<マリーンワン>

米大統領ヘリコプターの行方(2)

 アメリカ大統領の専用ヘリコプター「マリーン・ワン」として開発が続いていたアグスタウェストランドVH-71の開発中止と新たな調達計画については、先日の本頁に掲載した。ただ、この文章は月刊「航空ファン」のために2ヵ月ほど前に書いたもので、ニュースとしてはやや旧いところがあった。それを補う意味で、最近の動きをここに追記しておきたい。

 ひとつはシコルスキー社とロッキード・マーチン社がチームを組んで、VXXマリーン・ワン開発の名乗りを上げたこと。シコルスキーH-92を基本として、これにロッキード・マーチン社が大統領機としての専用装備をつけ加えるというもの。

 それも前のVH-71の轍を踏まぬよう、技術面と経済面に合理性をもった開発を心がけるという。両社はすでに、過去38年間にわたって米海軍向けのホーク・ヘリコプターの共同生産をしており、相互の協力態勢は充分に出来上がっている。しかもホークの一部はVH-60Nとして今もホワイトハウスで使われている。

 加えて現用VH-3Dがシコルスキー機で、1960年代から安全に飛んできたことは周知のとおり。

 ただ前回の入札競争では、シコルスキーH-92は一敗地にまみれているので、うまく復活採用が成るかどうか。一抹の不安が残る。

 もうひとつ、ボーイング社もV-22ティルトローター機を大統領機として提案するもよう。

 V-22オスプレイは、すでに海兵隊がアフガニスタンなどで実戦に使用中。同時に海兵隊は今の大統領機VH-3Dシーキングを運航している。

 その後継機となるはずだったイタリアのアグスタウェストランドVH-71の計画が打ち切られたのは、先の本頁にも書いたとおり開発日程が遅れ、費用がかさんだため。さらにVH-71の採用取消しは「空のオーバル・オフィス(大統領執務室)」としての無線通信機器の搭載がむずかしかったこと、また核攻撃を受けたときの電磁パルスに対する防御が充分にできなかったことなどの理由があるらしい。

 V-22はこれらの能力があるのかどうか、前回の入札でも候補にあがっていたが、当時はまだ信頼性が確立していなかった。しかし最近までにイラクやアフガニスタンの実戦に派遣され、海兵隊の運用によって信頼に足ることが実証された。

 もっとも、今なお可動率に問題が残っているらしい。しかし、これも間もなく解消されるというのが海兵隊の見方。またエンジンの排気ガスを下向きに噴射するので、ホワイトハウスの芝生を傷めるのではないかというのが、庭師の心配である。

 これは、しかしオスプレイが離着陸するごとに、傷んだ芝生を取り替えるか、排気ガスが当たるところに鉄板でも置いておけばいいのではないか。むしろ、そんなことよりも、ティルトローター機のヘリコプターよりもすぐれた高速性能や高度性能を取るべきだという主張もある。

 海兵隊は、これまで長年にわたってオスプレイの不具合と闘ってきた。多くの犠牲者も出している。今ここで、同機が大統領機として採用されるならば、長年の苦労が報われることにもなろう。

 こうした状況から、ボーイング社もV-22を提案する意向を固めつつある。

 なお現在、ホワイトハウスはVH-3Dを11機とVH-60を8機使っている。

(西川 渉、2010.5.17)

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