<小言航兵衛>

ドバイばいばい

 先日のテレビがドバイの恐るべき惨状を報告していた。絢爛豪華なホテルを初め、高さ1キロの超々高層ビルを計画し、椰子の木をかたどった埋め立てリゾート地を造成して、ぜいたくの限りをつくした都市づくりを進めてきた街である。

 しかるに何たることぞ、いつのまにかゴーストタウンに転じ、高層のコンドミニアムも居住者まばらで灯りが消え、建設途上のビルは壁が塗り立てでも破れた窓ガラスや天井板が室内に散乱したまま工事中断というすさまじさ。

 この数年来、ドバイはなんでもかんでも世界一をねらってきた。2009年には160階建てのビルが完成する予定だが、ほかにも世界最大の空港、世界最大の人工島、世界最大のショッピング・モール、世界最大のホテル、世界最大のテーマパーク、世界最大の屋内スキー場など、こけ脅しのような計画ばかり進めてきた。

 椰子の形をした巨大人工島は2000戸のヴィラ(別荘)と40軒の巨大ホテルにショッピング街、ヨットマリーナ、水上公園が付属する。豪華客船クィーン・エリザベスU世号も、あわれドバイにつながれて、余生をホテルとして過ごすらしい。

 しかし、こうしたまがい物の繁栄がなんになる。所詮は砂上の楼閣にすぎない。いずれ廃墟となって砂の中に埋もれるだろうと思っていたが、その時期が案外早く、というよりも非常に早くやってきた。

 テレビ記者によれば、建設が進むその横で崩壊が進んでいるというのである。

 先月末の英エコノミスト誌も書いている。「きらびやかな夢の都市ドバイから光が消えようとしている。つい最近まで、人はドバイのバブルがはじけるかどうか、はじけるなどは考えられないといった議論をしてきた。しかし今や、はじけた後の影響について議論するようになった」

 銀行家の中にはドバイの不動産価格は今後8割ほど下がるだろうと見る人もいる。9月以来、わずか2ヵ月ほどの間に、新しい開発物件の値段は4割も下がり、不動産会社の株価は6月以来、半年足らずで8割も下がって従業員を解雇しはじめた。

 ドバイの銀行や投資会社は、まだ表むきは調子の良いことを言いつづけているが、内実はこんな筈ではなかったとうろたえている。銀行も融資をやめてしまった。

 夢の都市が幻の都市に終わろうとしているのだ。

 ドバイのおとぎ話のような繁栄を、近隣諸国はこれまで羨望と嫉妬の目で見てきた。しかし今や、多くの人がドバイの崩壊を確信するに至った。といって、バブルのはじけた余波が自分の方へ吹き寄せてきても困るというので、今後は自衛策に乗り出さざるを得なくなった。

 しかし、彼らもまた多かれ少なかれドバイの真似をしてきた。とすれば周辺諸国でも同じようなことが起こりかねない。とりわけ石油成金のアブダビやサウジは、防御の姿勢をよほど固めなければならないだろう。というのは石油価格もまた数ヵ月間で、あっという間に7割以上も下落したからだ。

 経済の破綻は政治の混乱にもつながる。すでに、これらの国では社会不安も生じはじめた。

 このようなバブル都市はドバイばかりではない。コンピューターの普及に伴う情報技術、ITブームに沸いたインドでも、好調を誇った経済都市ムンバイが同時多発テロの攻撃にあうなど翳りが見えてきた。

 上海も2010年の万博をひかえて、人材不足、ホテル不足と騒ぎながら建設ラッシュが続いているが、今どき万博がどこまで世界の関心を呼び、観客を集めることができるのか。

 ましてや万博閉幕後は、供給過剰のホテルがガランとなり、街中で閑古鳥が鳴き始めるにちがいない。いつぞや上海を訪ねた折りも、この町の高層ビルは貴国、日本全体の高層ビルより多いという愚かしい自慢を聞いた。だから何だというのか。いずれ破れ窓から空っ風が吹きこむだけの立ち往生となるであろう。

 現に中国政府は国内のエアライン各社に対し、来年引渡される予定の大型ジェット旅客機についてキャンセルするか受領延期をするよう、経済原則を無視したような勝手な指示を出している。

 もう少し前にさかのぼるならば、第2次大戦に負けながら、横合いから出てきた中共軍が政権を乗っ取り、国連常任理事国に居坐ったまま会費は2.67%しか払わず(日本はアメリカの22%に次いで16.6%)、総額3兆円を超える日本政府開発援助(ODA)を物乞いのように貰い続け、チベット、ウィグル、蒙古を弾圧しつつ、アフリカや人類の敵・北朝鮮などに金と武器をばらまいて手勢を養うなどの恥知らずを重ねてきた。

 その国が北京オリンピックとやらを開いたが、スポーツ業界とテレビが騒いだだけで、終わったあとは経済界も一般社会も白けムードにおちいった。上海万博も似たような結果に終わるだろうから、これをバネに中国経済が発展へ向かうなどはとうてい考えられない。

 東京オリンピックと大阪万博を好機として社会と経済の飛躍的な発展を遂げた日本の顰(ひそみ)にならいたいのだろうが、支那人根性では無理というもの。

 こうした状況から、最近の英エコノミスト誌は3都市に対し「上海・ドバイ・ムンバイ、ばいばい」と訣別の引導を渡している。

(小言航兵衛、2008.12.22)


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