コミューター・ジェットの動きが活発になってきた。コミューター航空とか地域航空といえば、かつては十九人乗り、最近では三十〜五十人乗りのターボプロップ機が主役だが、そろそろ主役交替の時期が近づいたのであろう。
これまでは、わずか五十席の小型機にジェット・エンジンを使うのは不経済で採算が合わないとされていた。したがって採算性が問題にならないビジネス機のような場合は早くも一九七〇年代からジェット化されたが、コミューター機はなかなかそうはいかなかった。
しかし近年、技術の進歩によって、燃料効率にすぐれた採算性の高いジェット・エンジンが実現するようになり、それが小型旅客機にも使われはじめたのである。
嚆矢となったのはカナダのボンバーディア社がビジネス・ジェットのチャレンジャーを基本として旅客機に仕立て上げたカナディア・リージョナル・ジェット(CRJ)である。この五十席機が定期路線に就航したのは一九九二年秋。以来、主として北米と欧州の地域航空で使われ、採用する航空会社も増えて、最近ではおよそ二百五十機が飛んでいる。
このうち五十機以上のCRJを運航しているのが米国オハイオ州シンシナティに本拠を置くコムエアである。同社は今から二十年ほど前の一九七七年、パイパー・ナバホをもって発足、八一年にバンディランテ(十九席)、八四年にサーブ340(三十六席)、八八年にブラジリア(三十席)を導入して、コミューター路線を拡大してきた。総数五十機を超えるターボプロップ・フリートである。
そこへ一九九四年、CRJが導入された。同機は九七年までの三年間でたちまち五十機に達し、ターボプロップ機が引退に向かう一方、今世紀中には百機を超える予定である。その中には目下開発中のストレッチ型CRJ700(七十席)も含まれる。
こうしてコムエアの業績は、ジェット導入以来わずか三年間で売上げ高が二・三倍の五億六千万ドルに達し、利益も四倍近くに上がった。九七年三月までの年間乗客数も四五〇万人に達している。
この好調ぶりを見て、九六年秋ロンドンのファーンボロ航空ショーでは、米コンチネンタル・エクスプレスがブラジル・エムブラエル社で開発中だったEMB-145(五十席)について確定二十五機、仮百七十五機を発注した。合わせて二百機という大量注文である。
続いて九七年六月のパリ航空ショーでは、アメリカン・イーグルがCRJ700を二十五機とEMB-145を四十二機発注した。加えて二十五機ずつの仮発注を出したから、総数では百十七機という大量発注になる。
このように米国では大手コミューター航空がいっせいにジェット化へ向かいはじめた。それを受けて去る五月、米国地域航空協会(RAA)の年次大会ではフェアチャイルド・ドルニエ社が428JET(四十席)を開発すると発表した。来年春の型式証明取得をめざして試験飛行中のドルニエ328JET(三十席)のストレッチ型で、328と同じ高翼構造を有し、一九九九年末に初飛行、二〇〇一年一月に就航できる見こみという。価格は328JETの千百万ドルに対して千二百五十万ドル。アメリカン・イーグルなど米国内のコミューター航空会社への売りこみ交渉が続いている。
さらに五月下旬、フェアチャイルド・ドルニエ社はベルリン航空ショーで、もっと大きな728JET(七十席)の開発に乗り出すと発表した。しかも短縮型528JET(五十席)とストレッチ型928JET(九十席)も手がけるという連続技で、コミューター・ジェの開発と生産を一挙に拡大する戦略を打ち出した。
728シリーズは328や428とは異なる低翼型で、主翼下面にエンジンを取りつける本格的な双発ジェット旅客機。すでにスイスのクロスエアとドイツのルフトハンザ・シティラインから、それぞれ六十機ずつの確定注文と六十機ずつの仮注文の発注意向を受けており、おそらく九月のファーンボロ航空ショーでは契約調印と開発着手の運びになるであろう。ほかに仏プロテウス航空が十五機、独ユーロウィングが三十機を発注する予定で、確定注文だけで百六十五機の見こみが立っている。
728JETは受注数が二百機になれば採算点に達すると計算されている。その開発に要する資金は八億五千万ドル。初飛行は二〇〇〇年三月の予定。528はその十四か月遅れで開発され、928もさらに十四か月後に登場する。
その先には928のストレッチ型、1128JET(百十席)という開発構想もあるというが、そうなるとコミューター機と従来のジェット旅客機の境目はなくなってくる。実際、六十席のあたりで航空機や航空事業を区別する意味は、もはやなくなってきたといってもいいであろう。
以上のようなコミューター・ジェットの現況は別表に示す通りである。カナダとブラジルと米・独が三つ巴の競争を演じることになったわけで、そこからまた新しいコミューター航空発展の契機も生じてくるにちがいない。
では今後、コミューター・ジェットはどこまで伸びるのか。別表だけでも仮注文を含めると千三百機を超える受注数になるが、二〇一七年までの二十年間では四千機の需要があるというのが大方の見方である。
その中心となるのがCRJやEMB-145のような五十席クラスの機材。メーカーによって細かい予測値が異なるが、大体一、八〇〇〜二、一〇〇機程度と見られている。それより小さい三十席クラスの機材は、328JETやEMB-135が代表だが、一、二〇〇〜一、五〇〇機の需要があると見られる。これらのジェットによって現用ターボプロップ機が置き換わってゆくという見方である。
他方、もっと大きな七十〜九十席クラスの機材は、需要の見方がメーカーによって大きく異なる。少ないところは五百機程度と見ており、多いところは二千機というところもある。なるほどCRJ700はまだ二十九機の注文しか受けていないけれども、728JETの方は、発注意向とはいえ、すでに三百機近い注文を集めつつある。両者合わせて五百機で終わることはないであろう。
七十席クラスのジェット需要に慎重な見方があるのは、ATR70やダッシュ8-400といったターボプロップ機が頑張っているためであろう。しかしATR社は、もしジェットが有利ということになれば、AIR70ジェットの開発を実行に移すかもしれない。またエムブラエル社もEMB-175という七十人乗りジェット旅客機の計画を暖めている。
これで世界のコミューター航空は、ますます高速・長距離化の傾向を示すであろう。路線構造もハブ空港に頼らない「バイパス・システム」が広がってゆくにちがいない。
(西川 渉、『日本航空新聞』、98年6月18日付掲載)
7月なかばの報道によると、仏アエロスパシアル社と伊アレニア社は再び70人乗りジェット旅客機の開発を検討中という。この両社は先に、英BAeも加えて3社合弁のAI(R)社を設立、AIR70と呼ぶ70人乗りの航空機を計画していた。しかし97年12月、BAe社の反対と合弁撤退によって計画中止となったもの。しかし、最近のコミューター・ジェットの活発な動きに刺激されたか、新たな計画が持ち上がったもようで、スペインCASA社が参加する可能性も大きいと伝えられる。
そうなると、日本のYSX計画はどこへ行ったのか。世界各国の活発な動きを見ていて、やるのかやらぬという疑問も出てくるのだが。
以上、コミューター航空向けジェット旅客機の就航と開発の状況を一表にまとめると、次表の通りとなる。
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CRJ700 |
70 |
―― |
70 |
2001年初 |
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ERJ-145 |
50 |
1,540〜1,600 |
408 |
1997年春 |
ド・ドルニエ |
428JET 528JET 728JET 928JET |
42〜44 55 70〜75 90〜95 |
―― ―― ―― ―― |
0 ―― 285 ―― |
2001年春 2002年夏 2001年春 2002年秋 |
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