<ソチ四輪半>

オリンピックとヘリコプター

 テレビや新聞がソチ・オリンピックを姦(かしま)しく囃(はや)し立てている。日本はメダルを何個取るとか、誰それは金メダル候補とか、まだ始まりもせぬうちから、優勝確実といわんばかりの大騒ぎをしてきた。そのプレッシャーに選手が圧しつぶされたせいか、今のところ、さほどの成果は出ていない。そうかと思うと、これまでほとんど報じられなかった選手がメダルを取ったりする。要するに報道の連中は記者も解説の元選手も大した根拠もなく希望的観測を語るだけで、いい加減というかデタラメなのである。

 とりわけ公共放送NHKなどはわれわれの視聴料、すなわち法律にもとづく一種の税金でまかなわれているのだから、スポンサー料を稼ぐ必要もないはず。まるで自分が主催者であるかのように煽り立てるが、騒ぐのは民間放送にまかせて、もっと冷静に、普段のニュースの最後で結果だけ報じればいいのではないか。

 こんな状態こそが偏向であって、新しい会長や経営委員の発言が問題にされているが、本当は彼らのいうことこそ中正なのである。中国や韓国の日本に対するいわれのない言いがかりを、テロップ付きで詳しく画面に出すような報道が偏向でなくて何であろうか。連中の、歴史をゆがめた屁理屈など初めから無視しておけばいいのである。それをいちいち取り上げるから向こうも図に乗る。それを見させられる方もたまったものではない。

 その偏向を煽る朝日新聞なども「報道の中立」などと一つ覚えの決まり文句を書き立てるが、どっちが中立か。同じ穴の偏向同士が助け合って、NHKの新しい経営陣に口を挟むなどは余計なお世話である。しかも自らの紙面はスポーツ紙と変わらず、全頁大の広告が多いから、頁数の割には読むところが少ない。まるで金を出して広告を買わされているようなもの。そのうえ不愉快な偏向記事が多く、購読をやめてしまいたいくらいである。

 オリンピックの煽動報道とデタラメ予想から思わぬ方向へ話がそれたが、小言はこのくらいにして、冬季オリンピックがきっかけとなってアメリカのヘリコプター救急が日常化されたことは、余り知られていないのではないか。

 今から40年あまり前の1970年、国際オリンピック委員会(IOC)は1976年の冬季オリンピックを米コロラド州デンバーで開催することに決した。デンバー市は大喜びのうちに準備に取りかかった。その中で、冬のスポーツは怪我人が多い上に、雪の山岳地では救急車もろくに走れないという問題が大きく取り上げられた。

 そこでデンバー市長が市内最大の聖アンソニー病院に相談したところ、冬のヨーロッパ・アルプスで怪我をしたスキーヤーをヘリコプターで搬送したのを見たことがあるという人が現れた。そこからデンバー・オリンピックでも、けが人や急病人の搬送にはヘリコプターを使ってはどうかというアイディアが生まれた。

 このことを、海兵隊でヘリコプター・パイロットとして飛んでいた人物が知って、独自に「オリンピック・ウィング」と呼ぶヘリコプター会社を設立、ヘリコプターで救急と救助をおこなうという計画を市当局に提案した。そこで、この会社と聖アンソニー病院との話し合いの結果、アルーエトV単発タービン・ヘリコプターを使うことになった。その契約は1972年に調印され、「フライト・フォア・ライフ(Flight For Life)」と呼ぶ救急プログラムが発足する。


ロッキー山脈を背景に飛ぶ
フライト・フォア・ライフ機

 こうして病院を拠点とするアメリカ初の日常的、定常的なヘリコプター救急体制が実現した。ところが一方、デンバーの若い政治家の中からオリンピックは環境に悪影響を及ぼし、経済的にも市の負担が大きすぎるという議論が出てきた。そしてオリンピック反対運動が盛り上がり、ついにデンバー市はオリンピックを返上せざるを得なくなった。これを受けて、IOCも1976年の冬季オリンピックはオーストリアのインスブルックで開催することに変更した。

 にもかかわらず、フライト・フォア・ライフだけは、当初の計画通りに飛び続け、一昨2012年40周年を迎えた。この間、ヘリコプター拠点はコロラド州内4ヵ所の病院に拡大し、相互に連携し合って、現場救急、病院間搬送、さらには医師の派遣輸送など、1日24時間の体制で昼夜を問わぬ活動を続けている。

 ソチ・オリンピックでも、ヘリコプターは使われている。ロシア内務省や警察のヘリコプターが保安監視やなだれ警戒など上空パトロールを続けており、救急事案が発生したときは現場に飛び、捜索救難もおこなう。

 さらにオリンピックの開催に先立つ2010年頃から、競技会場となる山岳地の建設工事にも、ヘリコプターが使われた。

 機種はミルMi-8/17大型機、同軸反転ローターのカモフKa-32大型機。とりわけ大きなMi-26T巨人ヘリコプターは最大20トンの重量物を吊り上げ、オリンピックのための建設資材や送電機器の輸送に当たった。


Ka-32

カモフKa-226小型双発タービン機は同軸反転ローターで
尾部ローターがなく、騒音も小さいので狭い場所にも着陸できる。
かつてのKa-26双発ピストン機はわれわれも日本で使ったことがある。

(西川 渉、2014.2.14)

     

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