RAH-66コマンチ偵察/攻撃ヘリコプター

 

 ボーイング社とシコルスキー社が共同開発中のコマンチ・ヘリコプターは去る3月30日、原型2号機が初飛行した。この飛行はフロリダ州ウェストパーム・ビーチのコマンチ・チーム開発飛行センターで、東部時間午後12時35分から30分以上にわたっておこなわれ、基本的な操縦操作と操縦特性の確認、最大80ktでの前進飛行、高度150mでのディジタル操縦系統の評価などが試みられた。

 2号機の主な目的は、コマンチの任務遂行に使われるミッション・エクィップメント・パッケージ(MEP)の飛行試験。MEPは21世紀の戦闘および偵察ヘリコプターの「頭脳」となる統合システムで、敵目標の捕捉、照準、通信、航法などの機能を有する。

 

コマンチの特徴

 RAH-66コマンチ・ヘリコプターは米陸軍向けの偵察/攻撃機である。98年秋のファーンボロ航空ショーで初めて実機が公開され、ショーの中で最も注目を集めた航空機のひとつとなった。

 開発計画は当初約5,000機という規模で発足したが、作業が進むにつれて予算が減らされ、日程が先送りになって、一時はどうなるかと思われた。しかし史上初のステルス・ヘリコプターともいわれるように、文字通り身を低くして政治的な攻撃に耐えてきた甲斐があったのか、どうやら生き返ったらしい。というのは今、米国防省が最も力を入れているのが軍の電子化計画で、指揮、指令、通信、情報、監視、偵察などの電子情報能力を高めるために、コマンチ計画もその一環として開発日程が2年ほど早まる気配も見えてきたからである。

 ファーンボロのショー会場に展示されたのはC-5大型輸送機に積みこまれてきた原型2号機。まだ飛行前の機体であった。1号機は、すでに1996年1月に初飛行している。以来、一般公開までの1年8か月のあいだに105時間しか飛んでいないのは計画が引き延ばされたためだが、この間ダイブ速度378km/h、水平飛行速度324km/hに達した。324km/hというのは、実用軍用ヘリコプター中では最も速い速度である。横進速度は139km/h、後進速度は130km/hを記録している。

 コマンチは敏捷な運動性にもすぐれているが、最大の特徴は何といってもステルス性である。これでレーダー、赤外線、音響などによる敵の探知を避けることができる。ほかに、米陸軍を代表する21世紀の戦闘ヘリコプターとして、次のような特徴を持っている。

・基本構造は全複合材製

・操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ方式

・操縦桿は3軸のサイドスティックで、独自のトリム機構をもつ。尾部ローターもこれで操作して方向操縦を行うため、パイロットの足もとにペダルはない。

・エンジン、電子機器、油圧装置などのサブシステムは全てディジタル・コントロール方式

・機内環境はエアコンばかりでなく、放射能物質、化学物質、生物兵器などの侵入を防ぐため、与圧機構をもつ

・敏捷な急旋回飛行が可能

・音声による各種の警報装置をそなえているので、パイロットは計器パネルを常に見ている必要がない。

・電子装備は、最新のエレクトロニクス技術によって数秒間で戦場をスキャンし、敵味方を識別して攻撃目標をとらえる。通信機器も最新の装備で、戦闘情報のディジタル伝達が可能。陸軍内部ばかりでなく空軍や海軍との通信もできる。

 こうしたコマンチ・ヘリコプターは、上述のように2号機も飛びはじめた。同機には作戦遂行のためのMEPとして、コンピューター、航法装置、通信機器、敵識別装置などが装備され、評価試験がおこなわれる。つづいて6機の前量産型がつくられるが、これらはさらに本格的な将来の量産型と同じ実戦装備をして、2003年から2か月に1機ずつ米陸軍へ引渡される。

 つづいて2004年と2005年に8機の量産型が納入され、実用評価を経たうえで2006年から配備につく予定。こうして米陸軍は向こう20年間に1,292機のRAH-66を調達する計画である。

 

 

コマンチの足跡

 RAH-66コマンチの詳細を見る前に、このヘリコプターがここまできた足跡を簡単に振り返っておきたい。

 はじまりは1981年、米陸軍がLHX(Light Helicopter Experimental)と名づける新しい実験機の設計コンセプトを、ヘリコプター・メーカー各社に呼びかけたことであった。LHXの役割はUH-1、AH-1、OH-58、OH-6といった4種類のヘリコプターの後継機となるもので、総数5,000機を調達するという想定である。この機数はのちに半分以下の2,096機に減り、今では1,296機まで減らされた。

 LHXの提案要求に対して、ベル・ヘリコプター社と当時のマクダネル・ダグラス・ヘリコプター社はチームを組み、OH-58のローター機構を基本とする4枚ブレードのベアリングレス・ローターを持ち、尾部ローターをなくしてノーター機構とする設計を提案した。エンジンは提案要求に定められたT800を装備、ヘルファイヤまたはスティンガー・ミサイルを取りつけるという構想である。

 一方、ボーイング社とシコルスキー社もチームを組んで共同提案を出した。全複合材製の機体に5枚ブレードの主ローターを持ち、T型尾翼の垂直フィンの中にファンをはめこんで尾部ローターの代わりとするものである。コクピットは前後2席のタンデム複座、操縦系統はフライ・バイ・ライト方式であった。

 そして1988年6月21日、米陸軍が改めて設計要求を出し、ベル.MDの「スーパーチーム」とボーイング・シコルスキーの「ファースト・チーム」が、それぞれ1億5,800万ドルの契約を受け、2年間で機体の詳細設計、コクピットの製作、作戦装備パッケージのモックアップの製作などに着手した。

 こうして米メーカー4社が二た手に分かれて開発競争を演じた結果、1991年4月5日に結論が出された。ボーイング社とシコルスキー社のファーストチームが実機の開発をおこなうことになったのである。同時にLHXの呼称はRAH-66コマンチと変更された。

 「コマンチ」とはいうまでもなくアメリカ・インディアンの部族名である。この部族は闘いの場に臨むと頭脳的な作戦を立て、馬を駆って神出鬼没の勇敢な動きをするので有名だった。RAH-66がその名を取ったのも、機動力、精度、スピード、攻撃力、単独行動、ステルス性、生還性など、主要な特性をコマンチ族にあやかろうとしたからであろう。

 しかし、コマンチ・ヘリコプターの開発は、その後何度か計画が変り、生産機数が減ったばかりでなく、開発日程が遅らされた。原型機の初飛行は、当初1994年4月の予定だったが、1年余り延期して1995年8月とする。また評価試験の期間を97年まで2年間延期する。さらに原型機の製作を4機から3機に減らす。そしてエンジンはT800の出力を17%増とするT801に改めるといった具合である。

 その後、原型機の初飛行はさらに延びることになり、実際に飛んだのは1996年1月4日であった。しかし初飛行のあとも試験飛行はなかなか進まず、同年10月までにわずか10時間しか飛ばなかった。この3年間の飛行実績も100時間余りに過ぎない。原型2号機も、先に述べたようにファーンボロ・ショーの時点で完成していながら、実際に飛んだのは3月末であった。すべては近年の軍事予算削減の影響である。

 

開発の背景と目的

 では、冷戦構造の崩壊と軍備縮小の時期にもかかわらず、コマンチは何のために開発されるのか。その目的と役割は何か。一と言でいうならば、これからの近代戦における前線指揮官の「目と耳」にほかならない。

 敵の動静を探りながら、味方の作戦を立てるのは当然のことだが、そのための電子的な情報収集に当たるのがコマンチ・ヘリコプターである。したがって、コマンチの構造、装備、能力、性能などは、全てこの目的に向かって一点に収斂するよう設計されている。冒頭に並べた沢山の特徴も単なる技術的な進歩の結果というよりも、目的達成のためには如何あるべきかを追求した結果である。

 その背景にあるのは、ベトナム戦争と湾岸戦争での体験であった。前線指揮官にとって、ヘリコプターが「目と耳」になり得ることは、むろんその前から分かっていた。ジャングルが舞台となったベトナム戦では、その必要性がいっそう痛感され、ヘリコプターの能力向上がはかられた。

 本格的な能力向上がはじまったのはベトナム戦後のことだが、そこから現用OH-58やAH-1が出現した。偵察機だからといって攻撃力が不要というわけではない。敵陣近くの偵察任務に当たって、敵の攻撃を受けることは常に覚悟しておかなければならない。そのためには反撃能力が必要になる。いわゆる「武装偵察」である。

 その意味でAH-1は、戦車などの対地攻撃が本来の任務であったが、高速性と運動性を生かした偵察ヘリコプターとしても恰好の機材であった。またOH-58は連絡と観測が本来の用途であったが、これに火器を取りつけ反撃可能な装備をして使うのも間違いではなかった。

 ところが、湾岸戦争を闘ってみると、これらの機材はもはや時代遅れであることが明らかになった。もっと近代的な攻撃能力と、速度性能や航続性能を含む飛行能力の統合が重要であることが実証され、所要の戦闘能力に欠けるところがあったのである。その不十分とされた事項は、たとえば次のようなものである。

 ・夜間戦闘能力(標的捕捉と操縦)

 ・航法装置

 ・通信機器

 ・耐弾性

 ・敵の生物兵器および化学兵器への対抗能力

 ・高温・高地性能

 ・兵装

 そこで米陸軍は、旧式の戦闘用ヘリコプターを新しい近代的なものに取り替える計画を進めることになった。いかなる状況にも対応できるような高い戦闘能力をもち、悪条件の下でも本来の能力を発揮できるようなたくましさをもったヘリコプターである。ここにおいてコマンチは、湾岸戦争前から計画されたものではあったが、その先見性が評価され、改めて存在理由が確認されたのである。

 

主ローター・システム 

 コマンチ・ヘリコプターは、米陸軍が最新の技術を駆使して開発する航空機である。

 そこに要求されるのは、米陸軍の戦場におけるスカウトおよび軽攻撃能力を高めるための戦闘能力と生存能力である。そのためには整備の手間がかからず、工具類も最小限ですみ、昼夜間を問わず、悪天候でも作戦行動のできる航空機でなければならない。

 そのため機体は、生還性(サバイバビリティ)を高めるために、姿勢を低くして、複合材を多用し、敵の探知を受けにくくしてある。複合材は機体重量を引き下げ、整備の手間を省くのにも役立ち、外板、ドア、フレーム、バルクヘッドのほか、内部の中央キールビーム・ボックス構造、それに主ローターのフェアリング、ファンテールのシュラウド、垂直パイロン、水平安定板など至るところに使われている。

 その割合は、ブラックホークがアルミ合金63%、複合材13%だったのに対し、コマンチはアルミ合金がほとんどなくなり、複合材が58%に増加した。

 主ローターの大きさは、戦場でいかに高速かつ敏捷な運動性を発揮するかという要求にもとづいて決められた。その直径は、ホバリングをするだけならば最も小さくてよい。しかし毎分150mの垂直上昇をするにはホバリングだけの場合の1.38倍でなければならず、急速旋回、加速旋回などの運動をしようとすると2.15倍の直径にしなければならない。結果として、コマンチのローター直径は11.9mになった。

 5枚のブレードは先端に向かってやや細くテーパーし、その先には後退角がつく。これで主ローター・ブレードから発する騒音が小さくなり、運動性が高まり、飛行性能が向上する。また対地攻撃の際の生還性も良くなり、地形の凹凸を避けて超低空飛行をすることが可能になった。

 ローターヘッドはベアリングレス構造(BMR)になっていて、複合材製のフレックスビームでフラッピング、リードラグ、およびピッチの動きを支える。フレックスビームはローターをハブに結びつけ、それを覆うトルクチューブを介して操縦力がブレードに伝わる。

 ハブはチタニウム製だが、ブレード、トルクチューブ、フレックスビーム、クィルシャフトなどは複合材製で、戦闘中に被弾しても致命的な破損には至らないよう設計されている。

 ローターは回転数を下げて「静粛モード」にすることもできる。敵の近くでステルス性を高めるためである。またローター系統から発する振動も少ない。コクピットの振動が大きいと乗り心地が悪く、乗員が疲労するばかりでなく、作戦任務の遂行にも影響する。しかし原型1号機の試験飛行の結果は、設計目標通りの振動レベルであった。これにより、原型機はもとより、将来の量産機にも特別な振動防止装置をつける必要はなくなった。

 

 

 

ファンテールと操縦系統 

 尾部の垂直フィンの中にあるのは「ファンテール」と呼ばれるアンチトルク・システムで、コマンチの運動性とステルス性を高めている。回転面は13°傾いていて、騒音の低下に役立つ。ブレードは8枚。アスペクト比が大きく、回転に伴う先端速度は毎秒197mと余り速くない。ブレードと支持構造との間隙は比較的大きく取ってあり、これも双方の干渉音を減らすのに役立っている。

 運動性の良さは、たとえばコマンチは、毎秒22mの風速の中で5秒以内に180°の旋回照準をおこなうことができる。

 このファンテールはかつて、実物大の試作品をS-76に取りつけて試験飛行をしたことがある。このときもS-76の運動性は急に良くなり、横進および後進速度は130km/hに達し、コマンチ同様の180°旋回照準が可能で、しかも必要馬力は普通の尾部ローターと変わりがないという驚くべき結果を示した。なお垂直尾翼は、輸送機に搭載する場合、上半分を折りたたんむことができる。

 トランスミッション系統は主ギアボックスが小さく、軽量で、簡潔な構造を持ち、整備の手がかからない。出力吸収能力は2,198shp。片発停止の場合は1,430shpである。

 両エンジンからの出力は別々の駆動軸を介してギアボックスの中に入り、最終的なブルギア・ステージに達するまで高回転、低トルクを維持するよう設計されている。最終段階での減速比は11対1で、高出力のギアボックスにしては非常に小さくて軽い構造になっている。

 エンジンはLHTEC T800-LHT-801ターボシャフトが2基。最大出力は各1,563shp、30分間の中間出力1,037shpである。また標高1,200m、気温35℃での最大離陸出力は10分間に限って1,123shp。全体はモジュール構造で、2段の遠心コンプレッサーを内蔵している。

 エンジン・コントロール装置は操縦系統にもつながっていて、ローターにかかる荷重を予測しながら作動し、さまざまな荷重条件の中でローターの回転速度を制御する。機内の燃料搭載量は1,142リッターである。

 コクピットは前後二つに分かれ、乗員2人が乗り組む。機内は密封され、与圧システムによって化学物質や生物兵器が侵入しないようになっている。

 操縦系統は、3重のリダンダンシー(冗長性または余裕)があり、フライ・バイ・ワイヤ・システムを採用している。操縦装置はサイドスティックによるサイクリック・ピッチ・コントローラーと通常のコレクティブ・レバーから成る。

 サイドスティックはピッチ、ロール、ヨウのコントロールばかりでなく、コレクティブ・ピッチのビーパーのような機能もあり、垂直方向の操縦操作をおこなうこともできる。パイロットがサイドアーム・コントローラーを引き上げると、機体はゆっくりと上昇する。そしてサイドアームを押し下げると、機体の上昇はそこで停まる。

 操縦装置からの電気信号は油圧アクチュエイターに伝わる。電気と油圧の動力源はいずれも2重である。また重要コンポーネントは全て相互に離して取りつけてあり、被弾したときの安全性を高めている。またフライ・バイ・ワイヤ系統は電磁気、雷、放射能の影響を受けないように、シールドがほどこされている。故障診断システムもついていて、何らかの故障が起こった場合は99%まで検知し、98%まで正確に故障個所を指示することができる。 

     

電子装備MEP

 コマンチのもう一つ大きな特徴は任務遂行のための電子装備「ミッション・エクイップメント・パッケージ」(MEP)である。これには最新の目標捕捉システム、暗視操縦システム(NVPS)、統合通信システム、ヘルメット装着ディスプレイ(HMD)などが含まれる。

 MEPの基本となるコンピューターは2系統で、毎秒1億5,000項目のデータ処理能力をもつ。このコンピューター処理システムとMEP機能は単なるブラックボックスではなく、一連の電子モジュールから成り、標準モジュールに各種のミッション・モジュールを組み合わせ、それぞれの任務に必要な組み合わせが出来上がる仕組みになっている。具体的には190点に上るモジュールを次々と交換しながら、そのときどきの任務に合ったMEPを構成するのである。

 こうした電子装備のセンサーは、一つが赤外線暗視装置(FLIR)である。コマンチのFLIRは第2世代の暗視装置で、8〜12ミクロンの波長に感応し、従来のものよりも4割以上遠くまで視認することができる。それだけ目標探知能力が高く、生還性も高まるわけである。

 敵目標を捕捉し識別するのは機首の電子光学センサーシステム(EOSS)である。これには昼夜間の熱イメージを捉えるFLIRセンサーやテレビ・カメラ、レーザー測距儀を含む多機能の電子光学システムが内蔵され、乗員はこのシステムによって敵の動きを探知し、識別し、狙いを定めて攻撃する。火器発射ボタンはサイドステックとコレクティブ・レバーについている。

 戦闘ヘリコプターにとって、超低空の高速飛行はきわめて危険であり、パイロットにも練達の技能が要求される。この場合、パイロットは常に外部を見ていなければならないが、同時に飛行計器やMEPのセンサーデータをも監視していなければならない。そこでコマンチは、この矛盾した二つの要件を同時に満たすため、ヘルメット統合ディスプレイ・システム(HIDSS)を装備している。HIDSSはヘルメットに取りつけた双眼鏡のような形状で、乗員は外部を見ながら計器情報を見たり、火器の照準を合わせたりすることができる。これでFLIR、IITV、20mmガトリング砲がパイロットの頭の動きに連動し、外部の映像をとらえ、照準を合わせることが可能になる。

 計器パネルの中央部分には、左右2つの多機能ディスプレイがついている。右側のディスプレイは15cm×20cmの大きさで高解像度のカラー液晶ディスプレイである。主な機能は計器およびマップの表示。左側のディスプレイは同じ大きさだが、モノクロ液晶ディスプレイで文字情報とセンサーからの映像を映し出す。

 

 航法および通信システムは、ヘリコプターとしては初めて3軍共通の統合通信航法識別システムを搭載している。航法のためには慣性航法システム(INS)とグローバル・ナビゲーション・システム(GPS)を装備する。これにドップラー速度計、電波高度計、ディジタル・マップ・インターフェイスなどを組み合わせて航法上のデータを取得する。

 通信のためにはVHF-FM無線機、VHF-AM無線機、UHF-AM無線機、敵識別トランスポンダー、最新の自動データ通信装置などを搭載する。これらによって同時に2チャンネルの音声と1チャンネルのデータ送信が可能になり、5チャンネルの受信ができる。

 

 

重装備の火器

 コマンチは機体は小さいけれども、火器は重装備である。機首下面にガトリング砲を備え、胴体両側には兵装ベイがあってミサイルやロケット弾を装備するほか、機外取りつけ架台をつければさらに多くのミサイルやロケットの装着が可能になる。

 ガトリング砲は20mm3連銃で旋回ターレットに取りつけられている。搭載する銃弾は500発。20mm砲で500発とした理由は、攻撃力と搭載重量を勘案して決めたもので、25mm砲では重すぎるし、30mm砲は発射速度が遅くて対戦車戦には適さないといった事情がある。

 ガトリング砲の取りつけ位置は機首下面から前方へ突き出す。この方が、コクピットの直下に置くよりも対戦車戦で11%有利になる。というのは、後方に取りつけると銃身の可動範囲がせまくなるし、脚を伸ばす必要が出てきて抵抗が大きくなるといった不利が生じる。

 胴体両側の兵装ベイは、それぞれに3か所の火器取りつけステーションがあり、各ステーションにはヘルファイヤ・ミサイル1基またはスティンガー・ミサイル2基、もしくは2.75インチ・ロケット弾4発の装着ができる。

 ミサイルやロケットなどの火器を機内搭載とするか機外に取りつけるかについても、慎重な考慮が払われた。そのどちらを選ぶかによって、機体の基本構造そのものが変わってくるからである。機内搭載の場合はボックスビーム構造になる。

 機外取りつけならば通常のセミモノコック構造でよく、バルクヘッドやフレームに取りつけたフィッティングを介して火器が装着される。しかしコマンチに要求されたステルス性がなくなり、有害抵抗も大きくなって、エンジン出力を上げない限り飛行性能が悪くなる。

 けれども機外であってもフェアリングで覆ってしまえばどうかというので、比較検討がなされた。この結果、たとえばダッシュ速度は機外取りつけにすると22〜33km/hほど遅くなる。機体の重量も、取りつけ架台を短固定翼にしたり、張り出しポッドにするなどの形状によって28〜37kgほど増加する。さらに製造費用も増える。逆に内装方式は、最大速度が増して飛行性能が良くなるばかりでなく、機構が簡単で重量が少なく、整備の手間もかからないといった利点が見られて、最終的に火器を胴体内部に収める方式が採用された。

 

 

火器の内装と外装

 このような火器内装方式を取ることによって、機体両側にはドアがつけられる。各ドアの内側には3本の発射レールがつき、各レールには先に述べたようにヘルファイヤ1基、またはスティンガー2基、またはロケット弾4発を装着する。

 兵装ベイに装着可能な火器の長さは最大183cm。ただし将来、わずかな改造で長さ2mの火器装着も可能となる。

 兵装ベイの前方胴体は急に細くなっていて、火器の発射経路があけてある。すなわち主脚を引っ込めた状態で、火器の通過経路と胴体との間に十分なクリアランスができるように設計されている。しかし主脚を出したままでミサイルやロケットを発射することもできる。ただし機体が地上にあるときと、負の荷重がかかっているときは発射できない。

 兵装ベイのドアは、指揮官機から発射用意の指示があって3秒で開けることができる。左右同時に開けることも片側だけを開けることも可能である。この開閉は乗員の操作でもできるし、先に述べたMEPによる一連の攻撃動作の一環として開くこともできる。ドアの開閉作動は油圧によっておこなわれ、コマンチのいかなる飛行状態でもよく、80km/hで横進飛行をしているときでも可能である。

 上のような内装に加えて、コマンチは機外にも火器を装着することができる。胴体の左右両側に取りつけ架台を張り出せば、片側4か所、両側合わせて8か所の取りつけステーションを増やすことができる。そして各ステーションごとにミサイルやロケットの装着が可能になる。これで内装だけの場合にくらべて2倍以上の火器搭載ができる。また機外ステーションには火器の代わりに増加燃料タンクをつけてもよい。

 こうしてコマンチは、内装ベイに6か所、機外に8か所、合わせて14か所の火器取りつけステーションを有し、それぞれにミサイルやロケットを装着することができる。この重装備によって、コマンチは偵察任務から本格的な攻撃機にもなり得る。

 火器の照準は機首のテレビ・ターゲット・センサーでおこなう。またロングボウ・ミリ波レーダーを装備して、広範囲の目標を捕捉することもできる。これはAH-64Dアパッチのロングボウ・レーダーを小さく高性能化するもので、今の重量160kgを半分の80kgとする計画である。

 

戦場のコマンチ

 以上のような構造と装備を持つコマンチは、実際の戦場においてどのような戦いぶりを見せるのであろうか。

 まず出動命令を受けたコマンチは自力飛行はもとより、輸送機、艦船、鉄道、トラックなどあらゆる手段を使って戦場へ赴く。自力で飛ぶ場合の航続距離は機外に燃料タンクを増設して最大2,300kmになる。

 また輸送機に搭載する場合、C-130ならばコマンチ1機、C-141ならば3機、C-17で4機、C-5で8機の搭載が可能。そしてC-130の場合、輸送機からコマンチを卸して組立て、燃料を積みこみ、火器を搭載して戦闘可能な状態にするまでに22分間。C-5の場合は8機のすべてを戦闘可能な状態にするのに75分しかかからない。

 こうして戦場に到着したコマンチは、先ず敵の動静を探る。離陸の前には、あらかじめ想定した飛行経路、途中の目標地点、戦術情報などを機上搭載のコンピューターに記憶させる。航法装置はGPS、INS(慣性航法装置)、ドップラーなどで、ディスプレイに映し出された地図上に刻々の状況が表示される。

 コマンチは、これらの情報を把握し、正確な航法と目標捕捉の能力をもって、みずからのステルス性を生かし、敵陣営の近くまでしのび寄る。そして何処にどのような戦力が潜んでいるかを探り出し、その状況を電子情報として味方本部へ送り返す。

 その情報の中には地形、障害物、敵目標への接近経路、装備、戦闘計画などの提案情報まで含まれる。この情報によって、コマンチの乗員は直ちに次の行動に移ってもいいし、部隊本部にいる指揮官の作戦計画にしたがって行動してもよい。いずれにしても戦場にある部隊全体の作戦計画と攻撃目標はコマンチのとらえた情報によって定められ、変更されるのである。

 こうした偵察任務のためにコマンチの目標捕捉識別センサーは、現用機の2倍の遠距離までカバーし、誤差は15m以下である。感知したデータは機上搭載のコンピューターによって高速処理され、コクピットのディスプレイ上にカラー映像で映し出される。同時に味方の部隊本部へも送信されるが、さらに自動的に火器管制システムにも送りこまれ、いつでも発射可能な状態をつくり出す。 

 偵察のためのコマンチの航続性能は、機内タンクだけで2時間、増加タンクをつければ3時間半に伸びる。

 コマンチは、偵察任務のほかに攻撃任務も与えられる。ステルス性を生かして、超低空で敵の近くにしのび寄り、不意をついて空中高く舞い上がり、数秒間のホバリングで戦場をスキャンし、一瞬にして敵目標を捕捉し、識別し、照準を合わせて攻撃する。目標の中には敵戦車、トラック、ヘリコプターなどが含まれる。

 攻撃に際しては機上搭載の攻撃システムがのすべてが一斉に作動し、地上目標が動いていても停まっていても、正確に命中させることができる。飛行物体を目標とする場合も同様で、いわば全力を挙げて攻撃をかけるのである。

 火器は2人の乗員のどちらでも発射できる。しかも、どちらが発射ボタンを押しても、命中精度に差がないし、いかなる高度、いかなる速度でも、常に同じような攻撃力を発揮する。また昼夜を問わず、悪天候でも同じ戦果をあげらることができる。

 攻撃が終わると、コマンチは直ちに降下して、その存在に敵が気づく前に姿を消す。こうした瞬時の戦闘処理をするのは、コマンチに搭載してあるコンピューターであり、パイロットは発射ボタンを押すだけである。それは、まさに電子戦闘といってよいであろう。

 このような偵察能力と攻撃能力を兼ねそなえることによって、コマンチは味方の地上部隊が安全に前進できる攻撃路を開いてゆくこともできる。またコマンチの急襲によって敵の最前線の防御力を弱めておき、あとからAH-64アパッチを誘導して、本格的に敵陣営を攻撃、壊滅させるといった作戦を取ることもできる。

 アパッチは攻撃が終わると味方の基地へ戻るが、帰路の防護もコマンチの役目である。つまりコマンチは最初に戦場に到着し、最後に戦場を出て行く「ファーストイン・ラストアウト」の任務を帯びている。

 

 

生還性と整備性

 以上のような戦闘能力に加えて、コマンチは敵の攻撃をかわし、それに耐える生還性も高い。

 生還性が高い理由の第1はステルス性である。コマンチのステルス性は全複合材製で、姿勢が低く、火器は胴体の中に引っ込むため敵レーダーで捉えにくい。また騒音が小さく、第3世代の赤外線(IR)抑制システムをそなえているので排気も少なく、敵の探知を受けにくい。

 さらに敏捷で超低空を高速飛行ができるので、敵に探知されても直ちに姿を消すことが可能である。逆に敵のレーザーやレーダーを探知して、乗員に警報を発すると共に、ディスプレイ上のマップに危険範囲や迂回経路を表示する。同時に対レーダーおよび赤外線ジャマーを発射することもできる。また化学物質の探知機もそなえ、危険な空域を避けることができるし、放射能や生物兵器に対する防御システムもそなえている。

 万一被弾して不時着を余儀なくされた場合も、操縦席は毎秒12mの垂直落下の衝撃に耐えられるので、人体への影響をやわらげることができる。

 つまり、コマンチは探知されにくい。探知されても姿が捉えにくい。姿が捉えられても攻撃を受けにくい。攻撃されても傷つきにくい。傷ついても墜落しない。墜落しても耐衝撃性が高い、といった優れた生還性を具備している。

 コマンチは稼働率を高めるための整備性にもすぐれている。その要点は、現用小型ヘリコプターとくらべると、数字の上で次のような差異が見られる。

 ・整備に必要な人手は32%少ない。

 ・所要の整備士は9人から4人に減る

 ・工具と整備器具は83%減

 ・部品数は極めて少ない

 ・機体表面積の半分以上がアクセス・パネルになっている

 ・整備レベルは34%減

 ・訓練費は50%減

 たとえば機体への取りつけにあたって、トルク・レンチ、セイフティ・ワイヤ、コッターピンなどを必要とする部品はごくわずかであり、ほかのヘリコプターにくらべて著しく少ない。燃料補給と火器の装着に要する時間も合わせて15分以内である。

 また携帯用の小さな電子整備装置があり、機体のログブックや整備マニュアルを呼び出すことができる。このため重くてかさばる紙製のマニュアル類を機体に搭載したり、持って歩かなくてもすむようになった。しかも、この装置を機体のデータバスに接続すれば、各装備品の故障記録が呼び出せるので、故障個所を漏れなく整備することができる。

  

コマンチのゆくところ 

 かくて、ボーイング・シコルスキーRAH-66コマンチは史上最も傑出したヘリコプターとなりつつある。米陸軍の「21世紀航空近代化計画」の中でも極めて重要な計画の一つであり、未来を先取りしたヘリコプターである。

 すでに見てきたことをもう一度整理するならば、巡航速度は300km/hを超え、ダッシュ速度は324km/hに達する。4秒半でスナップ・ターンをして、130km/hの速度で横進または後進ができる。

 ステルス性は、アパッチにくらべてはるかに小さい機影しか見せない。

 エンジンはT800-LHT-801ターボシャフトが2基。ローターは5枚ブレード。ベアリングレス機構で、飛行性能にすぐれ、敏捷な空対空の戦闘能力を有する。

 尾部には「ファンテール」がつき、垂直フィンの中に8枚ブレードのファンが組み込まれている。スナップターンや高速横進、高速後進ができるのも、このファンテールによるものである。

 操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ。コクピットから見た視界は広い。またヘルメット装着の統合ディスプレイおよび照準システム(HIDSS)は双眼鏡のような形状で、乗員の目の前に飛行情報、夜間の外景、火器の照準が映し出される。これでコマンチは暗夜でも作戦行動が可能となる。

 加えて、飛行操縦はヘリコプターとしては初めて、全て片手でできる。

 機体は新しい複合材を多用してステルス性を高め、重量を減らし、製造費と整備費の削減に効果をもたらした。野戦での整備作業は故障部品の交換だけですますことができる。

 21世紀の戦場では高性能のレーダー、赤外線探知機、携帯ミサイル、音響地雷など、現在よりもはるかに進んだ兵器が使われるであろう。RAH-66はそうした敵の兵器を相手に戦う能力を持つに至った。

 たとえば、敵の防衛探知兵器をあざむき、凹凸のある地形すれすれの超低空飛行で敵陣にしのび寄る。そして不意に上昇して数秒間のホバリングで戦場をスキャンするや、その情報を味方の地上部隊に送って、攻撃をうながす。偵察行動のためには、3時間半にわたって飛び続ける。しかも焼けつくような高温の砂漠で、昼夜を問わず、悪天候でも行動することができる。

 またコマンチは、みずからも敵目標を見定めて攻撃に移る。攻撃兵器は最大14基のヘルファイヤ対戦車ミサイルだが、このミサイルは発射するだけで目標を捉え、敵にぶつかってゆく。

 あるいは最大56発のロケット弾をそなえる。空中戦闘のためには28基のスティンガー空対空ミサイルを搭載し、敵のヘリコプターや飛行機をねらう。さらに機首下面には20mm機関砲を装備する。これらの火器は、機影を小さくし、飛行性能を上げるために機体の中に引きこまれる。

 近代戦は敵の基地、施設、部隊の動静を細部まで知りつくし、迅速な行動によって正確に目標を叩き、短時間で作戦を終了する必要がある。その最初の情報収集に使われるのがコマンチであり、把握した情報は陸軍ばかりでなく空軍や海軍にも送り出され、統合作戦を可能にする。

 そして、全てがコンピューターによって制御される。コマンチのゆくところ、まさに近代ハイテク戦場であり、その闘いは電子戦闘といってよいであろう。

 最後に、コマンチに関する資料については、ヘリコプタ技術協会会員の饗庭昌行氏から種々ご示唆を頂いた。ここに記してお礼を申し上げたい。

(西川渉、『エアワールド』誌99年5月号掲載、一部修正)

  コマンチ・データ

  コマンチ・リンク集

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