米ボーイング社と欧州エアバス社が、それぞれ向こう20年間のジェット旅客機に関する将来予測を発表した。もとより別々の発表で、詳細は両社のホームページに掲載されているから、そちらの方を見たい人は、ここから直ちに飛んでもらって構わない。
しかし、ここでは以下、両社の予測を別々に見るのではなく、双方並べて較べてみたらどうなるかを見てみたい。その結果は、次表の通りとなった。
1997〜2016年の市場予測
Bボーイング社
Aエアバス社 B−A 現用機数(1996年)
旅客需要の伸び
2016年の使用機数
市場成長による新規需要
機材老朽化による代替需要
需要合計
需要金額
11,500機 4.9%/年 23,600機 12,100機 4,060機 16,160機 1.1兆ドル 9,400機 5.2%/年 17,150機 7,750機 8,030機 15,780機 1.1兆ドル 2,100機 ―― 6,450機 4,350機 ▲3,970機 380機 ―― まず両社ともに、1996年の実態を基準として今後20年間、ジェット旅客機の需要はどうなるかを予測している。ただし、その実態――表中の「現用機数(1996年)」は、ボーイング社が11,500機といい、エアバス社は9,400機という。両社の説明を読むと、ボーイング社は100席以上の機材、エアバス社は70席以上の機材を対象にしているらしい。とすればエアバスの方が多いはずだが、数字は逆である。何故ボーイングの方が多いのか、これだけではちょっと分からない。
次に、向こう20年間の旅客需要の伸びである。ボーイングは世界各国の国内総生産(GDP)の伸びが毎年平均3.2%と見て、上表の通り旅客の輸送需要(人マイルまたは人キロ)が20年間で毎年平均4.9%ずつ伸びるとした。むろん、それだけの単純なものではなく、過去の実績も加味されているし、世界的な潮流として進んでいる航空の自由化もしくは規制緩和、さらに旅客機の技術的進歩なども航空旅客の伸びを促す要因であろう。そして航空交通管制(ATC)や空港の受け入れ能力も航空交通量の伸びに応じて進歩拡大するという前提に立っている。
おそらくは同じような見方から、エアバス社の方は、旅客需要の伸びを5.2%とした。エアバス社の方がわずかながら大きな成長を予測しているわけである。ところが機数の伸び率は、旅客需要の成長率とは逆で、20年後の機数はボーイング社が2.0倍の23,600機、エアバス社が1.8倍の17,150機と見る。これはエアバス社が、大型機がよく売れると見ているからであろう。すなわち平均座席数は、ボーイング社が1996年の197席が2016年には219席になるというのに対し、エアバス社は179席から235席へ大きく伸びて、ワイドボディ機が全体の4割を越えると想定しているからである。
その結果、20年間の純増――すなわち「市場成長による新規需要」はボーイング社が12,100機、エアバス社が7,750機ということになり、機数の差は相当に大きい。
しかし、その一方で、この20年間に現用機が老朽化して使えなくなることを考えると、代替機が必要になる。メーカーにとっては立派な需要で、その「代替需要」をボーイング社は4,060機と見ているのに対し、エアバス社はほぼ2倍の8,030機であるとする。
したがって「新規需要」と「代替需要」を合わせた「需要合計」は、ボーイング社が16,160機、エアバス社が15,780機ということになって、両社の差はほとんどなくなる。さらに、この需要を金額にすると、両社めでたく一致して1.1兆ドル(約140兆円)という結果になるのである。
激しい競争を演じるライバル同士が、異なった現用機数を基礎として推算を開始、途中の推論もかなりの隔たりがありながら、最終的には全く同じ予測に到達するという信じられないような結果になった。
むろん両社の結果が一致したからといって、現実もそのようになるとは限らない。まこと未来は不思議であり、予測は困難である。
(西川渉、97.4.28)
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