ECヘリコプター総覧 

 ユーロコプター社が日本の川崎重工業とともに過去20年間にわたって製造してきたBK117は、間もなく後継機のEC145が量産型の引渡しに入って後を譲ることになっている。

 ところが最近のニュースによると、製造ラインをイタリアに移し、新しいアビオンラインという会社で製造が続くらしい。同社はユーロコプター社とイタリアの整備会社ヘリコプター・イタリア社との合弁企業で、おそらくはEC145よりも安い価格で救急ヘリコプター市場をねらって販売をつづけるのが目的であろう。2002年には取り敢えず7機の製造を予定しているとか。これでイタリア国内市場ではアグスタ社との間で激しい販売競争が闘わされることとなろう。

 一方ドイツ側のユーロコプター社ドナワース工場では新しいEC145とEC135の最終組立てが業務の中心となるが、軍用ヘリコプターのタイガー攻撃機とNH90輸送機の量産も本格化することになる。

 こうした話題のほかに、ユーロコプター社からは今年、さまざまな話題が送り出された。その中から特に新しいEC機にしぼって整理したのが以下の「ユーロコプター総覧」(『エアワールド』誌掲載)である。

 

 今ユーロコプターの話題が盛んである。今年6月のパリ航空ショーでも同社のゾボタ上級副社長は、今後ヘリコプター需要の拡大をはかるにはどうすればいいかという記者団の質問を受けて、第1に騒音の軽減、第2に運用能力の拡大、第3にコストの削減と答えた。静かで、力が強く、機体価格や運航費が安いヘリコプター――そういうものをつくればよく売れるということであろう。

 最近のECヘリコプターはまさに、そうした目標を実現しつつあるかに見える。そのもようを各機種について総覧整理しながら、以下に見てゆくこととしよう。

ユーロコプター機の先駆け

 ユーロコプター社はドイツのMBB社とフランスのアエロスパシアル社が合併した国際企業である。MBBはドイツ旧来のメッサーシュミット、ベルコウ、ブロームの3社が一緒になったものだが、この中でベルコウは1964年、BO46実験機を飛ばした。そしてMBBになってからは世界初の複合材ブレードを実用化したBO105(初飛行1967年)をつくり、川崎重工業との間でBK117(1979年)の共同開発に進んだ。

 一方アエロスパシアル社は、前身のシュド・アビアシオン社がSE3101実験機(1948年)やSE3120アルウェットT(1951年)などの試作段階を経てSE3130アルウェットU(1955年)、SE3180アルウェットV(1958年)、SE3200/3210シュペルフルロン大型機(1959年)、SA330ピューマ(1965年)、SA342ガゼル(1967年)などを開発した。そして1970年アエロスパシアル社となってからはAS350(1974年)、AS365(1975年)、AS332シュペルピューマ(1978年)、AS355(1979年)などを生産した。

 こうした独仏の両社は1992年1月16日、ユーロコプター社として合併するや、10年足らずの間にEC135(1994年)、EC120(1995年)、EC155(1997年)、EC145(1999年)、EC130(2000年)、EC725/225(2000年)と矢継ぎ早の開発と実用化に成功した。ほかにもユーロコプターは、NH90輸送機とタイガー攻撃機の開発と生産にたずさわっている。が、これら国際共同開発機については別の機会に取り上げることにしたい。

EC機の呼び名

 ところで最近のユーロコプター機は、すべてECの文字と3桁の数字で呼ばれるようになった。この命名法はどんなルールか、ご存知だろうか。ECはむろんユーロコプターの意。それに続く3桁の数字は、最初の100の位が民間機と軍用機を分ける。1〜4ならば民間機、5〜9ならば軍用機をあらわす。

 10の位は重量を示す。2は2トン級、3は3トン級といった具合。そして最後の1の位はエンジン数で、0は単発機、5は双発機である。

 したがってEC120は民間向け2トン・クラスの単発機、EC130は民間向け3トン・クラスの単発機、EC135は民間向け3トン・クラスの双発機、EC145は民間向け4トン・クラスの双発機、EC225は民間向け12トン・クラスの双発機ということになる。最後のEC225は12トンの下1桁だけを取っている。

 同様にEC725は軍用12トン・クラスの双発機、EC635は軍用3トンクラスの双発機になる。では3発機ならば末尾の数字がどうなるか。そこまでは訊かなかったが、この命名法からすれば当分3発機をつくる積もりはないのかもしれない。

 それはともかくとして、これらECヘリコプターとその先駆け機種を整理すると下表のようになる。

 

ユーロコプター機総覧

クラス

ECヘリコプター(初飛行、エンジン、最大離陸重量)

先駆機

大型機

EC225/725(2000年、双発、11,000kg)

NH90
AS332/532

中型機

EC155/655(1997年、双発、4,800kg)
EC145(1999年、双発、3,550kg)

AS365/565
BK117

小型機

EC135/635(1994年、双発、2,835kg)
EC130(2000年、単発、2,400kg)
EC120(1995年、単発、1,715kg)

AS355/555
AS350/355

特殊機

タイガー攻撃機

――

大型EC725/225の開発

 ECヘリコプターの中で最も新しい話題はEC725/225である。昨年11月、クーガー/シュペルピューマMk2+という呼称で初飛行したが、今年になってすっきりした名前がついた。

 シュペルピューマはこれまでユーロコプター最大の機体として、世界48か国から580機の注文を受けている。しかし近年、EH-101やS-92といった競争相手が出現し、みずからも欧州5か国の共同でNH90を開発、シュペルピューマの役割はこれで終りかと思われた。ところが、ここにきて新たな技術を取り入れ、発展型へ進むことになったのである。

 そのことを期して、ユーロコプターはどうすればシュペルピューマの魅力を増大させ復活させるか、密かに考えてきた。たとえばキャビンを大きくして、Mk3といったものを開発するという案もあったが、それには開発費がかかりすぎる。というので機体の大きさは変えずに、搭載量や飛行性能などの能力を高めたMk2+で行こうということになり、これがEC725/225につながった。

 ここに至るまで、もうひとつ問題があった。それは1995年5月にさかのぼるが、フランス政府が捜索救難機としてAS532A2を発注した。それまでのAS532クーガーに対し、胴体をやや引き延ばして16.79mとし、尾部ローターを5枚ブレードから4枚に減らすというもの。主要任務は戦闘救助で、海上や敵地に撃墜された味方兵員を探し出し、迅速かつ正確にその場所へ到達しなければならない。

 そのためにはパーソナル・ロケーター・システム(PLS)を初め、夜間でも気象条件の悪いときでも飛べるような航法電子機器が必要だし、敵の迎撃を受ける恐れがあるから機銃、機関砲、ロケット弾などの武装も必要になる。

 ところが、このAS352A2は6年後の今も完成していない。というのは、元来が複雑な機能を求められている上に、途中でもっと高い要求が出たのである。そのため従来のクーガーMk2では、要求を満たすのがむずかしくなってきた。試作機は1999年9月9日に引渡されたが、満足すべきものではなかった。

 そこで開発努力はMk2+、すなわちEC725へ転向した。飛行性能を確保するため、ユーロコプターは設計作業の初めからエンジン・メーカーのチュルボメカに対し、マキラ・エンジンの出力増強を要請した。その結果、新しいマキラ1A4エンジンは出力が14%増となり、離陸出力は2,100shpで、緊急出力もそれなりに強化された。また2チャンネルの完全ディジタル・エンジン・コントロール装置(FADEC)も付くようになった。


(EC725)

主ローターは5枚ブレード

 エンジン出力の増加に伴い、それを受けるトランスミッションも強化された。万一のときは、滑油がなくなっても30分は運転できる。

 主ローターはブレード数が5枚に増え、直径が大きくなった。ブレード形状もNH90の技術を採り入れて改められ、全体として揚力が増えた。ローターヘッドはスフェリフレックス機構で、基本設計は変わらないが、Mk2のダンパーを利用するなどいくつかの部品を改良した。その結果、新しいローターは振動がいちじるしく減り、振動吸収装置も不要になった。その代り防氷装置がつくようになって、クーガーMk2の弱点が解消された。

 以上のようなダイナミック系統の改良に加えて、アビオニクスも進歩した。計器パネルには4面の大きな液晶ディスプレイがついた。大きさは15cm×20cmだが、それよりやや小さい10cm×15cmのディスプレイ2面もパネル中央部に追加し、エンジンその他の諸系統のデータを表示するようにした。

 無線機は30MHzから400MHzまでの幅広い周波数帯をカバーし、衛星通信もできる。ディジタル・マップ・システムも追加された。

 防御用の機器としてはレーダー警報装置、レーザー警報装置、ミサイル警報装置、チャフおよびフレヤー・ディスペンサーがつき、戦闘用の火器は20ミリ砲、7.62ミリ機銃が前方両側にあって、それぞれ1,000発ずつの弾丸を搭載する。

 飛行中の空中給油も可能になった。これは欧州製ヘリコプターとしては初めての装備で、プローブの長さは7mほど。C-130からの補給ができるが、フランス陸軍がこれを使うかどうかは決まっていない。

 こうしたEC725は2004年なかばまでに4機が陸軍へ配備される。原型1号機は2000年11月27日に初飛行した。2番機は2001年9月、3番機は10月に飛び、2003年には軍用機としての運用承認が得られる見こみ。これらの試験機は2番機以降が軍に納められ、まずは1.44億ドルで4機が納入される。2015年までには14機という計画で、カナダ海軍の大型ヘリコプター導入計画28機もねらっている。

 一方、民間型EC225は去る6月のパリ航空ショーで、カナダのCHCヘリコプター社から注文を受けた。2002年末までに型式証明を取って、引渡される予定。 これを、CHCは海洋石油開発の支援飛行に使う計画で、乗客19人を乗せたときの航続距離は規定の予備燃料を残して740km以上になる。

EC130B4軽単発機の登場

 軽単発ヘリコプターEC130B4は今年2月、国際ヘリコプター協会(HAI)年次大会「ヘリエキスポ2001」で初公開された。既存のAS350B3から機体構造の主要部分と主ローター、エンジン、操縦系統を取り入れたもの。したがって基本的にはAS350の発達型で、機体構造も変わらないというが、外観は見違えるばかり。内容もAS355Nから2重油圧系統、EC120Bからキャビン構造とスライディングドア、EC135からフェネストロンを準用している。

 機体は横幅を大きく広げ、AS350のキャビン幅が1.87mだったのに対し、EC130B4は2.03mと16cmも広がった。機内もAS350に対して長さが0.3mほど延びた。そのため容積は24%増の3.6立米。これにより座席数はパイロットを含めてゆったり7人乗りとなったが、最大8席とすることも可能。このキャビンをユーロコプター社は「静寂の空間」と呼び、静かで快適な乗り心地を売り物にしている。エアコンも新しく、窓外の視界も広い。

 キャビン左側には大きなスライディングドアが標準装備でついた。後方手荷物室はAS350と同様、両側から出し入れができるが、容量は22%増の1.09立米となった。

 エンジンはAS350B3と同じチュルボメカ・アリエル2B1ターボシャフトが1基。離陸出力847shp、最大連続出力は728shpだが、2重チャネルのFADECがついたために、エンジン始動が簡便になった。スロットルをグラウンド・ポジションに置いてスタート・ボタンを押すだけでいい。あとはFADECが自動的に最適の温度状態で始動してくれるからホットスタートも起こらないし、燃料流量もコンピューターが回転状態を感知しながら調節してくれる。また2重チャネルだから、何らかの故障が起こったときも、もうひとつの系統が機能を発揮する。これで飛行中の緊急事態にも的確に対処できるようになった。

 さらにFADECは巡航飛行中、主ローターの回転数を自動的に3.5%ほど落とし、400rpmを387rpmに減らす。これで人の耳に聞こえる騒音はAS350にくらべてはるかに静かになった。ICAOの基準では全備重量で上空を通過したときの音は84.3デシベル以下でなければならないが、EC130B4はこれを8.5デシベル下回る。

 主ローターは、複合材製ブレードが3枚でAS350と変わらない。しかし尾部ローターがフェネストロンになった。これはEC135の技術を採り入れたもので、騒音の減少と共に安全性が向上した。ちなみにアメリカでは昨年、尾部ローターに起因する事故が38件も起きている。


(パリ航空ショーでのEC130B4)

増安定装置なしで優れた安定性

 もうひとつ、フェネストロンの利点は操縦性の改善である。通常の尾部ローターは通過する気流がテールブームや垂直フィンにぶつかるような構造にならざるを得ない。その分だけ反トルク効率が悪くなるから、本来の機能を持たせようとすれば余分の出力をかけなければならない。ときにはエンジン出力の25%も食うことがある。しかも尾部ローターを通過する空気量が多くなると、騒音が増大する。

 さらに尾部ローターをコントロールするには油圧を使うが、フェネストロンにはその必要がない。油圧が不要な分だけ、重量もコストも減らすことができる。

 フェネストロンを囲む大きな垂直尾翼は方向安定にも役立つ。前進速度が60ノットになると、ヘディングは垂直尾翼で保持されるようになり、ほとんどペダルを使う必要がない。したがって巡航飛行中、何らかの原因でフェネストロンが故障しても、EC130B4は適当な不時着場が見つかるまで、方向安定性を失わずに飛び続けることができる。

 コクピットは風防が大きく、足もとも透明で、パイロットの視界が広い。足もとがよく見えるから、せまい場所へも容易に進入着陸ができる。

 計器パネルには液晶ディスプレイが2面。機体とエンジンの多機能ディスプレイになっていて、飛行限界インディケーター、トルクメーター、排気温度、ガスジェネレーター・タコメーターなどを表示する。

 飛行特性は、機体幅が大きくなった分だけ、わずかながら空力的な要素が変化した。そのため、テールブーム後方の水平安定板を両側で2インチずつ延ばし、ピッチングの安定を維持できるようにした。加えて降着装置の後側クロスチューブにEC120と同じフェアリングをかぶせた。これは飛行中のヨー安定性を高めるもので「プロファイラー」と呼ばれる。

 飛行はスムーズで、130ktまで加速しても振動はない。安定性も良くて、増安定装置やオートパイロットがないにもかかわらず、手を放しても飛行姿勢は変わらない。オートローテイションはAS355の改良型ローターブレードをつけたAS350によく似ている。フレヤーもなめらかで、衝撃のない接地ができる。

開発費を省いて価格を引下げ

 EC130B4の最大離陸重量は2,400kgで、AS350B3より150kg大きい。また標準装備状態での有効搭載量は1,040kgである。そこで1人77kgとして7人分の重量539kgと満タンの燃料440kgを差し引いても、まだ61kgの余裕が残る。言い換えれば満席満タンでも最大全備重量に達しない。この余裕こそは大きなセールスポイントといえよう。

 逆に、機首の横幅が大きくなったことで、多少とも抵抗が増したことは確かである。その分だけ速度が遅くなるわけで、実際にEC130B4の巡航速度は最大離陸重量で131ノット。AS350B3よりも9ノット遅い。またエンジンが同じだから燃料消費も同じである。とすれば巡航速度の遅い分だけ航続距離は短くなる。実際EC130B4の航続距離はAS350B3の6%減となっている。なお機外吊下げ重量は1,160kgでB3と変わらない。

 こうしたEC130B4は昨年12月、型式証明を取得した。完成が早く、しかもパブリック・アクセプタンスに適った近代性をもっているのは、最近のECヘリコプターから新しい技術を採り入れたためである。したがってEC130B4の開発には大規模な設計作業はなく、時間と費用がかからず、余分な開発費を省いた分だけ機体価格も安くなった。

 型式証明は今のところ有視界飛行に限られているが、パイロット単独での計器飛行証明の取得も時間の問題であろう。

 EC130B4のめざす市場は、2月のヘリエキスポで展示されたブルーハワイアン航空のような遊覧飛行を初め、報道取材、石油開発、救急、警察、ビジネス輸送など、何にでも向く。6月のパリ・ショーでは米ロッキーマウンテン・ヘリコプター社が救急用として10機を発注した。

 ロッキーマウンテンは米国有数のヘリコプター救急会社で、現在85機の救急機を飛ばしている。これまでAS350を救急業務に使ってきた経験から、EC130が同じように救急機として適すると確信している。とくにキャビンが大きくなったことから、医療機器の搭載を増やすこともできるし、搭乗者の増加も可能。必要なときは飛行中の機内で治療もできると見ている。患者も2名の搭載が可能で、単発機の中で2人分のストレッチャーが搭載できる機体はほかにない。

 EC130B4は2001年末までに15機が生産され、2002年は45機が引渡される計画。先駆けとなったエキュレイユ/フェネックは、これまで3,150機が売れ、飛行実績は1,138万時間に達している。


(パリ航空ショーのEC145)

BK117を近代化したEC145

 EC145は、間もなく量産機の引渡しがはじまる。今年6月、筆者がユーロコプター・ドイツ社のドナウヴァース工場を訪れたときは、組立てラインに4機の量産機が並び、完成に近づいていた。

 本機はご承知のとおり現用BK117-C1の発達型で、日本ではBK117-C2と呼ばれる。ユーロコプターと川崎重工との共同開発機が、なぜ国によって呼称が違うのか。EC145と改称すれば型式証明の取得に際して、航空局への申請手続きを白紙から始めることになるためと聞いた。実質が変わらなくとも、名前が変わるだけで全てが白紙に戻るという奇妙な建前主義には疑問が残る。ここでは以下EC145で通すこととする。

 EC145はBK117C-1にくらべて総重量が3,550kgと大きくなり、ペイロードも約1,770kgまで増えた。キャビンも、長さは2.56mから2.96mになり、幅も18cm広がって1.39mとなった。これでパイロット1人のほかに乗客9人、詰めれば10人が搭乗できる。

 またBK117のキャビン中央部にあったセンターポストがなくなり、使い勝手が良くなった。胴体左右のスライディング・ドアからはドア・ポストもなくなった。

 主ローターも新しい。ブレードの形状が変わり、先端に向かってテーパーする。これで揚力が増し、騒音が減った。騒音レベルはBK117にくらべて平均6.7デシベル低い。もとよりICAOの規定を大きく下回る。

 機首とコクピット部分はEC135の準用である。電気系統、暖房、新しいアビオニクスもEC135の技術を採用し、最新のアビオニクスを装備するグラス・コクピットは、パイロットの労力負担をいちじるしく軽減している。

 EC145の初飛行は1999年6月12日であった。日本側でつくった川崎製のBK117C-2が原型2機目のEC145として飛んだのは2000年3月15日。以後ドイツ側で2機が飛び、総勢4機で試験飛行がつづいている。

 型式証明は昨年12月、ドイツ連邦航空局(LBA)から与えられた。しかし、これは有視界飛行のみの承認だったため、目下、計器飛行(IFR)の承認を取るため試験飛行が続いてる。間もなくパイロット単独のIFR飛行の承認が得られる見こみである。

 受注数は、かねてフランス防災局から32機、フランス国家警察から8機となっていたが、今年のパリ航空ショーで欧州の二つのヘリコプター救急機関――スイス・エアレスキューREGAから4機とドイツ自動車クラブADACから2機の注文を得た。日本でも15機を受注したと伝えられる。

 引渡し開始の時期は今秋か、遅くも2002年初めからと聞いた。


(独ドナワース工場で開発試験飛行中のEC145)

出力を増強したEC135

 EC135に関する最新の話題は、PW206B2を装備した新しい機体の引渡しがはじまったことであろう。この初号機は去る8月10日スウェーデン国家警察へ引渡された。

 PW206B2エンジンは、これまでの206BエンジンにPW207のコア部分を組み合わせて開発されたもの。出力は11%増の816shpとなった。これでEC135は、全備重量の制限なしでカテゴリーAの飛行ができる。

 スウェーデン警察はこの新しいEC135を7機発注しており、2年以内に全機受領の予定。またドイツのババリア警察も1997年以来9機のEC135を使用しているが、この9月から順次、従来のPW206BエンジンをすべてPW206B2に換装する。

 EC135が市場に導入されたのは1996年である。以来5年間に230機の注文を受けた。顧客は企業、警察、救急機関、軍隊など。20か国以上で飛行しており、軽双発ヘリコプターとしては同クラスの機種の中で最も成功している。1999年12月には、パイロット単独の計器飛行証明も取得した。

 エンジンは空気汚染が少ない。騒音はこのクラスの機種としては最も小さい。またARISと呼ぶ防振システムによって、乗り心地は快適である。FADECは2重で、燃料コントロールは最良の効率になり、安全でもある。

 ローターブレードは複合材製。ローターヘッドはオンコン整備で手間や費用がかからない。

 最近までの引渡し数は200機に近い。8月10日にはオーストリアの救急機として製造番号187号機が引渡された。これは運航者のオーストリア自動車クラブOAMTCにとって12番機に当たる。OAMTCは総数18機を発注しているから、全機受領すれば世界最大のEC135フリートを擁することになろう。フランスのヘリキャップも国の救急機関SAMUとの契約で現在12機のEC135を救急用に運航している。

 軍用型のEC635は2001年5月、初の火器発射試験に成功した。同機のローンチ・カスタマーとなったポルトガル向けの試験で、12.7ミリ機銃、20ミリ砲、70ミリ・ロケット弾などの発射が試みられた。ポルトガル軍はEC635を9機発注している。


(パリ航空ショーのEC135)

ベストセラーのEC120B

 EC120Bは2001年3月29日、量産200号機が引渡された。1号機の引渡しから2年余り、100号機の引渡しからは1年もたっていない。つまり同機は年間およそ100機ずつ売れているベストセラー機で、3月末現在32か国から256機の注文を受けている。このクラスの単発タービン・ヘリコプターの中では最も成功したといってよいであろう。

 この新世代の小型機がよく売れている理由について、ユーロコプター社は顧客の意見を充分に取り入れ、5人乗りの小型機としてはホバリング性能にすぐれ、ペイロード航続性能が良く、多用途性を有するためと説明している。

 またダイナミック・コンポーネント、エンジン、機体、アビオニクスは最新の技術を採用した。たとえばローターヘッドはスフェリフレックス機構。フェネストロンは8枚のブレードが不等間隔で取りつけられ、騒音はICAO基準より6.6デシベルほど小さい。

 エンジンはチュルボメカ・アリウス2Fターボシャフト(504shp)。整備費がかからず、燃費が少ないように設計されている。

 機体部品はほとんどが複合材製。キャビンは5人乗りだが余裕があり、後部には0.8立米の大きな手荷物室がついていて、機体の外からもキャビン内部からも出し入れができる。

 計器パネルには多機能ディスプレイVEMDがつく。飛行データとエンジン・データの両方を表示、パイロットの作業負担を軽減する。それだけ安全性が高まるわけで、危険な機外吊下げ作業などにはすぐれた機能を発揮する。

 最大離陸重量は1,715kgに増加した。これで750kg以上のペイロードを搭載して730kmの距離を230km/hの速度で飛ぶことができる。カーゴスリングの吊上げ容量は最大700kg。このときの最大全備重量は1,800kgまで許容される。

 ほかにエアコン、緊急用フロート、無線航法装置、防塵フィルター、電動ミラーなどの特殊装備品がつけられる。

 整備作業は手間も費用もかからないように設計されている。定時点検以外の日常整備はパイロットだけでよく、特殊工具を使う必要もない。


(EC120B)

旅客輸送に進出するEC155

 EC155はドーファン・ファミリーの発達型で、ドーファンはこれまでに700機以上が売れた。その実績を基本とするEC155はキャビンが4割ほど広くなり、最大離陸重量は4.8トンに増加。巡航速度も270km/hという高速である。

 さらにEC155Bは出力が強化され、大気汚染ガスの少ないアリエル2C1エンジンを装備しているため、安全で環境にもやさしいヘリコプターとなった。主ローター・ヘッドはスフェリフレックス機構で、ブレードは5枚に増加。尾部にはフェネストロンを使っているため、騒音が減ってICAO基準を下回る。

 また計器飛行のためには、このクラスのヘリコプターとしては他に例のない氷結防止装置をそなえ、全天候性を発揮する。

 


(パリ航空ショーでのEC155)

 

 EC155の最近までの受注数は30機。主な用途は警察、消防、救急などの公共飛行と旅客輸送やVIP輸送である。うち引渡しずみは18機となっている。

 このうち最近の受注は、去る6月のパリ航空ショーでスウェーデン・ヘリコプター・サービス社(SHS)から受けた3機の注文である。SHSはデンマークのコペンハーゲン国際空港とスウェーデン南部のマルモおよびヘルシンボルグの間で現在シコルスキーS-76C+を使ってヘリコプター定期便を運航している。そのS-76をEC155に置き換えようという計画で、2002年10〜12月に受領する。EC155Bは乗客12人乗りで、パイロット単独の計器飛行も可能である。

 かえりみて、これまでヘリコプターの旅客輸送がなかなか普及しなかったのは、騒音が大きくて便利な場所で発着できなかったり、安全を懸念する人が多くて乗客が少なかったり、何よりも運賃が高くて誰もが気軽にのれなかったためであった。しかし冒頭のゾボタ上級副社長の言うように、ユーロコプター機が静かで、強力で、安いということになれば、このSHSのEC155への切り替えは大きな意味を持つことになろう。

 ここに見てきたECヘリコプターが、その理想を実現して、ヘリコプターの世界に新たな時代をもたらすことを期待したい。 

 (西川渉、月刊『エアワールド』誌2001年11月号掲載)

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