電 網 恢 恢




  「ホームページ」とは何のことだろうか。何かに、もともとはウェブサイトの1頁目だけをいうと書いてあったが、それ以上の説明は見たことがない。そこで私なりの解釈は、ウェブサイトの第1頁の意味ならば、何頁にもわたる文献や図版の集積の中の拠点頁ということではないだろうか。

  野球だってファーストベース、セカンドベース、サードベースとあるが、全ての拠点はホームベースである。ランナーはここを起点に走り出し、一周して戻ってくれば得点になる。つまりゲームの始まりも目標もホームベースであり、守る側にとっても扇の要(かなめ)だ。ウェブサイトも元来はファーストページ、セカンドページ、サードページ……とあって、すべての起点が1頁目の表紙と目次を兼ねた拠点頁、すなわち「ホームページ」ということではないだろうか。

  それにしてもホームページは音が長すぎるし、文字数が多すぎて、発音するのも紙に書くのもエネルギーを要する。何とか日本語らしい省エネ言葉を考えたい。

  ついでにコンピューターとかインターネットなどにも適切な日本語が欲しい。コンピューターを「電子計算機」と訳したのはまことに拙劣であったが、あれに「電脳」という文字を当てた中国人は立派だった。最近は日本でもよくこの文字を目にするようになったが、もはやコンピューターに代わる正式の外来語として輸入すべきであろう。

 しかしインターネットには、中国でもまだ適切な言葉ができていないらしい。先日も何人かの中国人に貴国では何というか訊いたところ国際網とか何とか、人によって異なる返事が戻ってきた。それに電脳ほど感心できる訳語でもなかったので、そのまま忘れてしまった。

 そのとき私は話をしながら、「電網」にしては如何かと思って、そういう提案をしたところ、向こうは笑って好いとも悪いとも答えなかった。もっとも、その中国人はまだよくインターネットのことを理解していない節もあった。

 電網などというと、鉄条網に電流を流した泥棒よけのように取られるかもしれぬが、実は私は「電網恢恢疎にして漏らさず」ということわざを考えている。 インターネットの情報網は粗くて時間がかかるかもしれぬが、世界中の情報を一網打尽に漏れなく教示してくれるという点では、古人のいう通りであろう。

 そこでホームページの訳語だが、ホームという言葉を聞いて最初に連想する日本語は「家庭」である。しかし家庭頁では雑誌の「主婦の友」みたいになってしまう。

 もうひとつは、ホームベースを本塁と訳したように、ホームには元来、本拠とか本国といった意味がある。とすればホームページは「本頁」としてはどうだろうか。音もよく似ていて、適当ではないかと思う。 

 何も無理をして漢字にしなくてもいいではないかと言われるかもしれない。しかしカタカナのままでは日本人の身につかないというのが私の考え方である。最近の官庁が無闇にカタカナを使うのも、もともと足が地についていない計画をすすめようという自信のなさのあらわれである。厚生省に至っては「ゴールデン・プラン」などという奇妙な名前の高齢者福祉対策を立てるものだから、事務次官を筆頭に全省あげて汚職の泥沼に落ちこんでしまった。

 日本で野球が盛んになったのも、ベースボールではなくて「野球」というきちんとした日本語ができたためではないだろうか。そこへいくと「蹴球」を忘れてサッカーなどといっているうちは、どこか取ってつけたような金儲け目当ての興業といった匂いが抜けきらず、サポーターは興行師に踊らされているに過ぎない。このままでは遠からずしてすたれてしまうであろう。

 航空界でも、エアクラフトには航空機、エアプレーンには飛行機という日本語ができてこそ、本物になったのである。滑空機だって、戦前から戦中にかけてそう呼んでいた時代は子どもから大人まで誰もが平気で乗っていた。しかし戦後、グライダーと呼ぶようになってからはライセンスが必要になり、乗る人も少なくなった。

 ヘリコプターもカタカナで呼んでいるうちは、借り物の感を免れない。といって法律にあるような回転翼航空機は硬すぎるし、もっと適切な言葉はないだろうか。ちなみに中国語は「直昇機」だが、これでは何だか日本語になりにくいような気がする。

 以上、私の提案をを整理すると、ホームページは「本頁」、インターネットは「電網」、ヘリコプターは思案中ということになります。そして「電脳」という言葉をもっと普通に使うべきだと思うのですが、大方のご意見、ご提案をお聞かせください。

(西川渉、1997.1.2)

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