ファーンボロ・ショー報告
ファーンボロ・ショー報告
先週１週間ロンドンに行き、７月29日深夜０時少し前に帰宅しました。そのため本頁の更新も間があきましたが、これからは再び週２〜３回のペースに戻すつもりです。何とぞご愛顧のほどお願いいたします。
ロンドンでは軍用機ばかりの航空ショー「エアタトゥー」を見たのち、「ファーンボロ航空ショー」で３日間の取材をして、最後にロイヤル・ロンドン・ホスピタルを再訪し、ヘリコプター救急のもようを見て戻ってきました。
この間ファーンボロの２日目にコンコルドの事故が起こり、関係者にショックを与えました。翌朝のショー会場では、参加各国の国旗が半旗に掲げられていたのが印象的でした。
今回の旅行で得た見聞は追々に本頁でご報告いたしますが、取りあえずファーンボロ・ショーの概要をメモしておきますと、以下の通りです。
英国航空宇宙工業会（ＳＢＡＣ）の主催になる今年の航空ショーは７月24日（月）から30日（日）までロンドン郊外のファーンボロで開催された。例年９月上旬の開催が、今年から７月下旬ということになった。理由はさまざまで、パリ航空ショーとの間で１年おきに開催するため、パリが６月開催ならばこちらも６月にしようということだったらしい。
ところが同じ年の５月にドイツのベルリン航空ショーがあり、翌月ロンドンで再び航空ショーというのでは場所も間隔も余りに近すぎる。ドイツからも出展者からも異論が出たため、わずかでも間をあけながら、パリとの釣り合いが取れる。しかも夏のバカンスに入ってしまわないうちという条件から、ぎりぎりの日程が７月下旬だったとか。さ来年も丁度同じ時期に開催されることが決まっている。
これでＳＢＡＣの職員もゆっくりバカンスが取れるという話も聞いた。今までの９月開催では、バカンス返上で準備をしなければならなかったらしい。ただし、遠い日本から出かけていこうとすると、学校が夏休みに入ったばかりで、飛行機が混むだけでなく低運賃の切符を探すのがむずかしくなった。われわれにとっては余り有難くない時期である。
さて、今年の出展者は25か国から合わせて1,000社（団体）以上。展示された航空機は101機を超えたもよう。入場者は１週間で31万人という見こみだが、最終的な数字はどうだったろうか。
今回のショーの話題を、私なりに整理すると、次の通り大きく３つに絞ることができる。
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��大量注文ラッシュ
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これらの話題を概観すると次のようになる。
新機種の計画進展に関しては、エアバスＡ3XXスーパージャンボがエミレーツ航空やエールフランスなどから前渡金と共に確定的な発注意向の表明を受けて、年内開発着手がいっそう具体化した。
また欧州８か国がこぞってエアバスＡ400Ｍ軍用輸送機への調達意向を表明した。ユーロファイター戦闘機がいよいよ９月から620機の本格生産に入る。ジョイント・ストライク・ファイター（ＪＳＦ）は１か月以内にせまった飛行試験の準備がととのった。
さらにボンバーディアＣＲＪ900リージョナル・ジェットの開発着手、エムブラエルＥＲＪ-145ＸＲの開発着手、初飛行したばかりのＥＲＪ-140の登場、エムブラエル・レガシー・ビジネスジェットの開発計画発表、タイガー攻撃ヘリコプターの生産開始、ＮＨ90軍用ヘリコプターの量産開始などの話題がある。
大量注文が次々と発表されたのも今年の特徴で、ファーンボロ期間中に出された注文金額は昨年のパリ航空ショーの２倍以上となり、400億ドル（約4,4兆円）を超えた。２年前のファーンボロは120億ドルだったから、今回は航空ショーとして史上最高額になるが、これは一種のバブルではないかと懸念する声もあったほど。
受注内容は、エアバス社が１週間で238機、186億ドル相当の注文を受けた。それに対するボーイング社も133機、148億ドル相当を受注、この両社で全体の８割以上を占めることになった。
エアバスの受注の中にはＡ3XXに対するエミレーツ航空からの確定７機、仮５機の発注意向が含まれる。確定７機の内訳は５機が旅客機、２機が貨物機。続いてエールフランスも確定10機の発注意向を表明、国際リース・ファイナンス（ＩＬＦＣ）も５機の意向を表明した。
ボーイング社の受注内容は777が中心で、新しい長距離型777-300ＥＲと777-200ＥＲへの発注が目立った。全日空が６機を発注した777-300ＥＲは乗客数365人で13,300ｋｍを飛び、シンガポール航空が発注した777-200ＥＲは乗客数301人で16,400ｋｍ――旅客機としては最長航続性能を持っていて、東南アジア〜ニューヨーク間もノンストップで飛ぶことができる。
ということは、米国へ飛ぶ東南アジア諸国の定期便が混雑した成田空港へ無理に寄港する必要もなくなる。ボーイングもその点を売り物にしているが、日本としては喜ぶべきかどうか。思うに、今の日本の不景気と物価高と排他主義から見て、できることなら、どこのエアラインも乗客も成田なんぞに寄りたくはない。このままでは、いずれ成田は寂れるであろう。新しい滑走路の着工にわずかな農民が反対し、それを説得できない運輸省も無能である。次々と人事が変わるのでは、農民側から見て信用出来ないのは当たり前。
おまけに、それならば羽田を使おうという考えはよかったが、千葉県に反対されてたちまち方針を変更するという無策ぶり。ここはもう、横田基地でも自衛隊基地でも共用の可能性を探る必要がある。それらが可能ということになれば、手持ちのカードが増えるわけで、成田反対、羽田反対の人びとを説得する材料としても有効であろう。
閑話休題。ファーンボロではボンバーディア・リージョナル・ジェットもデルタ航空から大量500機発注した。この発注意向は前から公表されていたが、500機のうち確定数94機だったものが、今回104機に増えて正式調印された。同じリージョナル・ジェットとして新たに名乗りをあげたアライアンス・エアクラフト社も、目下開発中のスターライナーについて一挙450機という大量注文を獲得している。
エムブラエル社も新しい長距離型ＥＲＪ-145ＸＲについてコンチネンタル・エクスプレスから175機の注文を受けた。リージョナル・ジェットの驚異の受注状況はファーンボロでもつづいたことになる。
軍用機では、エアバス・ミリタリー社で計画が進んでいるＡ400Ｍ輸送機が欧州８か国の政府から少なくとも225機の調達を約束された。内訳はベルギーが７機、フランス50機、ドイツ73機、イタリア16機、スペイン27機、トルコ26機、イギリス25機、ルクセンブルク１機。金額にすると160億ドルに相当するそうで、まだ正式発注とか契約というわけではないが、先の400億ドルにこれを加えると560億ドル（約６兆円）にもなる。
ロッキードＦ-16戦闘機もいまだに注文を取りつづけている。今年になって半年間の受注数は200機以上にもなり、ファーンボロでは韓国から20機、シンガポールから20機の注文が発表された。これで韓国の発注したＦ-16は160機に達し、大半は韓国内でライセンス生産されている。なおＦ-16戦闘機は、これまで4,000機以上が生産されており、、現在の受注残高は240機。今後なお400機の販売見こみが立っていて、今年中にタイから16機の注文が出る予定とか。
ビジネス機では、セスナ・サイテーションがフラクショナル・オーナーシップ事業を展開するサイテーションシェアーズ社から50機の注文を受けた。サイテーションの内容はＣＪ１とブラボーである。
ヘリコプターでは、ベルＡＨ-１Ｚがトルコ政府から50機の注文獲得に成功した。シコルスキーＳ-92もノルウェーから６機の注文を受けている。
ファーンボロ第３の話題は、航空工業界の国際的な再編成である。これは上に述べたような大型開発プロジェクトや大量生産に伴なうもので、もはや自分１社では航空機の開発や生産はできないことから、かねてメーカー相互の国際的な協力がおこなわれていた。それが最近は、さらに進んで企業の統合に至る事例が多くなったのである。
今回話題になった最大の合併はＥＡＤＳ（European Aeronautic Defense and Space Company）の発足であろう。この会社は７月10日にできたばかりで、仏アエロスパシアル・マトラ、独ダイムラークラスラー・エアロスペース、スペインＣＡＳＡの３社が一緒になったもの。航空機メーカーとして世界第３位の規模になる。傘下にエアバス・グループ、エアバス・ミリタリー、ユーロコプター、ＡＴＲ、ソゲルマ、ソカタなどの企業がある。またダッソー社については46.5％のシェアを持ち、ユーロファイターについも半分近い支配権を有する。
その傘下にあるエアバス社は近く、これまでのゆるやかな企業合同（コンソシアム）から普通の株式会社に変わる。英ＢＡｅ社もいつの間にかＢＡＥシステムズに変わっていた。ＡＥＳと合併したからである。
そしてヘリコプター界では、伊アグスタ社と英ウェストランド社が一緒になってアグスタウェストランド社が成立した。ヘリコプター・メーカーとしてユーロコプター社や米国の各メーカーに匹敵し、売上高では世界一になるかもしれない。
(鮮やかな編隊曲技を見せる英空軍のレッド・アローズ）
以上を概括すると、航空ショーは飛行機が飛び交う見世物であり、毎晩パーティや会食が繰り返されるお祭り騒ぎであると同時に、ビジネスの場でもある。とすれば、危険なデモ飛行や金のかかるパーティなどはやめて、商品を展示するビジネスの場だけにすればいいではないかという考え方が出てくるかもしれない。けれども、商売は合理性だけでは成立しない。
去る３月わが国で開かれた国際航空宇宙展（ＴＡ2000）も、ヘリコプターを初めとする数多くの航空器機が展示されて賑やかではあったが、商談成立という点では盛り上がりに欠けたきらいがある。会場となった東京ビッグサイトも飛行場ではないから航空機のデモ飛行はなく、私自身も真面目な講演会は主宰したが、派手な騒ぎはしなかった。
人間というものは、コスト削減とか合理性追求などといいながら、無駄なお祭り騒ぎがなければ意気も上がらず、ビジネス取引も増えない。航空ショーに限らず、今の日本経済が沈滞しているのも、「リストラ」などという借り物の外来語を使って、表面を取りつくろいながら、構造改革そのものはいっこう進まないからではないだろうか。
これを解雇とか首切りというしっかりした日本語でとらえ、個々の企業はもとより、産業界も行政も政治も真の構造改革を進めて、将来への希望が持てるようにしなければ、ファーンボロのような好景気を取り戻すことはむずかしいかもしれない。航空ショーの会場で、轟音をとどろかせて沖天高く乱舞する飛行機を見ながら、ふとそんなことを考えた。
（西川渉、2000.8.1）
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