通じて販売する。これまでMDヘリコプターを製造してきた旧マクダネル・ダグラス・ヘリコプター社のメサ工場は、今後もボーイング社の下でアパッチなどの軍用ヘリコプターの製造をつづけるもようだが、ベル社の関知するところではない。

 MD900双発機はベル社の製品に合わないので、譲渡を受けなかった。同機の価格は新しいベル427にくらべても150万ドルほど高い。

 

◎ ベル206Bジェットレンジャーの後継機については、過去7〜8か月間検討してきた。しかしMDヘリコプターを買収することになったので、改めて再検討したい。MD機のノーター技術などを採り入れた機能を考えたい。

 モデル412の後継機については、今年後半に決定する。3年後には全く新しいメディアム・ツインを考えたい。

 

◎ 軍用機に関しては、BB609ティルトローター機について米海兵隊が訓練機としての採用を検討中。また沿岸警備隊も関心を示している。

 軍用型ティルトローター機、V-22の量産準備も予定通りに進んでいる。

 日本のAH-X(次期対戦車ヘリコプター)に対してはAH-1Z(ワンジー)を提案する予定。

 以上のような記者会見を聞いて、私の感じたのは、スティンソン社長が就任間もないこともあって大いに張り切っているということ。この人はF-16戦闘機を初め、ヘリコプターを含むさまざまな航空機の操縦資格を持ち、ジョージア工科大学の評議員というから工学系の素養を持つのであろう。コネチカット州兵大佐ともいい、精悍な感じを受ける。

 その勢いをもって、BB609の全リスクを引き受け、MDヘリコプターを買い取って既存の同級ベル機と並行生産し、3年くらいのうちに2〜3種類の新機種を開発するというのだ。

 テキサスの砂漠に大輪の花を咲かせようという気概を感じた――といっても、この人物にはふさわしくないかもしれない。砂漠に舞い降りた白頭鷲の迫力というべきであろうか。

(西川渉、98.3.7)

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