<ヘリエクスポ2004>

ベル・ヘリコプター社の新戦略

―― ヘリコプター世界の動向(2) ―― 

  

 ベル・ヘリコプター社はMAPL(Modular Affordable Product Line)と呼ぶ新しい製品戦略を打ち出した。戦略本部がカナダにあるためか、同国を象徴するカエデの葉にちなんでメープルと発音するらしい。強いて日本語にすれば「モジュール構造による設計製造方式」とでもいうべきか。これから開発するヘリコプターについて、基本となる部品や装備品をモジュール化し、機種が異なっても同じモジュールを使い、相互の共通性を高めようというのである。

 これによって、小型単発機や小型双発機から中型双発機まで共通性を持たせることができれば、製造面では機種ごとに別個の部品や装備品をつくるよりもコストを下げることができる。それを購入する運航者の方も予備品の在庫や特殊工具が減り、技術の習得が楽になるといった利点が得られる。

 その上でベル社は、このMAPLヘリコプターを騒音が小さく、キャビンが大きく、生産性の高いものにしてゆく計画を練りつつある。たとえば既存のヘリコプターにくらべて速度を増し、搭載量を上げて生産性を2割増とする。また運航費の2割減、騒音の1割減、出発信頼性を99%まで高めるといった目標を立てている。

 このため現在、ヘリコプターにとって重要な基本装備――主ローター・システム、トランスミッション系統、オートパイロット、騒音軽減機構などについて技術的な研究開発を進めつつある。このうち主ローターは3枚ブレードや5枚ブレードを考え、尾部にはダクテッドファンをつけて効率を高めると共に騒音を減らすなどのアイディアが検討されている。

 先ずは下図のとおり軽単発ヘリコプターの設計に着手、続いて軽双発機、中型双発機の設計にも進む予定。こうしたMAPL機は、基本のヘリコプターが2010年頃までに型式証明を取り、実用化する目標を掲げている。


MAPLモデル351概念図――主ローター・ブレードが3枚、
座席数5席、エンジンは単発。降着装置はスキッド式。


MAPLモデル351胴体側面図


MAPLモデル382――主ローター・ブレードは351と同じ3枚だが、座席数は8席に増え、
胴体が延びた。エンジンは双発、降着装置も引込み脚に変わった。

ストレッチ型の427IFR

 MAPL構想に先だち、ベル社では当面の新しい開発計画として現用427を基本とする427IFR、およびUH-1Hを改修するモデル210の開発計画を明らかにした。

 427IFRは、今の427軽双発機の胴体延長など、大がかりな改造をほどこして、カテゴリーAの飛行とパイロット単独の計器飛行も可能にする計画。このため新しいアビオニクスと3軸のオートパイロットを装備すると共に、主ローター・システムを改良して飛行速度を上げ、回転数を可変式にして騒音を減らす。

 またキャビン内部を広げて乗り心地を改善しながら、救急機としてはキャビン後方に所要の医療機器を装備、ストレッチャー2人分を搭載した上に、医師やパラメディックなど2人が乗り組めるようにする。

 HAI大会の展示会場には胴体モックアップが展示されたが、2006年に実用化する予定。おそらくはユーロコプターEC135と競合することになろう。


ベル427IFR軽双発ヘリコプターの胴体モックアップ
下の写真はもう一つの427モックアップで、救急装備をしている。

 モデル427IFRの予備的な基本データは、自重1,955kg、総重量3,182kg、カーゴフック容量1,364kg、吊上げホイスト容量270kg、燃料738リッター、トランスミッション出力1,100shp、最大速度264km/h、地面効果内ほぼ高度限界4,054m、締め効果外ホバリング高度限界2,835m、航続時間3.5時間(補助タンクつき)。

 もうひとつ今回発表されたモデル210は、軍用型UH-1HヒューイUを基本として、エンジンをハニウェルT5317A/B(1,800shp)に換装、212の主ローターやトランスミッション系統を取りつけるなど、200項目以上の改修を加えて、飛行性能を上げるという計画。たとえば総重量は機内搭載時で11%増、機外搭載時で18%増となる。直接運航費は40%下がって、飛行時間あたり880ドルだったものが530ドル。重要装備品のオーバホール間隔(TBO)は2〜3倍に伸びるという。

 1機あたりの改修価格は約300万ドル。主な用途は、現在UH-1Hを使っている公的機関で、警察、消防、本土安全保障局など。また米陸軍もUH-1の後継機を求めているところから、この210を提案することにしている。

 ベル社では300〜500機の需要を期待し、2005年なかばまでに型式証明を取る予定。


これは上記モデル210ではない。グローバル・イーグル社の改造機で、
旧UH-1に新しいPT6C-67Dエンジンを装備して出力を上げ、
尾部ローターを強化してペイロードを47%増、航続距離を13%増としたもの。
1時間あたりのエンジン・コストは半減、燃費は3割減になるという。
機体の前に「昔のヒューイとは違います」という看板が立っている。

 なお、2003年中の民間向けベル・ヘリコプターは、引渡し数が97機であった。うち62機は軽単発機、7機は軽双発機、8機は中型双発機、それにモデル412が20機である。またHAI大会では早くも421IFRに対して11機、210に対して1機の注文が出た。その他の機種も入れると、今大会の受注数は3日間で45機を超えたという。


PHI向けの407単発救急機


企業向けのモデル407ビジネス機


派手な塗装で人目を惹いたモデル412は、
メキシコ最大のオフショア運航会社ASESA向けの機体。
ASESAからは10機の注文を受けている。

(西川 渉、『航空情報』と『エアワールド』の各2004年6月号掲載記事に加筆) 

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