<超音速旅客機>

コンコルドの終焉

 

 

 超音速旅客機コンコルドの終幕が近づいている。エールフランスは5月末、英国航空は9月末をもって定期運航をやめるらしい。その後は両社とも11月末まで不定期で飛ばし、あとは一切の飛行をやめて博物館などへ寄贈するもようである。

 コンコルドは2000年7月25日パリ郊外に墜落事故を起こしたのち2001年9月11日に飛行を再開、11月7日から再び定期路線に就航した。ところが、わずか1年ほどで、技術的な不具合が多くなり、信頼性が問題となりはじめた。おまけに整備費など莫大なコストがかかるようになった。そこへ世界的な経済不況と第2次湾岸戦争、SARSの蔓延が重なって、エアライン業界は大きな打撃を受けるに至った。

 そして2月19日、エールフランスのコンコルドが燃料漏れのためにカナダのハリファックスへ緊急着陸をするといった事態が発生した。こんな調子では目的地へ早く着けるはずの超音速が却って遅くなってしまう。というようなことから、この緊急着陸がエールフランスのコンコルド運航停止の引き金になったといわれる。

 燃料漏れの発生はニューヨーク・ケネディ空港からパリへ向かう飛行であった。第3エンジンへの給油管に亀裂が生じ、一挙に16トンもの燃料が流出したらしい。直ちに高圧および低圧の燃料コックを閉じて流出は止まったものの、燃料の余裕がなくなって最寄りのハリファックスへ不時着するに至った。このような異常な燃料漏れはかつてなかった現象である。

 しかし、着陸そのものは正常で、けが人も機体の損傷もなかった。エールフランスも、ハリファックスの不時着が運航停止の理由ではないと主張している。第一、運航再開後のコンコルドは以前よりも不具合が少ないとして、上述のような第3者の見方とはまったく正反対の見解を発表している。

 たしかに小さな不具合はある。その一つひとつをメディアが取り上げたのである。そんな不具合は以前もあったが、メディアの関心はなかった。しかるに運航再開後は全てが取り上げられ、報道されて、一般の人にはいかにもコンコルドが危険であるかのような印象を与えてしまった。

 問題はコストである。それも不具合を直すのに費用がかかるというのではなくて、新たに衝突防止装置(TAWS)その他の装着義務が出てきた。その費用が、たとえばTAWSを4機のコンコルドに取りつけるだけで4,000万ドルもかかるという。

 こうしたコンコルドの状態に対し、ヴァージン・アトランティック航空のリチャード・ブランソン会長は、英国航空のコンコルドが退役するのであれば、それを買い取って運航したいという提案をしている。

 ところが、英国航空はヴァージン・アトランティック航空への売り渡しを断り、コンコルドの部品補給などをしてきたエアバス社も今年いっぱいで技術支援を打ち切るという方針を打ち出した。

 頭にきたリチャード・ブランソンはテレビに出演してコンコルド運航の夢を語り、一般公衆に向かって直接、運航継続を訴えた。自分ならば、コンコルドのキャビンをスタンダード・クラスとファースト・クラスの2つに分け、スタンダード運賃を今よりも安くし、ファーストクラスの方は今以上に引き上げる。これで座席利用率を増やし、もっとうまく経済的にコンコルドを飛ばすことができるというのである。

 しかし英国航空はブランソン会長の提案に応じようとせず、エアバス社の方も改めて、コンコルドの運航を誰かほかの航空会社がおこなうとしても部品補給その他の技術支援は一切しないと強調している。「それはコンコルドが不安全だからということではない。支援にも運航にも莫大な費用がかかり、飛行を続けるのは現実的ではないと考えるからだ」と。

 ブランソンは政府にも訴えて、英国航空がコンコルドを博物館などへ寄贈するのを阻止するよう求めたりもした。そのくらいならば自分が1ポンドで買うというのである。というのは「元来コンコルドは政府の資金で開発、製造されたものだ。つまりは国民の税金でつくられた飛行機であり、当時の英国航空はそれを1ポンドで譲り受けた。したがって、ここで運航をやめるというならば、あとを引き継ごうというヴァージン・アトランティック航空に譲り渡す義務がある」と怒っている。

 しかし、これも政府が介入するような問題ではないとして拒否された。

 なお英国航空は、コンコルドの特別運賃を売り出しているもよう。値段はロンドン〜ニューヨーク間の片道が1,999ポンド(約38万円)、往復が2,999ポンド(約57万円)という。これが安いのかどうか、本来の値段の半分以下ではないかとも思うが、私にはよく分からない。なぜなら、コンコルドの切符はとうとう買わずじまいに終わったから。

(西川 渉、2003.5.13)

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