カンボジア救援機の派遣




 7月12日、橋本首相が防衛庁に指示を出し、カンボジアの内乱から邦人を救出するために自衛隊のC-130輸送機を飛ばしたことについて、社民党の土井女史が「現地からの救出要請はあったのか」とか「周辺諸国がどう思うか」などと発言するのを聞いて驚いた。


 この人は「助けてくれ」と言われなければ、目の前で誰かが危険にさらされていても助けないのだろうか。瀕死の状態では「助けてくれ」と言えないことだってあるはず。カンボジアの内乱の中を逃げまどう日本人が、どのようにして官邸や霞ヶ関に「助けてくれ」と言えばいいのか。

 あるいは自分の子供がおぼれているのを救うために、棒を差し伸べたからといって、それを見ている人が、自分がぶたれるとでも思うだろうか。まことに恐るべき教条主義の持ち主である。これが同じ日本人かと思った。

 こんな呆れた発言を、NHKもよくゴールデンアワーのTVニュースで放送するものである。論評にも値しないと思うのだが、天下の国営放送が莫迦真面目な顔をしてニュースとして取り上げれば、それだけで発言に重みがつく。まことに困ったものである。


 しかしまあ、よく聞いてみると発言の中に「こちらには説明もなく」という文句が挿まれている。「仁義をきってもらいたかったのよ」ということであろうか。好意的に解釈すれば、メンツをつぶされたと言って駄々をこねているだけなのかもしれない。

 けれどもカンボジアの内乱では、日本人だって1人死亡している。続いて何が起こるかもしれないときに、駄々をこねたり、それをなだめたりしている暇などない。いちいち説明している間に、また死人が出たらどうするのか。

 それでなくても、日本政府の対応はまたしても遅かった。米国を初めとする外国は次々と救援機を飛ばし、自国民を救出に行っているのだ。その外国機で救出された日本人の中からも、日本政府は何をしているのかといった声が聞こえてくるではないか。


 蛇足をつけ加えるならば、日本の政府専用機――真っ白な胴体に日の丸の尾翼をつけた747は、購入時の目的に外地の邦人救出という一項目があったはず。首相や閣僚の外遊のためだけに買ったわけではないのだ。豪華な乗用機に一般人をのせて汚されてはかなわぬとでも思ったのかもしれぬが、あの747ならばマニラで燃料補給をしたりせず、タイでもカンボジアでもまっ直ぐ飛べたであろう。土井女史もどうせ駄々をこねるなら「こういうときにこそ使うべきではないのか」くらいは言って貰いたかった。

(幸兵衛、97.7.13

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