フランク・ロイド・ライト(3)

シティコプターの発想

 

 

 ここ数日来の頭の中の思考の流れにまかせて、もう一度フランク・ロイド・ライトを取り上げたい。取り上げるのは下の絵で、私が昔から気に入っているもののひとつである。理由はご覧の通り、そこら中をヘリコプターに似た回転翼を持つ円盤のような自家用機が飛び回っているからにほかならない。

 この絵は、ライトが1958年に描いた「リヴィング・シティ」(The Living City)と題するものである。絵の解説によると、人の住環境が如何にあるべきかという彼の考え方をかいま見せてくれるもので、アメリカの都市は当時すでにひどい病気にかかっているというのがライトの見方であった。その病気を治して、人工的な建築と自然とが調和のとれた景観をつくるように提案したのがこの都市の絵である。

 同時にライトは同じ表題の本を書いているが、私は読んでいないので、ここに彼の思想を説明することはできない。

 さて、この絵の右下に円盤のようなものが着陸している。上図ではよく見えないが、下のように拡大してみると右側のドアから人が乗りこもうとしているし、左側の透明な窓ガラスを通して機内に赤ん坊を抱いてすわっている女性が見える。停まっているところは、はるか下の方にハイウェイが走っているところを見ると、高層住宅のテラスらしい。つまり、これは極めて個人的、家庭的な空飛ぶマイカー「シティコプター」なのである。

 そして誰もがどこでも、このシティコプターに乗って飛び回れるように、各家庭はもとより、町の至るところに駐機場が設けられる。その多くは駐車場の上に屋根をつけて、その上をヘリポートにするという考えだったらしい。

 では、「シティコプター」の構造はどうなっているのだろうか。冒頭の題字下に掲げたように、外観は空飛ぶ円盤のような形で全体は透明な材質でおおわれ、頭上では4枚ブレードのローターが回り、下面には独楽の心棒のような脚が細長く突き出ている。地上の駐機場には、この一本足を受ける穴があいていて、その穴の中に脚を突きさして停まる仕組みらしい。いかにも建築家らしいアイディアだが、操縦する人はよほど上手にホバリングをする必要があり、慣れないうちはちょっと大変かもしれない。

 さらに駐機中のローターは花びらがつぼむように、上方へ閉じてたたむことができる。これで場所を取らなくてすむし、夜中に風が吹いても大丈夫であろう。なお、これらの構造に関する説明は、私が10年以上前に調べたものである。今そのときのメモを見ながら書いているのだが、オリジナルの文献が何であったか、どこに行ったか思い出せない。

 下の絵は自然の地形と植生を残しながら、ところどころに職住近接の高層ビルが建つ未来都市の景観が描かれている。何だか田舎町のようにも見えるが、空にはシティコプターが飛び交い、手前の大きな川には客船が川を上下している。動力は原子力で、1958年の当時は原子力が未来へ向かう花形エネルギー源とみなされていた。

 フランク・ロイド・ライトは、こうした理想の都市構想を発表し、その中にヘリコプターを飛ばしてまもなく、1959年4月9日、91歳で死去した。長命ではあったが、まだまだ多くの発想が頭の中にあったにちがいない。

(西川渉、2002.1.15)

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