<ホワイトハウス>

大統領のヘリコプター

 米大統領専用のヘリコプター、マリーンワンの次期候補VH-71は、今年春オバマ新政権の発足と共に廃案となった。しかし最近あらためて新しい候補機を検討する動きが出ているもよう。

 オバマ大統領が新しい専用機に疑問を呈したのは今年2月であった。現用機でも、まだ充分使えるではないかというのである。費用も当初の2倍を超えて112億ドル(1兆円)以上に達していた。

 そこで「私はこれまでヘリコプターなんぞ持ったことがないから使い方も分からない」などと冗談を飛ばしながら、ゲイツ国防長官に再検討を指示したのである。

 それを受けたゲイツ長官は今年5月「1機5億ドル(500億円)もするようなヘリコプターを飛ばして、核攻撃を受ける中で晩餐を調理する必要はない」といって、計画を切り捨てたのであった。

 旧政権の末期、国防省の武器調達などは計画が進むにつれてコストが上がり、GAO(政府事業調査局)によれば、主要な計画のほとんどが当然のように予算を何倍も超え、それでいて誰も責任を取らず、処罰を受けないというのである。

 このあたりは、最近の「事業仕分け」で明らかになってきた日本の旧政権と官僚体制によく似ているが、VH-71Aヘリコプターも金額が増えるばかりでなく、重量が増えて身動きができなくなっていた。といって、何もメーカーだけが悪いわけではなく、官僚たちが次々と新しい要求を出してきて、まだ開発されてもいないような電子機器の搭載を要求するといった要素も大きかった。

 とはいえ今の専用機をいつまでも使っているわけにはいかない。すでに耐用期限に近づいているため、整備費などの安全維持費だけでも相当な金がかかる。

 遅かれ早かれ、次の候補機を考える必要が出てくるが、オバマ政権の新しいプロジェクトに対する姿勢は、納税者の負担と効用はどうなるかということである。いかに立派な計画であっても、国民の役に立たなければ、そんなアイディアは採用できない。

 VH-71Aはその典型で、敵のミサイル攻撃に耐えて、しかも反撃できるようにするなどと考えたあげく、エアフォースワンのボーイング747よりも高くなるという化け物のようなヘリコプターになりかかっていた。しかも、この化け物を大統領1人のために28機も買いそろえるというのが、旧政権のペンタゴンやホワイトハウスに巣くう官僚たちの狂乱ぶりだったのである。

 もうひとつは、何を買うかも大事だが、如何に買うかも考えなくてはならない。

 そこで、改めて大統領専用ヘリコプターを考えるとすれば、新しい候補機は既存のヘリコプターの中から合理的な値段で選ぶことになるであろう。

 ホワイトハウスやペンタゴンには、すでにいくつかの提案が寄せられているらしい。


日本の事業仕分け

(西川 渉、2009.11.27)

 

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