<初 飛 行>

2003年生まれの航空機


(BA609)

 航空機の初飛行は人の誕生にたとえることができよう。エンジンをとどろかせて初めて大地を離れる瞬間は、この世に生を受けた赤子が呱々の声を上げるようなものだ。そして人にも航空機にも、産みの苦しみを経てきた母親や関係者の喜びがあふれる。

 このようにして、昨年1年間に生まれた航空機は、下表の通りである。

ビジネスジェットやティルトローター

 この表を上から順にみてゆくと、まずボーイング777-300ERは、現用777の長距離用派生型。標準368席で、11,000キロの航続性能を持つ。量産1号機はこの春から、エールフランスの定期路線に就航する。

 次の6Xはパイパー社の新しい軽単発機(6席)。かねて人気のあったサラトガU軽飛行機を固定脚にして経済性を高めている。

 3月7日には2種類の航空機が初飛行した。カナダのグローバル5000は現用グローバル・エクスプレス大型ビジネスジェットの派生型。胴体を0.8m短縮して燃料搭載量を減らし、最大離陸重量を減じながら高速飛行性能を維持し、使いやすくしたもの。今年末から引渡し開始の予定である。


(グローバル5000)

 BA609は初の民間型ティルトローター機(6〜9席)。ヘリコプター同様の垂直離着陸とターボプロップなみの巡航飛行が可能で、航空界の新しい飛び方を創造するものと期待されている。

 Z11ヘリコプターはユーロコプターAS350Bの中国版。アリエル2B1Aターボシャフト・エンジン1基を装備する。

 サイテーションCJ3は、CJ1およびCJ2小型ビジネス機をやや大きくした派生型で、パイロット2人のほかに乗客6人。今年秋から引渡し開始の予定である。

 ハリアGR9はアビオニクスと火器システムを改善、基本的には従来のハリアVTOL攻撃機と変わらないが、攻撃力が強化された。今年秋から英空軍に引渡される。EM-10はポーランドの初等ジェット練習機。ジェネラル・エレクトリックJ85エンジン(推力1,380kg)1基を装備する。最大速度1,000km/h。軍用のほか、民間向けの構想もある。


(パイパー6X)

日本機も2機が初飛行

 エムブラエル175は、2002年2月に飛び始めた170リージョナル・ジェット(70席)の派生型。胴体が延びて80席前後となり、今年秋に型式証明を取る予定。

 F-5E改造機は、米国防省の高等研究計画局(DARPA)がNASAと組み、ノースロップ・グラマン社との契約で進めている実験機。本機によって、機体の形状を改めるだけで超音速時のソニックブームは半分以下に減ることが確認された。このことがうまく実用化されるならば、軍用機はもとより、超音速ビジネス機や次世代SSTにも希望が持てることとなろう。


(F-5E改造型ソニックブーム実験機)

 A700はターボファン・エンジン2基を装備するビジネスジェットで、6〜8人乗り。最大630km/hの速度で2,700kmの航続性能をもつ。今年末から1機約200万ドルで引渡しがはじまる。


(アダムA700)

 FC-1(Fighter China 1)は中国の新しい戦闘機。発端は1991年にまでさかのぼり、一時はロシアやパキスタンの支援を受けたり、また計画が中断したりしながら、ようやく初飛行に漕ぎ着けた。エンジンはロシアのRD-93ターボファン(推力8,300kg)が1基。最大速度はマッハ1.6。

 UH-60Mヘリコプターは米陸軍UH-60Lの近代化。胴体を強化し、複合材ブレードを採用、アビオニクスを更新して操縦系統をディジタル化するなどの改良で、ペイロードは30kg増、速度は30km/h近く速くなり、整備費は25%減るという。

 ホンダジェットは6人乗りの軽ビジネスジェット。エンジンもホンダのHF118ターボファン(推力757kg)2基を装備する。詳しくは本紙1月1日付の通りである。US-1A改は海上自衛隊の救難飛行艇US-1Aの改良型。詳細は本紙1月15日付の通り。

 Mi-38はユーロコプター社などの協力で開発された大型ヘリコプター。PW-127T/Sターボシャフト・エンジン(2,500shp)2基を装備して、乗客30人、機外吊下げ8トンの搭載能力を持つ。2007年から量産開始の予定で、ロシア軍の現用Mi-8やMi-17の後継をめざしている。

 H425中型ヘリコプターは、中国製のユーロコプター・ドーファン。


(ホンダジェット)

無人化する軍用機

 以上16機が2003年中に初飛行したとされる航空機である。国別ではアメリカが7機で最も多く、日本も珍しく2機が入っている。

 もうひとつ目につくのは、初飛行といっても、ほとんどが派生型か改良型で、全く新しい原型機はA700、ホンダジェット、Mi-38くらいであろうか。高いコストをかけて新しいものを開発するよりは、既存のものに手を加えてゆくという、経済的で手堅い開発動向がうかがえる。

 航空機の種類では、ビジネスジェットが4機種。またヘリコプターとティルトローターを合わせたロータークラフトも4機種で、このあたりは新しい市場の拡大が続いているのだろう。

 一方、軍用機は少ない。といっても世界が平和になったからではなくて、急速に無人化しつつあるからだろう。アメリカの国防予算も、無人機(UAV:Unmanned Air Vehicle)の開発費は倍増に次ぐ倍増を続けている。従来は斥候、偵察、無線中継、火器誘導などに使われていたが、最近のUAVは地上攻撃にも使われ、4〜5年先には無人戦闘機(UCAV:Unmanned Combat Air Vehicle)も実現すると見られるに至った。

 軍用機としてのUAVは、人間が危険にさらされずにすむこと、生身の人間では耐えられないような高空でも低温でも飛べること、数日間でも飛びつづけられること、有人機の射出座席や装甲といった安全装備が要らずコストが安くすむことなど、都合の良い点が多い。多数のパイロットを、費用と時間をかけて養成し、雇用しておく必要もなく、あとは電子技術さえ充実すれば闘えるのである。


(エムブラエル175)

成否が決まるのは型式証明以後

 話が横道にそれたが、生まれた子どもは学校に通って教育を受けながら、一人前の大人に育ってゆく。同様に航空機も初飛行からテスト飛行を経て実用化へ向かう。その結果、型式証明の取得は人の卒業証書に当たるかもしれない。

 問題はその後で、学校を卒業しただけで成功とはいえない。型式証明を受けた航空機も、それから長年にわたって安全に飛びつづけるのはもちろん、沢山の機数が売れて、多くの人に愛され利用されるようでなければならない。

 そして人も航空機も、40〜50年を働いて引退する。昨年はコンコルドが引退し、世界各地の博物館で余生を送ることになった。まことに幸せな航空機だが、上に見た新生航空機も順調に育ってゆくことを期待したい。


(コンコルド)

(西川 渉、『日本航空新聞』2004年1月29日付掲載)

 

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