<ヘリエクスポ2004>

シコルスキーS-92の引渡し開始

―― ヘリコプター世界の動向(1) ――

  

 「ヘリエクスポ2004」は去る3月15〜17日の3日間、国際ヘリコプター協会(HAI)の主催で、ラスベガスでにぎやかに開催された。今年の主題は上図の通り、「ヘリコプターの未来に触れよう」というもの。

 コンベンション・センターには15,152人の参会者が入り、昨年の2割増で、過去50年間の最高を記録した。出展者は約490の企業または団体。世界の主要ヘリコプター・メーカーを初め、ヘリコプター関連のメーカーがラスベガス・コンベンション・センターの広い会場に、それぞれの製品をところ狭しと展開し、新しい製品と計画を競い合って発表した。そうした各社の発表を見ながら、今後のヘリコプター世界の動向を探ってゆくことにしよう。

 展示されたヘリコプターは下表のとおり約50機。色とりどりの塗装をした機体が華やかなライトを浴びて光り輝き、新しい機能や飛行性能の向上を誇示した。顧客との間では売買契約調印や引渡しのセレモニーもおこなわれ、その場に集まった観客にシャンパンが振る舞われたりした。

 売買契約が調印された機数は110機と推定される。昨年の50機に対し2倍以上という盛況であった。

 

展示機一覧

[注]この表は筆者の数えたもので、見落としがあるかもしれない。


 ヘリエクスポ開会式――展示会場入口前の壇上に協会役員が並び、
その前に詰めかけた多数の観客が開場を待つ。


 展示会場――真新しいヘリコプターの間を多数の観客が行き交う。

PHIへシコルスキーS-92初号機

 シコルスキー社は今回のHAI大会で最も派手な演出を見せた。新しいS-92の引渡しである。展示会場正面に米ペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)向けのS-92大型機を飾っての除幕式。そういえば25年ほど前であったか、同じHAI大会でおこなわれたS-76の除幕を想い出す。引渡しを受けたのは、矢張りPHIであった。

 あのときの主役はPHIの創設者で、当時のヘリコプター界の大ボス、故ロバート・サッグス氏。銀色の幕を引き下ろすと、中から真新しいS-76が現れた。今回は機体に黒い幕がかけられ、周囲に黒と黄色の風船が多数浮かんでいたが、その風船がパンパンパンという大きな音と共にいっせいにはじけて幕が引き下ろされた。

 観客の前に姿を現したのはS-92。黄色い下地に黒い線の入った米ペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)向けの巨体である。その前にシコルスキー社とPHIの経営トップが並び、それぞれに祝辞と謝辞を述べた。

 PHIはメキシコ湾の石油開発支援を主とする世界有数のヘリコプター運航会社である。S-92選定の理由は「運航費、ペイロード航続性能、耐衝撃性と破損耐久性などの点ですぐれている」。また「燃料は床下ではなくて、胴体側面のスポンソンの中に入るので、安全性が高い」という。たしかにS-92は2002年12月に定められたFAAの新しい安全基準にしたがって設計されており、その意味では既存のどの機種よりも安全性は高いといえよう。PHIのS-92発注数は2機。2機目は今年6月に引渡される予定。

 S-92は現在22機の注文を受けている。ほかに17機の仮注文があるというから、ちょっと驚かされた。これまで同機の受注はさほど公表されていなかったからである。1機あたりの価格は1,600万ドル。この4月末には計器飛行証明も取得する。

 次の目標は、海兵隊の「マリーンワン」として米大統領専用機をめざすことになる。選定の結果はこの夏発表される予定である。


HAI大会開会の1時間後におこなわれたシコルスキーS-92初号機の引渡しセレモニー


シコルスキー社からS-92の機体と共に、PHIへ贈呈された絵画。
石油プラットフォームの上を飛ぶS-92が描かれている。

S-76、100機を超える受注

 シコルスキーS-76も、過去20年来最高の注文を獲得した。2002年12月から14か月間で確定59機と仮57機というから、仮注文の大半が正式契約になれば、100機を超える受注である。このうち15機は米エア・ロジスティック社、10機はカナダCHCからの注文だが、ヘリエクスポ会期中にもブラジル・リーデル社から10機の注文を受けた。こうしたことから、S-76は今年30機を生産する計画。昨年は15機の製造に終わっている。

 こうしたことでシコルスキー社は、去る2月のコマンチ計画中止の痛みがいくらかでもやわらげられるであろう。それに軍用分野でも昨年9月UH-60Mが初飛行した。最近までの試験飛行は80時間以上。これが実用段階になれば向こう20年間に現用機の改修で1,200機、新製機で300機が製造される見込みという。また海軍向けMH-60RとMH-60Sも順調に開発が進んでいる。これらは将来、合わせて400機以上の新製機が調達される計画である。


シコルスキーS-76は、同機の歴史はじまって以来最高の年間受注数を記録した。

  

(西川 渉、『航空情報』と『エアワールド』の各2004年6月号掲載記事に加筆) 

 

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