活況呈する欧州ヘリコプター界
活況呈する欧州ヘリコプター界
欧州のヘリコプター工業界が活況を呈しつつある。主要メーカーはユーロコプター、アグスタ、ウェストランドの３社だが、いずれも新機種の開発が一段落し、量産段階に入ってきた。いわば収穫期を迎えたのである。
ユーロコプター社ではＥＣ120、ＥＣ135、ＥＣ145、ＥＣ155といった新しいラインナップができあがり、タイガー攻撃機が仏・独両国政府の注文を受け、ＮＨ90の開発も完成に近い。
アグスタ社はＡ109の量産がつづく一方、昨年末に型式証明を取ったＡ119コアラがこの５月から量産機の引渡しに入る。ウェストランド社との共同開発に成るＥＨ-101も量産の軌道に乗った。そしてＮＨ90の開発に参加する一方、ベル社が開発中の民間向けティルトローター機、ＢＡ609の計画にも参加、それと引換えにかねて暖めてきたＡＢ139の開発がベル社の協力で具体化した。
ウェストランド社はＥＨ-101の共同開発でアグスタ社との提携関係を強めつつ、近代化したスーパーリンクスの生産を続けている。
このような状況は下表のように整理されよう。この表には過去の機材は含まれない。製造中または開発中のヘリコプターを大きさによって、メーカー別に並べたものである。
こうして見ると、民間機はほとんどここ数年の間に完成したものである。軍用機も新しいものが多く、ヘリコプター技術の急速な進歩と激しい競争の結果がこの表によくあらわれている。それでは、こうした欧州ヘリコプターの現状を見てゆくことにしよう。
生産中または開発中の欧州ヘリコプター
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民間機 |
小型単発機 |
ＥＣ120Ｂ |
Ａ119コアラ |
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ＭＤ600Ｎ |
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軽双発機 |
ＥＣ135 |
Ａ109 |
―― |
ベル427 | |
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中型双発機 |
ＥＣ145 |
ＡＢ139 |
―― |
ベル430 | |
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大型機 |
スーパーピューマ |
ＥＨ-101 |
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Ｓ-92 | |
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軍用機 |
攻撃機 |
タイガー |
Ａ129 |
スーパーリンクス |
ＡＨ-１ |
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輸送機 |
ＮＨ90 |
ＮＨ90 |
ＮＨ90 |
Ｓ-92
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ＥＣ120ＢとＡＳ350Ｂ３
欧州における小型民間機の筆頭は最新のユーロコプターＥＣ120Ｂコリブリ。中国航空技術公司（ＣＡＴＩＣ）やシンガポール・エアロスペース社との共同開発に成る単発タービン機で、1997年２月から売り出し、最近までの３年間に150機以上の注文を受けた。型式証明を取得したのは97年６月17日。以来、引渡し数は70機程度と思われるが、2000年は一挙に生産数を増やし、90機の出荷を予定している。
５人乗りの機体は複合材を多用し、主ローターは３枚ブレードのスフェリフレックス機構。尾部にはフェネストロンをそなえ、騒音はこのクラスのヘリコプターの中では最も小さい。エンジンはチュルボメカ・アリエル２Ｒターボシャフト（500shp）が１基。コクピットには機体とエンジンの異常を表示する最新のＶＥＭＤを装備する。飛行性能は巡航230km/hで、航続730ｋｍ。
ＥＣ120Ｂの昨年の受注数は36機。うち15機はスペイン空軍からのもので、この７月から2001年６月までに引渡される。これら15機のコリブリはグラナダ空軍基地に配備され、パイロットの操縦訓練に使われる。
ＥＣ120Ｂは静かで、視界が広いことから、ニューヨークの観光遊覧飛行にも使われている。旅客にとっては振動も少なく、乗り心地が良い。同じ理由から、ヘリエア・モナコはモナコ〜ニースの間の定期旅客輸送に本機を使っている。この定期便は余り知られていないようだが、モナコ市内のヘリポートとニース国際空港を結んで、毎日20分おきに40往復以上の飛行をする。使用機は８機――ドーファン（旅客10席）が１機、ＡＳ355が（５席）が１機、ＡＳ350が５機、ＥＣ120Ｂ（４席）が１機で、旅客数は年間10万人というから、ヘリコプター路線としては成功といっていいだろう。
ＥＣ120Ｂの成功に加えて、ユーロコプター社はもうひとつの小型単発タービン機、ＡＳ350Ｂ３の販売と生産に力を入れている。1997年末に型式証明を取得した同機は、２年後の99年12月なかば量産100号機が引渡された。受領したのは日本の川鉄商事で、その特徴はエンジン出力を上げ、高温・高地性能を高めると共に、カーゴスリングによる吊り上げ能力を1,400ｋｇまで高めていること。
つまりＢ３はＡＳ350を基本として、小型ながら１トンを超える搭載能力を持った物輸機にほかならない。エンジンは350Ｂ２のチュルボメカ・アリエル１Ｄ１（732shp）をアリエル２Ｂ（847shp）に換装、エンジンを自動的に制御するためにＦＡＤＥＣをつけた。また、これにもＶＥＭＤをつけて安全性を高めると共に、地面効果内と効果外のホバリング高度限界を自動的に計算することができるようにした。この装置は乗員と貨物の重量を入力すると、そのときの機体の自重および燃料搭載量からホバリングの可能な最大高度を計算する。
尾部ローターはＡＳ355双発機と同じものに換装した。ＡＳ350／355シリーズは最近までの受注数が2,800機に達している。
（名古屋・中日本航空の格納庫で見かけたＡ109Ｋ２）
Ａ119／109とＥＣ135
イタリア・アグスタ社の単発機、Ａ119コアラもエンジン出力が1,002shpと大きい。しかし機体も８人乗りと大きいために、吊り上げ能力は最大1.3トン。巡航速度は最大259km/hで、航続890ｋｍ。
昨年12月30日にイタリア航空局の型式証明を取得したばかりで、この５月から量産機の引渡しがはじまる。
一方、コアラの基本となったＡ109双発機は、現在Ａ109パワーとＡ109Ｋ２が製造されている。109パワーはＰＷ206Ｃエンジン（560shp）またはアリウス２Ｋ１（670shp）２基を装備する。もうひとつのＫ２は出力の大きなアリエル１Ｋ１（73７shp）２基を搭載、高温・高地性能が良くなっている。
最近の話題は、去る４月に米沿岸警備隊がＡ109パワーを２機発注、さらに６機を仮発注した。引渡しは2000年９月からはじまる。その任務は高速船を使った密入国の警戒と阻止で、沿岸警備隊の艦艇に搭載して、米国の領海内はもとより公海上を高速で飛び回ることになっている。
昨年12月には南アフリカ空軍からも30機のＡ109Ｕを受注した。液晶表示のグラス・コクピット、４軸の自動操縦装置、ＧＰＳ受信機、ミッション・コンピューターなどを装備する。
Ａ109の昨年末までの受注数は700機以上。うち130機がＡ109パワーへの注文である。
このＡ109と真正面から競合するのがＥＣ135である。総重量もエンジン出力もほとんど変わらず、座席数も同じである。しかし速度性能においては引込み脚のＡ109の方がややまさるかもしれない。
その代わりＥＣ135は開発時期が新しいだけに、最先端の技術を結集している。主ローター機構や尾部のフェネストロンにも特徴があって、最も静かなヘリコプターのひとつである。これにはフェネストロンのブレードを非対称的な位置に植えたことの効果が大きく、音が不規則に乱れることで、人の耳には却って静かに聞こえるようになった。
最近はドイツ政府からシングル・パイロットの計器飛行を認められた。同機には自動操縦システム（ＡＦＣＳ）、セクスタントＳＭＦ-45ディスプレイに加えて、中央コクピット・ディスプレイ・システム（ＣＰＤＳ）がつき、その中に機体とエンジンの異常を示すＶＥＭＤと、警報および非常操作ディスプレイ（ＣＡＤ）が含まれる。
最近までの受注数は170機以上。この中には昨年10月、ポルトガル政府からの軍用型ＥＣ135――ＥＣ635に対する９機の注文も含まれる。
初めて公表されたＥＣ145
ＥＣ135よりも一回り大きいのがＥＣ145である。1999年６月12日に初飛行したと伝えられながら、何故か写真も図面も公表されず、さまざまな憶測が飛んでいた。今年１月ラスベガスで開催された「ヘリエキスポ2000」でも模型の展示すら見られず、記者団の不満を買った。理由はおそらくフランス民間保安局から32機という大量の注文を受けながら、開発日程が遅れているためではないかといわれていた。
ところが３月下旬、東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展で、川崎重工はＢＫ117Ｃ２が３月15日に初飛行したことを発表した。同機はほかならぬＥＣ145である。
その発表と同時に英『フライト・インターナショナル』誌が３月14-20日号で詳しい設計仕様を報じると共に、解剖図を掲載した。それによると、ドイツ側のＥＣ145は昨年６月の初飛行以来200時間以上を飛んでいるらしい。それでも何故か欧州側は本機の販売活動はまだ早すぎるということだったが、今度は４月13日付の『日本経済新聞』が川崎重工はＢＫ117Ｃ２について15機の注文を獲得したと報じた。日本でも欧州でもＥＣ145／ＢＫ117Ｃ２はなかなかの人気といってよいであろう。
（室内を飛ぶＢＫ117Ｃ２の模型）
さて、本機は下表のようにアリエル１Ｅ２エンジン（770shp）２基を装備する。これまでのＢＫ117Ｃ１にくらべてキャビンが大きくなり、総重量とペイロードが増加、速度がはやくなった。ドイツ側の試験飛行では277km/hを記録しているという。加えて、航続距離も伸びた。
機体の外観は、機首がＥＣ135によく似て、洗練された。主ローターは従来通りリジッドローターの４枚ブレードだが、ブレードそのものは再設計されている。尾部ローターも従来通りで、ユーロコプター得意のフェネストロンは採用していない。しかしコクピットは最新の技術を採り入れ、夜間飛行に際してはナイトビジョン・ゴーグルも使えるようにするという。
量産機の引渡しは2002年以降にはじまる予定。
川崎重工の発表したＢＫ117C2／ＥＣ145の性能諸元
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総重量 |
3,500ｋｇ |
3,350ｋｇ |
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ペイロード |
1,700ｋｇ |
1,585ｋｇ |
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胴体長 |
10.27ｍ |
9.91ｍ |
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胴体幅 |
1.73ｍ |
1.60ｍ |
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キャビン長（内寸） |
2.97ｍ |
2.56ｍ |
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キャビン幅（内寸、最小値） |
1.39ｍ |
1.21ｍ |
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最大速度 |
268��/h |
259��/h |
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ホバリング高度限界（地面効果内） |
2,560ｍ |
2,560ｍ |
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航続距離 |
700ｋｍ |
550ｋｍ |
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エンジン |
アリエル１Ｅ２（770shp）×２基 | |
ユーロコプターのバックボーン
ＥＣ155は、ユーロコプター社が現在最も力を入れて販売促進に努めている機種である。近い将来は同社の民間向けヘリコプターのバックボーンとして、製品の中心にすえるというのがユーロコプター社の方針。
いうまでもなく旧来のＡＳ365Ｎからの発達型である。20年ほど前に実用化された365Ｎドーファンは、Ｎ２、Ｎ３と進んできたが、ここにきて一挙に脱皮を遂げ、ＥＣ155となった。ユーロコプター社によれば、単なるストレッチ型ではなく、全く近代的な内容をもった新世代の中型双発機であるという。
キャビン容積は３割増しとなり、客席数は12席に増加、詰めれば13席まで増える。有効搭載量も13％増となって、その分だけペイロードや航続距離が伸びた。ＶＩＰ仕様の場合は、燃料タンク容量が120リッターに増えて、航続距離が長くなる。
主ローターはスフェリフレックス機構で、慣性の大きなブレード５枚をつけている。尾部のフェネストロンはＥＣ120やＥＣ135と同様、10枚のブレードが非対称的について、騒音が少なくなった。巡航速度もはやい。操縦系統には油圧装置が二重につき、一系統が故障しても残りの一系統だけで通常の操縦操作ができる。脚は引込み式。
エンジンはチュルボメカ・アリエル２Ｃ１ターボシャフトで、ＦＡＤＥＣが装備され、離陸出力851shp、２分間の緊急出力879shp、30秒間ならば977shpを発揮する。トランスミッションは1,294shp。
最大離陸重量は4,800ｋｇで、Ｎ３の500ｋｇ増。ＶＩＰ仕様の座席数は５〜８人乗り。快適で、しかも324km/hという高速飛行性能を有する。今年１月にはシングル・パイロットＩＦＲの型式証明を取得した。ＶＩＰ輸送のほかに、救急、警察、消防、捜索救難、オフショアなどの需要が見こまれる。カーゴスリングによる機外吊り下げ能力は最大1,600ｋｇである。また捜索救難機としてはホイストがつき、吊り上げ容量は270ｋｇ。
機体価格は塗装前の状態で500万ドル。これに内装や塗装をすれば最大640万ドルになる。シコルスキーＳ-76Ｃ＋や、アグスタ社が開発中のＡＢ139に対抗して、それよりも価格の安いのが魅力であろう。「Ｓ-76キラー」という言葉も生まれた。
ＡＳ365シリーズは、これまで約650機が生産されてきた。ＥＣ155は30機の注文を受けている。最近ではドイツのバーデン・ビュルテンバーグ警察から２機のＥＣ155Ｂを受注した。2001年３月に引渡される。騒音が小さいために環境問題が生じないし、犯人追跡にも都合がよい。ほかに犯罪捜索、パトカーとの共同作戦、地上支援、警官の輸送など、さまざまな警察活動に使われる予定。
開発すすむＡＢ139
こうしたＥＣ155をおびやかすのがイタリアのアグスタＡＢ139である。同機はアグスタ社がベル社の協力を得て開発中の中型双発機。
総重量は６トン。Ｐ＆ＷＣ ＰＴ６Ｃ-67Ｃターボシャフト・エンジン(1,680shp）２基をそなえ、出力重量比にすぐれるため290km/hの高速巡航も可能。航続距離は740ｋｍである。主ローターは複合材製５枚ブレード。防氷装備をして計器飛行も可能になる。
機内は15人乗り。救急機としては患者搬送用のリッター４人分と、医療スタッフ４人の搭載が可能。またスタッフの人数を減らせば最大６人分のリッターが搭載できる。機体側面には大型スライディング・ドアがつく。
７月のファーンボロ航空ショーでは軍用型も公開されるもよう。初飛行は今年末の予定。これまでに英ブリストウ・ヘリコプター社から２機、豪州ヘリテック社から１機といった注文が出ている。価格は680万ドル。
アグスタ社では、ウェストランド社と共同開発をしてきたＥＨ-101大型３発機の生産が軌道に乗った。軍用機としては英海軍とイタリア海軍の対潜作戦機、英空軍の多用途機、そしてカナダ向けコーモラント捜索救難機の製造がおこなわれている。
ＥＨ101は1980年代初め、英海軍のシーキング後継機とイタリア海軍のＳ-61後継機をめざして開発がはじまった。設計仕様は単に海軍向けというだけでなく、民間向けの旅客輸送にも適するようになった。この開発のために、ウェストランド社とアグスタ社との間には合弁会社ＥＨインダストリー社が設立された。そして両国政府との間に開発契約が締結され、原型９機を試作して試験飛行と民間機としての型式証明試験をおこなうことになった。
民間機としての型式証明はすでに交付された。その１号機が昨年春、日本の東京警視庁へ引渡されたことはご存知の通りだが、欧州では今なお民間機としての実用評価試験がおこなわれている。この試験飛行は6,000時間の予定で1997年にはじまり、まずイタリア南部で高温・高地での離着陸試験がおこなわれた。
（立川飛行場の警視庁航空隊に納入されたＥＨ101）
（ＥＨ101特有のローターブレードＢＥＲＰ）
ＥＨ-101の徹底実用試験
次いで現在、英国アバディーンから北海の海洋石油開発現場まで、洋上長距離の実用試験がおこなわれている。使用機は原型８号機。アバディーンの北東260ｋｍの海上にある石油プラットフォームへ飛ぶもので、寒冷地試験が含まれる。海上プラットフォームは元来Ｓ-61やスーパーピューマのために設定されたものだが、総重量14,600ｋｇのＥＨ-101でも着陸できる。
飛行は1998年９月にはじまった。以来１年余りの間に往復800回で2,000時間を飛んだ。この間、ＥＨ-101は操縦性が良く、振動も少なく、３発のために飛行性能もよくて、強風の中でもホバリング可能といった特徴が実証された。
1999年11月17日の試験飛行では沖合へ片道55分の飛行だったが、気象条件は北海の冬の初めの典型的な状態で気温３℃、みぞれが降りつづき、北の風18ｍ、突風は21ｍに達していた。雲高は360ｍ。こうした悪条件の中で、ブリストウ・ヘリコプター社が運航するＥＨ-101は危なげのない飛行を見せ、プラットフォーム上に難なく着陸した。これで北海の石油開発リグでは、大抵の場合にＥＨ-101が飛べることが実証された。
このように、ＥＨ-101は氷結気象状態でも飛行することができる。主ローターおよび尾部ローター、ならびに機体とエンジンにも電熱防氷装備がほどこされているためである。コクピットには気温と気圧に加えて空気中の水分を測る氷結探知の表示もできるようになっていて、パイロットは常に外界の氷結環境を知ることができる。
また計器飛行に際しては、パイロットの労力負担を軽減するため、オートパイロットで高度、速度、方位などをセットして飛べるほか、ＩＬＳを選定すれば自動的にその電波にのって滑走路へ向かうことができる。ＥＨ101は現在のところカテゴリー１（視程790ｍ、着陸決定高度60ｍ）の計器着陸の承認を受けているが、実際はカテゴリー２（視程365ｍ、着陸決定高度30ｍ）までの能力がある。
なお、こうした飛行は洋上の海面以外は何も見えないところを１時間も飛ぶので、乗客の心理的な問題もある。けれどもＥＨ-101は機内が広くて快適な乗り心地なので、乗客の不安感は少ない。乗客数は35人以上だが、98年におこなわれたプラットフォームからの緊急脱出訓練ではいっぺんに55人をのせて離陸したこともある。
またＥＨ-101は1999年、イギリスからカナダまで、北欧を経由して北大西洋の往復飛行をした。
ＮＡＴＯ向けＮＨ90とタイガー攻撃機
こうしたＥＨ-101は、ヨーロッパの軍用輸送ヘリコプターとして量産に入った。それを追うようにしてＮＨ90輸送機の開発もつづいている。これはドイツ、オランダ、フランス、イタリア向けの中型輸送ヘリコプターで、現用スーパーピューマの後継機をめざすもの。開発に当たっているのはアグスタ、ユーロコプター、フォッカーの３社。契約窓口は３社の合弁企業、ＮＨインダストリー社である。
試験飛行は原型５機でおこなわれており、５号機は去る12月末に初飛行したばかり。エンジンはロールスロイス・チュルボメカＲＴＭ322が２基である。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ。昨年末までの累計飛行時間は600時間以上。到達高度は6,000ｍ。最大巡航速度は300km/hに近い。
間もなく関係各国からの正式発注があるものと期待されており、今年６月のベルリン航空ショーか７月のファーンボロ航空ショーで発表があるかもしれない。そうなると2004年から引渡しがはじまるはずで、関係４か国だけで595機の調達が見こまれている。
ヨーロッパの共同開発機としては、もうひとつタイガー攻撃機がある。昨年６月、パリ航空ショーの会場で、独・仏両国政府とユーロコプター社の間で160機の正式契約が調印された。そもそもユーロコプター社の誕生は1992年のことだが、このタイガー攻撃機の共同開発がきっかけであった。
現在５機の試験飛行がつづいている。ドイツ陸軍向けの火器支援機ＵＨＴは2002年末から引渡しがはじまる。またフランス軍向けのＨＡＰ支援機は2003年から引渡しに入る。
ＵＨＴはヘルメット・マウントの照準映像装置をそなえ、パイロットと射手の両方が使う。これで乗員の労力負担が減って、任務達成が容易になる。12.7ミリ銃は400発の弾丸を搭載、1,500ｍ以内の敵を攻撃する。ロケットは68ミリ弾22基を搭載する。
タイガーは寒冷地でも炎天下でも、いかなる気候条件の中でも飛行できる。コクピット内部は外界の如何にかかわらず、快適な環境が維持され、外気温度42℃の砂漠の中でも、機内は快適に保たれる。
敵地が遠い場合は290ｋｇ入りの補助燃料タンクを搭載する。
息の長いリンクス・シリーズ
最後に英ウェストランド社ではリンクス・ヘリコプターの生産がつづいている。リンクスは1970年代初めに実用化された多用途機で、一見旧いように見えるが、本機の高性能を実現した画期的なＢＥＲＰローターブレードの採用など、絶え間なく改良を重ね、今も第一線の軍用ヘリコプターとして使われている。
英海軍向けの前量産型リンクスが初飛行したのは1972年。初めて実戦に参加したのは1981年のフォークランド戦争のときであった。20機以上のリンクスが南大西洋に派遣され、悪天候と高波の中でも本来の操縦性を失うことなく、信頼に応える働きを示した。そしてシースクア対艦ミサイルを装備して攻撃にあたり、敵艦船へのミサイル命中率も100％であった。
1992年の湾岸戦争でも、シースクアを搭載したリンクスはイラク軍パトロール艇の探索飛行にあたり、発見したら必ず撃破した。
発達型のリンクスＨＭＡ Ｍｋ８が英海軍に入ったのは1995年である。同機は主ローターにＢＥＲＰ複合材ブレードと新しい尾部ローターを採用、総重量は5,330ｋｇまで上がった。コクピットには中央戦術システム（ＣＴＳ）を装備して、センサー、通信、火器のすべてを統合的に制御する仕組みを持っている。
このＭｋ８の国外向け輸出用がスーパーリンクスである。スーパーリンクスは３種類が生産されている。ひとつはスーパーリンクス100でロールスロイスＧＥＭ42エンジンを装備、コクピットは標準的である。もうひとつはスーパーリンクス200で、ＬＨＴＥＣ ＣＴ800エンジンを装備する。第３のスーパーリンクス300は液晶カラーディスプレイのついたグラスコクピットを持ち、統合的なアビオニクスとミッション・システムをもつ。
スーパーリンクスの最初の顧客は、12機を発注した韓国であった。つづいてポルトガル海軍が５機を発注し、1993年に実戦配備についた。３番目の顧客はブラジル。1994年に９機を発注すると共に、旧来から保有していた５機のリンクスをスーパーリンクスに改造することになった。
南アフリカも1998年に４機を発注した。同年デンマークは既存の標準型リンクス８機をスーパーリンクスに改修する契約を結んだ。そして1999年にはドイツが17機のリンクスをスーパーリンクスに改修する契約をした。それより前の1996年、ドイツは７機のスーパーリンクス新製機を発注していたから、最終的には24機を運用することになる。
こうしてリンクス・シリーズは最近までに400機以上の注文を受け、今も生産が続いている。70年代初めから30年近く経過したわけで、いかにもイギリスらしい粘り強さが感じられる。
（中日本航空が入手した真新しいＥＣ135）
結集するヨーロッパ勢
かくて欧州ヘリコプター工業界は、いま収穫の時期を迎えた。各国各メーカーは競合関係にありながら、ときに応じて手を結び、利用し合って仕事をすすめてきた。その協力関係は今後、欧州連合の進展とともにさらに進むであろう。
結果として、西側のヘリコプター市場におけるシェアも、現在アメリカ勢をしのいで半分を超えるに至った。ユーロコプター社だけで、売上高は市場のほぼ半分を占めており、同社の発表では民間市場で52.2％、軍需市場では47.8％に達するという。
こうした状況に対して、アメリカ勢も黙って見過ごすわけにはいかない。いっそうの技術開発を進めて、巻き返しをはかるであろう。とりわけ今後、ティルトローターが実用化の軌道に乗れば、技術的にも経済的にもアメリカの優位が戻ることとなろう。昨年５月からＶ−22オスプレイ量産機の納入がはじまり、2002年には民間向けＢＡ609も型式証明を取る予定である。
これに対して、ヨーロッパ勢もティルトローターの研究開発に乗り出そうとしている。ユーロコプター社は10年ほど前におこなわれたユーロファーの共同研究にもとづいて、新しい19人乗りティルトローター機の研究開発を提案している。またアグスタ社も、ＢＡ609に協力する一方、独自の「エーリカ」計画を打ち出した。20人乗りのティルトローター旅客機である。
これら二つの構想に対して、欧州委員会は一つに統合されるならば研究資金を出してもよいという考えらしい。そうなれば、遅くとも５年ほどのうちに実験機が試作され、10年くらいのうちに実用機が出てくるであろう。
こうして見てくると、航空界におけるヨーロッパ対アメリカの競争は、勢力を結集したエアバス社がじりじりとアメリカを追い上げ、ロッキード社やマクダネルダグラス社の旅客機を駆逐したように、ヘリコプターやティルトローターでもヨーロッパ勢の力は決してあなどれない。しかしまた、そうした競争関係からさらに新たな技術的、経済的進展が生まれるのである。
ヘリコプターの世界は今後ますます広がってゆくであろう。
（西川渉、『エアワールド』2000年７月号掲載）
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