<ヘリエクスポ2004>

アグスタ社の積極策

―― ヘリコプター世界の動向(3) ―― 

  

コアラを米国で製造

 アグスタウェストランド社は、米国市場への進出作戦を大胆かつ積極的に進めつつある。ひとつはA119コアラ単発タービン機の組立て工場をフィラデルフィアへ移すというもの。コアラはアメリカの警察および救急によく使われている。そのため米国内で組み立てた方が手っ取り早く、コストも下がるというので、去る3月2日北東フィラデルフィア空港の一角で工場の起工式がおこなわれた。。これはアグスタウェストランド社の米国市場への進出をいっそう強化する戦略の一環。今年夏の終わりには機体の出荷が始まる予定で、年間生産数は約20機になる。

 ヘリエクスポでは初日、コアラが米テクスエア社へ引渡された。同機はテクスエアが発注している10機のうちの4番機。テクスエアは総数42機のヘリコプターを保有、メキシコ湾の石油開発などに飛んでいる。コアラは、テクスエアによれば、同クラスのヘリコプターにくらべて速度が速く、キャビンが広く、手荷物室も大きい。同社のA119は、いずれも自動操縦装置を持ち、計器飛行装備をして、衝突防止装置がついている。メキシコ湾では、陸上基地から沖合の石油開発リグやプラットフォームまで石油関係の技術者や作業員をのせ、計器飛行をしている。


米テクスエアの海洋石油開発に使われるコアラ単発機

AB139の引渡し開始

 もう一つは、かねてベル社との間で共同開発を進めてきたAB139中型双発ヘリコプターが昨年6月イタリア航空局の型式証明を取得、クリスマスの直前イタリア北部のコモ湖近くに拠点を持つチャーター運航会社エリラリオ社に量産1号機が引渡されて、本格的な量産がはじまった。その製造は、イタリアに並行して、将来テキサス州アマリロ国際空港の一角にあるベル社工場に第2の組立て工場を設置する。これが完成すれば、最終的にはイタリアとアメリカを合わせて年間50機程度のAB139を生産するというのがアグスタ/ベル・エアロスペース社(BAAC)の計画。

 AB139は今年夏にはFAAの型式証明も取得できる見込みで、アマリロ製の初号機は2006年春完成の予定。これが軌道に乗れば、イタリアとアメリカを合わせて年間約50機のAB139が生産される。

 AB139は1999年のパリ航空ショーで開発計画が発表された。キャビンが大きく乗客15人をのせ、295km/hの速度で740kmを飛ぶ。これまでに試作3機で1,200時間の試験飛行をしている。今後はカテゴリーAの飛行承認に加えて、救難用ホイスト、機外吊下げ用のカーゴフック、エンジンの異物分離器などの装着承認を取る予定。

 AB139の最近までの受注数は60機。そのうち34機は米沿岸警備隊からの受注で、海洋石油開発の支援も合わせて米国市場への期待は大きい。同機は余裕のあるキャビンに乗客15人をのせ、295km/hの速度で航続740kmを飛ぶことができる。

 HAI大会には、BAACは2機のAB139を持ち込んだ。うち1機はここに展示され、もう1機はラスベガス空港で見込み客の試乗デモのために飛んだ。


AB139の周囲はいつも人だかり


AB139――登録記号にご注目

 さらにアグスタウェストランド社は、米大統領専用機の候補としてEH101大型3発機を提案している。競争相手は上述のシコルスキーS-92だが、ホワイトハウス入りが実現すればUS101の呼称でベル社アマリロ工場で製造する。米大統領機は、閣僚や関係者の乗用機も合わせて総数23機の調達が予定されている。

 アグスタ社の積極性は、もう一つ、コマンチの代替案にも見られる。計画が挫折したコマンチの代わりにA129マングスタを米陸軍の武装偵察ヘリコプター(ARH)として提案しているもので、ARHは368機を調達する計画。

 ヘリエクスポ会場にはA109パワーも展示された。A109はこのほど上海警察へ売り渡されている。警察専用のアビオニクスなど最新のハイテク機器をそなえ、夜間のパトロールや犯罪捜査も可能。ほかにビデオ・リンク、救難用ホイスト、リペリング・キット、サーチライト、フロート装備などがついている。最大全備重量でカテゴリーAの運航も可能。上海警察の機動力は、これで大きく向上する見こみ。


A109パワー

 アグスタウェストランド社はオーストラリア国防軍向けにA149の開発を提案している。これはA139を基本として、胴体を大きくし、動力系統を強化するもの。総重量はA139の6,000kgが6,800kg程度に増加する。これでベルUH-1YやEC765に対抗する。

 対象は軍用機ばかりではなく、民間市場も合わせた需要は、このクラスのヘリコプターは米国以外でも2,000機の需要はあるが、そのうち400機はA149が取れる、というのがアグスタウェストランド社の見方。

 オーストラリア国防省は兵員輸送ヘリコプタの追加計画「エア9000」をスイスねようとしている。A149は、その計画に対して提案されているもので、将来は陸軍の現用36機のシコルスキーS-70A-9ブラックホークの代替機にもなる可能性がある。

 A149はすでに数年前からアグスタ社で検討されてきた計画。エア9000に採用されれば、直ちに正式の開発をはじめることにしている。しかし、エア9000の契約獲得に失敗しても、国際的なパートナーが見つかれば具体的な開発作業に入ることにしている。


軍用機として提案されているAB139の模型

(西川 渉、『航空情報』と『エアワールド』の各2004年6月号掲載記事に加筆) 

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