米コミューター航空協会(RAA)が、恒例によって、前年の輸送実績を発表した。その概要は別表の通りである。
まず1996年の米ミューター航空の乗客数は6,190万人。前年にくらべて470万人増、8.3%の伸びである。そのうえ乗客1人当たりの搭乗距離も3%増の370キロに達したことから、旅客輸送距離(RPM)は228.8億人キロで、前年比11%増となった。
座席利用率も、これまで長年にわたって5割以下だったものが、前年比3ポイント増の52.98%まで上がった。これは乗客数が増えたことによるが、その一方で便数が減っており、両者相まって合理化の結果となった。
使用機材もわずかながら大きくなった。1978年の航空自由化の当時にくらべると20年近くかかって2倍以上になったわけだが、この傾向はこれから急速に加速されるものと見られる。具体的にはコミューター・ジェットの増加による機材の大型化、高速化、長距離化である。
その結果、旅客輸送距離は10.4倍になった。これは取りも直さず、業界全体の事業規模が10倍以上に拡大したことを示すものであろう。
しかしコミューター航空会社の数は減少した。もっとも直線的に減ったわけではなく、自由化と共に増えはじめ、1981年に246社のピークに達したのち減少に転じたものである。現在では20年前の4割になったが、業界の規模は10倍以上に拡大しているので、1社当たりの事業としては25倍以上に拡大したことになる。
かつて企業数の減少だけをとらえて、可哀想なスチュワーデスが子供をかかえて職を失ったなどと、航空の自由化を悪夢とする論調があった。その奇妙な論文は我が国を代表する国民雑誌が掲載し、このコラム(1994年11月24日付)では如何におかしいかを取り上げたが、これは不況による企業の倒産や会社の減少とは異なる。
実際は合併などの統合によって減ったわけで、個々のパイロットや整備士が職を失ったわけではない。むしろ使用機材の数も大きさも、1機あたりの年間飛行時間もそれぞれ2倍――ということは、航空従事者の作業量は単純に考えれば8倍にもなったわけで、雇用者数は少なくとも4倍以上になったであろう。
かくてアメリカのコミューター航空は、20年前から今もなお大きな成長を続けている。その役割は、米航空輸送システムの中でますます重要になってきた。
その前途を、アメリカ政府はどう見ているか。今年3月に公表されたFAAの予測では、エアライン業界全体の乗客数が1996年の6億500万人から2008年までの12年間に10億人近くまで増えるだろうとした上で、コミューター航空については1997年が6,250万人となり、2008年までの12年間に毎年平均5.3%ずつ成長し、1.7倍の1億690万人まで拡大すると見ている。
また、コミューター航空機数は、1996年の2,090機を基本として、2008年には2,909機になるという。これは年率平均2.8%の伸び率で、最終的には1.4倍になるという見方である。
このように乗客数の伸びに対して使用機数の伸びが小さいのは、機材の大型化と高速化が進むためで、当然にコミューター・ジェットの増加を予測している。今のところ米国内で飛んでいるコミューター・ジェットは、わずかに75機――コミューター機全体の3.5%以下だが、各社の発注状況からして今後急速に増加してゆくことは間違いない。
その用途は当面、今の大手エアラインが大型ジェット旅客機を飛ばしている路線で、経済効率を高めるために補完的に小型ジェット旅客機を投入しようという考え方が強い。これは大手航空会社との資本提携や業務提携が進む中で、路線の長距離化や旅客の乗り換えを、違和感なく円滑におこなうため。キャビンも大型旅客機なみの内装がほどこされている。
そのうえで将来は、コミューター路線そのものの長距離化へ進むであろう。つまり小型ジェットによって地方都市と地方都市を直接結び、ハブ空港をバイパスするような運航方式が出てくる。乗客もハブを飛び越えて目的地へ直行できるのである。もっとも、このハブ・バイパス路線は、欧州ではしばしば見られる。
こうしたジェット化の動きは、乗客のジェット選好性にも応ずるものである。また技術的な進歩によって快適で経済的な小型ジェットの開発が進み、実現しつつあることも事実である。
といって、今のハブ空港を中心とするターボプロップ機のフィーダー運航がなくなるわけではない。近距離路線におけるターボプロップの経済性は今後とも必要である。特に需要の少ない小さな空港にはターボプロップが最適であり、滑走路もジェットを受け入れられるほど長いところは少ない。
ちなみに現在、主要空港でどのくらいのコミューター機が飛んでいるか。FAAによれば、シカゴ・オヘア空港を出発する国内便の21.9%がコミューター便である。またダラス・フォトワース空港では31.9%、ロサンジェルス国際空港では35.5%、マイアミ空港では44.5%、ボストン国際空港では45.3%がコミューター便となっている。
つまり、こうした大空港でも3割から半分近くがコミューター機の発着で占められているのであり、地方空港へ行けばもっと比率が高まり、7割、8割と増えてゆき、コミューター航空だけしか飛んでこない空港もあることはいうまでもない。
コミューター便がここまで増えてくれば、空港施設もコミューター航空に対応して改善が進むことになる。これまでは空港の片隅からバスに乗って機体のそばへ行き、そこから外を歩いてエンジンの排気ガスを吸いながらプロペラ機に乗るのがコミューター航空だった。それがターミナルから直接機体に乗りこめるようになってきたのである。
かくて米国では、コミューター航空は今や国民の足となってきた。それは過去20年間順調に伸びつづけ、今後なお新たな飛躍に向かって成長を遂げつつある。航空の自由化は米国のコミューター航空に関する限り、成功であったといってよいであろう。
(西川渉、『日本航空新聞』97年6月19日付掲載)
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1978年 |
1995年 |
1996年 |
96/95年比 |
96/78年比 |
会 社 数(社) 乗 客 数(万人) 旅客輸送距離(億人km) 座席利用率(%) 飛行便数(万便/年) 乗入れ空港数(か所) 平均搭乗距離(km) 航空機数(機) 平均座席数(席/機) 平均飛行時間 |
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