<ILA2008>

踊るインド孔雀

 インドのヒンダスタン・エアロノーティックス社(HAL)はエクアドル空軍から発達型軽ヘリコプター7機の注文を受けた。競争相手のユーロコプター社、ロシアのカザン社などを打ち負かしてのことで、国際的な入札競争に勝ったのはこれが初めて。引渡しは半年以内に始まる。

 この軽双発ヘリコプターはHALが開発製造したもの。開発の初期段階ではドイツのMBB社の技術指導を受け、外観もBK117に似たところがある。しかし後にインドだけの開発に変わって作業に手間取ったものの、2002年から量産機の引渡しが始まった。

 このときまでに開発の始まりから20年、初飛行から10年を要している。最近までの引渡し数は約80機。インド空軍、陸軍、海軍および沿岸警備隊が使用中。

 今後は毎年40機ずつの生産を計画しているらしい。けれども昨年は6機が製造されただけであった。インド海軍も今以上の追加発注は考えられないとしており、外国向けの提案もしてはいるが、販売後の技術支援などがどこまで可能かといった問題も指摘されている。

 輸出されたのは、これまで3機のみ。そのうち1機はイスラエル、2機がネパールに売れただけであった。

 愛称はドゥルーブ(北極星)。総重量5.5トンで、エンジンはHAL-ターボメカ・スハクティが2基。航続距離660km、実用上昇限度4,500m。現在はもっぱら軍用に使われているが、HALでは民間機としてもビジネス乗用機、捜索救難、石油開発、警察、救急などの利用を希望している。

 去る5月末のベルリン航空ショーILA2008では毎日、このヘリコプターを使ったインド空軍のサラン(孔雀)ヘリコプターチーム4機の編隊飛行が披露された。

 この孔雀チームは2003年10月に結成され、翌年2月のシンガポール航空ショーで初めて公開飛行を見せた。その後も順調にデモ飛行をしていたが、2007年インド航空ショーの練習中に1機が事故を起こし、機長は重傷を負い、副操縦士が死亡した。

 今回のベルリン航空ショーは、孔雀チーム初のヨーロッパ遠征にほかならない。なお孔雀はインドの国鳥である。ついでにアメリカは白頭鷲、イギリスは駒鳥、そして日本が雉であることはいうまでもない。

 孔雀チームのILA2008での飛行ぶりは、ここをクリックして別添アルバムをご覧ください。

 

 HALはインドの国営航空機メーカーで、最近急速に業績を伸ばしており、売上高はこの3年間で2倍になった。今年3月末の決算では20.9億ドル(約2,250億円)の売上げだったが、2011年には30億ドルをめざしている。

 売り上げの大半はライセンス生産によるもので、英BAEシステムズのホーク132ジェット練習機、ロシアのスホーイSu-30戦闘機、セプキャット・ジャガー、そして旧アルーエトVヘリコプターなど。

 したがって今後、HALが大きく伸びるためには、もっと独自の航空機を開発し、国外へ販売してゆく必要があり、そのためには技術力を高める必要がある。また資金力を高めるために民間からの投資を募る。すなわち民営化が必要かもしれない。

 そのためには現状のように国防大臣の指揮下にあって、官僚たちの繁文縟礼に甘んじているようでは将来の発展性がない。このあたりの構造と組織の改変も必要という論評もある。すなわち「HALは国防組織の一部ではない。もっと世界的に打って出るべき企業ではないのか」というのだが――日本のメーカーもやや似たところがありますな。

(西川 渉、2008.7.14)

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