<謹賀新年>

神秘の鳥

 ハミングバードは神秘と奇蹟の鳥といわれる。その呼び名は羽ばたき音がハミングのように聞こえるところからきたものである。日本語のハチドリもハチのようにブンブンいう「うなり」の音からきていることは容易に想像できる。もっとも本場南米では、花にくちばしを突っ込むところから、花キス鳥(beija-flor)とか花つつき(pica-flor)などというらしい。

 ハミングバードは、主に南米に生息する。一部は中米から米国内でも見かけるが、敏捷で用心深い鳥だから目撃しただけで運がいいそうである。種類は338種が確認されている。しかし実際のところはよく分からず、写真に撮るのは不可能に近いと、ものの本に書いてある。実は、その不可能を実現したのが本頁の写真で、今から2年余り前、サンフランシスコ空港に近いホテルに泊まった翌朝、玄関前の植え込みの中を飛び回っていたハミングバードである。

 この鳥は激しい羽ばたきをするために、胸の筋肉が大変発達し、空中では機敏な動きを見せる。そのためエネルギーの消費量も大変なもので、温血動物の中では最も多い。体重75kgの人間が1日3,500カロリーを消費するのに対し、ハミングバードが同じ体重とすれば155,000カロリー相当を消費する。人間なら毎日130kgのハンバーグを食べなければならないという計算もある。

 一方、鼻は余り利かない。ハミングバードが花の方へ寄って行くのは、甘い蜜の匂いではなく、花の色に惹かれるためとか。特に赤い色が好きで、もし自分の庭にハチドリを呼び寄せたいときは、砂糖水に食紅を落とせばいいとものの本に書いてあるが、むろん日本では何をしても無理である。

 ハミングバードは体の構造を解剖学的に見ると、とても空を飛べるとは思えない。たとえば翼は無闇に細長く、鳥の仲間では体の割に最大のスパンをもつ。これを白鳥に当てはめると、翼スパンは20mにも相当する。それを高速で動かすための胸の筋肉は全体重の25〜30%を占める。これで毎秒80回の羽ばたきが可能となり、高速急降下をするときは毎秒200回にも達する。その飛行ぶりは垂直に上昇し、前進、後進、横進、降下、バレルロール、急停止、ホバリングなどをやってのける。

 ヘリコプターも全く同じようなもので、その構造を初めて見た人は、これで空を飛べるとは思えなかったはず。飛行機の大きな翼を見慣れた人にとって、こんなに細くて弱々しいブレードで空を飛ぶなどはとても考えられない。ジャンボ機のパイロットなども「よくまあ、こんな危なっかしいもので飛ぶ気になるなあ」と言う人がいる。

 ところがヘリコプターは細いブレードを、ハミングバードほど速くはないが、毎分300回転以上の高速で回して、垂直上昇から前進、後進、横進、降下、横転、ホバリングまでほとんど同じような飛行特性を発揮するのである。

 ハミングバードは「天然のヘリコプター」といわれるが、むろん彼らの方がヘリコプターより前から存在したわけで、ヘリコプターの象徴にほかならない。またハミングバードは美しい色合いから「空飛ぶ宝石」とも呼ばれる。ヘリコプターもまた宝石のように価値のある飛行をしたいと願っている。

 今年もヘリコプターと本頁をどうぞ宜しくお願い申し上げます。

(西川 渉、2005.1.1)

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