リージョナル・エアライナー

――独逸ドルニエ社を訪ねて――

　先日、３つの県の自治体職員の人と話をする機会があった。有難いことに、そのうちおふたりから本頁を見てますよと言われた。ただし最近はヘリコプターの話題ばかりですねとも。たしかに余り偏っては航空ジャーナリストを名乗れなくなるので、ここに９月下旬に訪ねたフェアチャイルド・ドルニエ社のもようを報告することにいたしたい。

　ドイツの秋はビール祭にはじまる。「オクトーバーフェスト」と呼ばれるこの行事は、９月下旬から10月上旬にかけて３週間ほどつづく。ミュンヘン市内の会場には一時に１万人も収容できるテントが７張りもできて、ドイツ国内はもとより世界中から800万の人が集まり、まだ陽の明るいうちから飲み、語り、歌い、踊りつつ、一挙に6,000トンものビールを飲み干してしまう。

　広大な会場には、ビアホールとなった巨大テントのほかに、見るだけでも目が回りそうなジェットコースター、空中ブランコ、フリーフォール、回転マシーンなどがいくつも設置され、若者に限らず、子どもから年輩者まで悲鳴と絶叫の中でスリルを楽しんでいる。ビールを飲んだ後にこれだけ振り回されたならば、いっぺんに酔いが回るのではないか。私は最も無難な観覧車に乗って、地上70ｍの高みからミュンヘンの町を望見するだけにとどめた。

　こうして騒いでいるうちにドイツの秋は深まり、天はいよいよ高く、空気は蒼くさえわたって、ゆるやかに起伏する大地は緑の牧草が黄ばみはじめる。そんなミュンヘン郊外のフェアチャイルド・ドルニエ社を訪れたのは去る９月の末であった。

　かねて顔見知りの営業担当部長、ヘルガ・ドリーセンさんに迎えられ、新しいリージョナル・エアライナーのレクチャーを受け、活気にあふれる工場を見せてもらった。

旺盛な開発意欲と拡大戦略

　ドイツ・ドルニエ社は1996年６月、ダイムラーベンツ・エアロスペース社から米フェアチャイルド社の傘下に入って大きく変貌した。それまで双発ターボプロップ228と328コミューター機をつくっていたものが、328のエンジンをジェットに換装する328JET（30席）の開発に踏み切り、ストレッチ型の428JET（40席）に進むと同時に、全く新しい728JET（70席）の開発にも着手した。

　428JETの開発計画は1998年５月初め米国地域航空協会（ＲＡＡ）の年次大会で発表された。そして同月下旬、ベルリン航空ショーで、もっと大きな728JET（70席）の開発計画が発表され、しかも短縮型528JET（50席）とストレッチ型928JET（90席）も手がけるという連続技で、コミューター・ジェットの開発と生産を一挙に拡大する戦略が明らかになった。

　加えて、328JETと728JETをビジネス機とするエンボイ３とエンボイ７の開発もはじまった。まことに旺盛な開発意欲といわなければならない。そうしたいくつもの計画の中から、レクチャーは728JETについておこなわれた。同機は70席クラスのリージョナル・ジェットで、528JETと928JETを含む728ファミリーの基礎をなす機体である。

　728JETの設計は1998年９月にはじまった。既存の機材を改造するのではなく全く新しい設計で、今日までの１年間に予備設計を経て、エアラインの具体的な要望を採り入れながら、この11月には最終設計が完成する。同時に胴体や主翼の製造がはじまり、１年後の2000年秋から組立てに入って、2001年３月には原型機が初飛行するという計画。試験飛行は４機でおこない、2002年４月までに型式証明を取得する予定である。

　728ファミリーの特徴は100席以下のリージョナル旅客機でありながら、キャビンは最大幅3.25ｍ、天井までの高さ2.05ｍと大きく、左右５席のゆったりした座席配置になる。通路の幅も48.3ｃｍで、ハブ空港で大型機から乗り換えてきた人も違和感はなく、快適な旅を続けることができる。

　機内はファーストクラスとエコノミークラスの混合座席配置で総数70席。このときのファーストクラスは左右４席、前後ピッチ38インチの10席になる。またエコノミー席だけにすれば75席まで増やすことも可能。この場合、客席数が少ないので緊急脱出の必要が生じた場合も前後の通常ドアだけで間に合う。したがって非常口を増設する必要がなく、機内の座席は前後に自在に動かすことができる。トイレとギャレーはキャビンの前後に設置される。

　なお同様の座席配置で、ストレッチ型928JETは85～105席、短胴型528JETは55～63席となる。３機種ともに胴体の長さが異なるだけで共通性が大きく、パイロットや整備士の資格も共通。また工具、予備品、地上機材なども共用できるので、混合フリートでも経済性が損なわれることはない。

　主翼と尾翼の開発には、スペインのＣＡＳＡ社がリスク負担で参加する。エンジンはＧＥＣＦ34-8Ｄ３ターボファン（離陸推力5,670ｋｇ）が２基。飛行性能は高度11,200ｍをマッハ0.81で飛び、航続距離は4,250ｋｍに及ぶ。ただし地域航空路線では、そんなに長い区間は少ないから、たとえば東京～名古屋間370ｋｍならば40分足らず、東京～広島間750ｋｍならば１時間５分、東京～鹿児島間1,100ｋｍならば１時間半で飛行する。

　そして東京から那覇まで1,600ｋｍを２時間10分で飛び、燃料補給をせずに戻ってくることができる。いずれの場合も乗客は70人、貨物ならば７トン余りの搭載が可能。また標準大気状態での必要滑走路長は離陸時1,524ｍ、着陸時1,372ｍである。

　操縦席は最新のグラス・コクピットで、ハニウェル・プリマスエピック電子機器を装備、計器パネルには大きな５面の平面ディスプレイに飛行情報が表示される。

(728JET)

　99年８月末までの受注機数は、ドイツのルフトハンザ・シティ航空から確定60機と仮60機。ほかに５機の確定注文を受けているが、会社名は公表されていない。またビジネス・ジェット、エンボイ７としても28機の注文を受けている。これらを合わせると総数は153機になる。

　初号機の就航は2002年５月の予定。続いて１年ほどの間隔をおいて928JETの開発を進め、2003年には就航の運びとなる。528JETはその後になるもよう。

表１　728JETファミリーの主要データ

項　　目	528JET	728JET	928JET
標準座席数	55席	70席	90席
主翼スパン	26.62ｍ	26.62ｍ	26.62ｍ
全　　長	23.17ｍ	26.03ｍ	29.28ｍ
キャビン長	13.48m	17.73ｍ	20.17ｍ
最大離陸重量	30,650ｋｇ	34,270ｋｇ	39,025ｋｇ
最大ペイロード	6,050ｋｇ	7,700ｋｇ	9,900ｋｇ
エンジン	ＣＦ34-8Ｄ１	ＣＦ34-8Ｄ１	ＣＦ34-8ＸＸ
最大推力	4,760ｋｇ×２	5,670ｋｇ×２	6,368ｋｇ×２
最大巡航速度	740㎞/h以上	740㎞/h以上	740㎞/h以上
離陸滑走路長	1,220ｍ	1,524ｍ	1,827ｍ
着陸滑走路長	1,220ｍ	1,372ｍ	1,677ｍ
航続距離	2,960ｋｍ	2,960ｋｍ	2,960ｋｍ
型式証明取得	2004年以降	2002年５月	2003年
受注機数	――	確定93＋仮60機	――

328JETの就航と428JETの開発

　もうひとつ、フェアチャイルド・ドルニエ社の最近のニュースは328JETの就航である。同機の前身となった328双発ターボプロップ機は傑作という評価だったが、技術的にはすぐれていても見た目が良くないのか、高価に過ぎたのか109機しか売れず、利益も上がらぬためダイムラーベンツ社がドルニエを手放すきっかけとなった。

　これをジェット化する328JETは、1996年ドルニエがフェアチャイルドに移って間もなく開発がはじまり、1998年１月20日に初飛行したのち、４機で1,500時間以上を飛んで1999年７月に型式証明を取得した。

　ターボプロップからジェットへの転換にあたって、構造上の改修は比較的少なく、重量増加のために主翼と脚の取りつけ構造が強化されたが、翼面積は変わっていない。ただし主翼の一部が強化され、翼内燃料タンクが大きくなり、ＰＷ306エンジンを取りつけるためのパイロンが新しくなった。操縦翼面も大きさは変わらないが、高速化にそなえて空力的に洗練されている。

　飛行性能は、当然のことながらジェット化によって大きく向上した。とりわけ離着陸性能、速度、航続距離が良くなり、離陸後14分余りで高度9,450ｍに達し、最大巡航速度は120㎞/h増の740㎞/hになった。また標準型は最大離陸重量15,200ｋｇで、航続1,370ｋｍ。重量増加型は最大離陸重量15,654ｋｇで、航続1,670ｋｍとなっている。

　量産機は、最初の２機が８月９日ローンチ・カスタマーの米スカイウェスト航空に引渡された。同航空はミルウォーキーを拠点とするコミューター航空会社で、328JETを確定５機、仮10機発注している。これまでは15機のビーチ1900Ｄ双発ターボプロップ機（19席）を運航してきたが、今後は328JET（32席）に切り替え、路線の拡大に向かうこととなる。

　その後１か月余りの間に、合わせて７機の328JETが引渡された。内訳はスカイウェイ航空へ４機、英シェル石油、独ドグモッホ社、米オザーク航空へ各１機である。

　また328JETをビジネス機として改装するエンボイ３も間もなく型式証明を取得できる見こみ。同機は328JETコミューター機に燃料タンクを増設し、乗客10人で3,700ｋｍの航続性能をもつ。

　他方、ストレッチ型の428JETは、乗客44人乗り。胴体の引き延ばしに伴って主翼が大きくなり、スパンは80ｃｍ増となった。翼端の形状もやや丸くなっている。エンジンは出力増加型のＰＷ308Ｂ（最大推力3,630ｋｇ）が２基。

　428JETの開発と量産について、フェアチャイルド社はこのほどイスラエル・エアクラフト社（ＩＡＩ）と契約を結び、胴体の設計と製造、および最終組立てをイスラエルでおこなうことになった。これより先の６月にはシステムの技術開発、飛行試験、および型式証明取得の支援をおこなう契約が調印されている。

　これで428JETはイスラエルのベングリオン国際空港にあるＩＡＩの工場でグリーン・エアクラフトとして組み立てられたのち、ここドルニエ社の工場まで飛んできて、顧客の要求に合わせた最終的な塗装や内装工事を受ける。

　ＩＡＩが428JETの開発に協力することになって、同機の開発日程は当初の計画よりも１年早められる予定。ドルニエ社の方も328JETが完成し、428JETの手があいて、728JETに専念することができる。

　なお428JETの最近までの受注数は、米アトランティック・コースト航空（ＡＣＡ）から確定30機、仮55機となっている。

表２　328JETと428JETの主要データ

項　　目	328JET	428JET
主翼スパン	20.98ｍ	21.78ｍ
全　　長	20.91ｍ	20.10ｍ
キャビン長	10.28ｍ	13.55ｍ
最大離陸重量	15,200ｋｇ	19,800ｋｇ
運用自重	9,344ｋｇ	11,645ｋｇ
客席数	32席	44席
最大ペイロード	3,266ｋｇ	4,855ｋｇ
エンジン	ＰＷ306Ｂ	ＰＷ308Ｂ
最大推力	2,740ｋｇ×２	3,630ｋｇ×２
最大巡航速度	740㎞/h	778㎞/h
離陸滑走路長	1,304ｍ	1,420ｍ
着陸滑走路長	1,292ｍ	1,341ｍ
航続距離	1,660ｋｍ	不詳
型式証明取得	1999年７月	――
受注機数	確定84機＋仮51機	確定35機＋仮55機

三つ巴の開発受注競争

　こうしたリージョナル・ジェットは、フェアチャイルド社のほかにもカナダのボンバーディア社とブラジルのエンブラエル社が同じような機材の開発と生産を進めている。

　ボンバーディア社では先行するＣＲＪ-200（50席）に続いて、ＣＲＪ-700（70席）の開発が進んでおり、将来はＣＲＪ-900（90席）の開発も計画されている。また30～40席クラスの開発を構想中とも伝えられる。

　エンブラエル社ではＥＲＪ-145（50席）の生産が進み、今年夏からはＥＲＪ-135（37席）も引渡しに入った。将来に向かってはＥＲＪ-170（70席）とＥＲＪ-190（90席）の開発もはじまっている。特に６月のパリ航空ショーではスイスのクロスエアからＥＲＪ-170を30機、ＥＲＪ-190-200（108席）を30機、ＥＲＪ-145を15機受注、さらに162機の仮注文を受けて、同社の意気は大いに上がっている。その勢いを駆って９月末には、新しいＥＲＪ-140（44席）の開発計画も明らかにされた。

　これはＥＲＪ-145とＥＲＪ-135の中間をゆくもの。胴体は全長28.52ｍで、ＥＲＪ-135よりも2.30ｍ長いが、主翼スパンは20.04ｍと変わらず、最大離陸重量は20,100ｋｇ。エンジンはロールスロイス／アリソンＡＥ3007ターボファンが２基。離陸滑走路長は1,720ｍ。最大巡航速度はマッハ0.78で、向こう10年間に750機の需要を見ている。機体価格は1,520万ドルで、2001年春から引渡しに入る計画。

　こうして３社三つ巴の競争は開発面と受注面で、今や最高潮に達した感がある。しかもボーイング717（100席）、エアバスＡ318（100席）、英アヴロＲＪＸ（85席）などの強敵も、この市場に乗りこんできた。

　とすれば、果たしてメーカー各社はこれだけの新機種を開発して採算に合うのか。エアラインの方にも、多数の機材を吸収できるような需要があるのだろうか。フェアチャイルド・ドルニエ社は次のような見方をしている。

　リージョナル航空はこれから従来の境界を越えて発展するであろう。機材の大きさは今の50席クラスから70席クラスへ進み、さらに90席クラスへ拡大する。そして90席機はもとより、70席、50席クラスでもジェットが主流となろう。今年上半期の受注状況を見ても、ターボプロップ74機に対して、ジェットは369機で断然多い。

いっそうの大型化とジェット化

　ドルニエの見方がつづく。リージョナル・ジェットは今のところ50席クラスとわずかな30席クラスに限られているが、70席クラスが就航すれば、リージョナル・エアラインと大手エアラインとの区別がなくなり、両者の関係はいっそう緊密になるであろう。しかし成長率ではリージョナル航空の方が大きく、将来は競争関係が生じるかもしれない。

　中小型機のメーカーは、ターボプロップも含めて現在さまざまだが、将来はフェアチャイルド、ボンバーディア、エンブラエルの３社、もしくはどこかもう１社を加えた４社に落ち着くであろう。

　それらのメーカーが生産する機材は19席機が消えてゆき、30席機も当分は存続するが、40席機が出てくるにつれて減って行く。また70席機は新しい主流代替機として、従来のターボプロップ機や旧式のジェット旅客機にとって代わるだろう。

　一方、リージョナル航空の旅客需要は1990年の１億人余りから99年の２億人余りへほぼ倍増し、2018年までの20年間には５億人を超えて2.5倍となる。これらの見方から――といっても、レクチャーではどんな計算をしたのか説明はなかったが、今後20年間のリージョナル航空機の引渡し数は表３のように推定されるという。

表３　リージョナル・ジェットの生産予想機数

機材の大きさ	2000～2009年	2010～2019年	合計（2000～2019年）
30席クラス	276	350	626
40席クラス	884	540	1,424
50席クラス	1,057	1,076	2,133
70席クラス	1,088	993	2,081
90席クラス	814	736	1,550
合　　計	4,119	3,695	7,814

　この中にはターボプロップ機も含まれるから、機種の数はかなり多くなるが、たとえば50席と70席クラスではそれぞれ2,000機を超える需要があるので、４機種が競合しても、１機種500機以上の需要を獲得できることになる。１機種の生産数が500機を超えれば、一応の成功といってよいだろう。

　90席クラスでも３機種ならば同じことがいえるが、この分野は英アヴロ社はもとより、ボーイングやエアバスも競争相手となるから、かなり難しい市場である。また30席と40席クラスは両方合わせて約2,000機と見ることができよう。これで４機種がまかなえることになる。

　結論として、リージョナル航空界は、21世紀に入っていっそうの大型化とジェット化が進むであろう。

(928JET)

「スコープ・クローズ」の問題

　ただし、ここで問題が一つある。それは北米の大手エアラインに見られる乗員組合との労使協定である。この中に制限条項があって、今のままでは大型リージョナル機の導入が困難になるという問題である。

　たとえば表４に見るように、地域別の需要は北米市場が全需要の41％を占めて最も大きい。けれども大型機の導入が制限されているため、１機あたりの平均座席数は1998年末で47.3席だったし、2000～2019年に引渡される機材の平均座席数も56.1席にしかならない。

　これに対して欧州の機材需要は平均座席数が63.6席であり、その他の地域もすべて60席を超える。ひとり北米だけが小さいわけで、それに引きずられて世界の平均も59.8席になってしまった。

表４　地域別の需要予測（2000～2019年）

地　　　域	需要構成比	平均座席数
北　　米	42％	56.1席
欧　　州	31％	63.6席
アジア太平洋地域	13％	60.7席
中南米	12％	60.8席
アフリカ・中東	２％	60.2席
合　　　計	100％	59.8

　このように北米の機材が小さいのは、「スコープ・クローズ」と呼ばれる制限条項が原因の一つである。発端は大手エアラインの経営戦略にあった。競争の激化に向かって、大手エアラインはパイロットの人件費を削減するため、中小のリージョナル・エアラインを子会社または提携会社として傘下に入れ、そこにリージョナル・ジェットを投入、人件費の安いパイロットで飛ばすことにより、経費を抑えていこうと考えるようになった。

　こうした戦略がリージョナル・ジェットの売れ行き好調を促している要因でもある。しかし、本来のパイロットたちからすれば、そのことは自分たちの給与水準が下がり、職場が減って行くことを意味する。それを懸念して乗員組合の反発が生じ、会社側との間にパイロットの権益を護るための労使協定が結ばれるようになった。その中にリージョナル・ジェットの座席数や機数を制限する条項が定められたのである。

　たとえばＵＳエアウェイズでは、傘下のリージョナル機について総数35機、または幹線を飛ぶ全機数の９％以下に制限している。さらに機体の大きさも客席数69席以下、貨物機ならば重量31,750ｋｇ以下でなければならない。

　同様にユナイテッド航空の協定は、傘下の企業５社のリージョナル・ジェットを合わせて65機に制限している。また機材の大きさも50席以下、もしくは最大離陸重量27,200ｋｇ以下でなければならない。これでは傘下のアトランティック・コースト航空（ＡＣＡ）が328JETや428JETを55機も追加することはできない。このためフェアチャイルド社も、正式契約を結ぶことができないでいる。

制限条項が取り払われたとき

　こうした協定の中で、アメリカン航空のものは最も細かい。子会社アメリカン・イーグルのフィーダー便に使用するリージョナル・ジェットを67機までとした上、出発地や目的地を具体的な都市名をあげて便数と共に制限し、路線は平均1,000ｋｍ以下、旅客輸送距離は親会社の1.5％までとしている。その結果、アメリカン・イーグルのＥＲＪ-145は最近まで全く親会社の飛んでいる幹線には入ってなく、わずか２％の便が大型ジェットの補完便として飛んでいるに過ぎない。加えてイーグルの平均区間距離537ｋｍは北米で飛んでいるリージョナル・ジェットの区間としては最も短かく効率の悪いものとなっている。

　逆にゆるやかな協定は、たとえばデルタ航空の場合、リージョナル・ジェットの機数も、就航路線の長さも制限はなく、客席数を70席までとしているだけである。コンチネンタル航空の協定も機材の大きさを59席までとしているだけで、機数や区間距離の制限はない。そのため、70席機を使うことはできないが、機数の制限がないから50席クラスの機材をいくらでも導入し、不採算路線をどんどんリージョナル機に切り替えている。こうして北米の場合は、同じリージョナル・ジェットといっても、比較的小型機が増える傾向にある。

　ただし、このような制限協定がいつまで続くか、いずれはなくなるだろうという見方も出てきた。ひとつは傘下のリージョナル企業といっても、子会社ではない場合、赤の他人の経営戦略を制限したり、妨害したりすることができるのかという疑問である。

　もうひとつは、大型機による赤字路線の場合、それをいつまでも続けることはできない。したがって路線を手放し、運航を中止することになるが、そのあとでどこかのリージョナル企業が入ってきて中小型のジェットを飛ばすことは大いにあり得る。

　第３に大手エアラインが自ら撤退しなくても、全く関係のないリージョナル企業が同じ路線に参入してくれば、対抗するのはむずかしい。結局は撤退せざるを得ず、大手エアラインの経営縮小につながる。

　こうしてフェアチャイルド・ドルニエ社は、北米市場におけるスコープ・クローズを問題視すると同時に、その制限条項が取り払われたとき市場は一挙に拡大すると見ている。

日本にもジェット化の波

　ドリーセンさんのレクチャーを受けた後、機体の組立工場を見せて貰った。工場の正面には大きな垂れ幕がかかっていて、ドイツ語と英語で「祝 728JET契約調印、1999年４月29日」と書いてあった。

　アセンブリーラインには組立て途中の328が数機並んでいた。それぞれに胴体の接続、機首とコクピットの取りつけ、主翼の装着、エンジンの装備、艤装や電気配線などがおこなわれている。

　ここでグリーン・エアクラフトが出来上がると、目の前の滑走路に引き出され試験飛行をおこなう。そして機能点検と飛行性能の確認をした上で、仕上げショップに送られて塗装と内装がほどこされる。

　工場の生産能力は、328ターボプロップと328JETを合わせて月産７機。ただし現在は328JETの生産がはじまったばかりで、月産機数はおよそ４機とのことである。

　最終仕上げを終わった機体の中には、米オザーク航空向けの328JETが見られたが、新中央航空向けの328ターボプロップ機も目についた。明日ここで引渡し式をおこない、日本に送り出されて調布から伊豆諸島へのコミューター路線に就航するという。

　この機体はジェットではなかったが、いずれ近い将来、日本のコミューター航空界にもジェット化の波が寄せてくるであろう。

（西川渉、『エアワールド』誌、2000年１月号掲載）

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