<ベル・ヘリコプター>

新しいHTR構想

 ベル・ヘリコプター社がティルトローター機とティルトウィング機の合いの子のようなハイブリッド・タンデム・ローター機(HTR)という構想を温めている。

 今の軍用ヘリコプター、AH-64攻撃機やUH-60多用途機の後継機としての用途をねらうもので、主翼の可動範囲は25°、それにサイクリック・コントロールによって5°の傾きが加わる。

 その程度の動きでありながら、速度は400q/h以上に達する。V-22ティルトローター機はプロップローターを垂直になるまで95°の範囲で動かし、555q/hの速度性能を持つ。HTRは、それには及ばないが、ヘリコプターの最大速度315q/hよりもかなり速い。航続距離は1,400km余り、地面効果外のホバリング高度は4,200m以上と計算されている。

 航空機としての形状は主翼両端にエンジンを取りつけ、その上にローターがつく。主翼が上向きに25°傾いたときにローターの回転面は水平になり、これで垂直離着陸が可能となる。いったん離陸すると主翼を水平に戻す。するとローター回転面は前向きに25°傾斜して推進力を生じ、前進速度が増すと共に主翼が上向きの揚力を発揮して、機体重量の一部を支え、ローターにかかる荷重が軽くなり、400q/h以上の速度性能を発揮する。

 このようなVTOL機は、これまで誰も考えなかったというのが、ベル社の主張。独創性を誇る言い分だが、HTRはまだ机上の構想で、実際に実験機や原型機を製作する段階には達していない。米陸軍がAH-64やUH-60の後継機を要求すれば、HTRも具体化するかもしれぬが、今のところはアイディアの発表によって、政府の関心を呼ぶのが目的といったことらしい。

 だが、米陸軍も当分は新しい機材を導入する考えはない。HTRが実際に飛ぶ日は、実現するとしても、残念ながら相当先のことになるであろう。

 しかし面白いアイディアではある。

(西川 渉、2009.7.16)

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