<ヘリエクスポ2004>

最高潮のユーロコプター社

―― ヘリコプター世界の動向(4) ―― 

 

 ユーロコプター社は、かねてからアメリカ市場の開拓に熱心だった。米国内には早くから製造工場を置き、昨年はその拡大のためにテキサス州からミシシッピー州へ工場を移した。この5月から操業開始の予定である。

 米国内の市場シェアも2003年実績で49%を占め、ベル社の30%、アグスタ社の8%、シコルスキー社とMDヘリコプター社の各4.5%を大きく凌駕し、外国メーカーでありながらトップに立っている。救急機もユーロコプター機が65%を占めた。

 2003年の受注数は、世界中から総数293機。売上高は26.1億ドルで前年比4%増となった。 

米国初登場のEC145

 今回のヘリエクスポ会場ではEC145の除幕と引渡しのセレモニーがおこなわれた。これが米国で初めて登録されるEC145だそうである。

 受け取るのはフロリダ州の自治体リー・カウンティで、救急や捜索救難に使用する。そのため機体には酸素システム、エアコン、パイロット単独の計器飛行装備、サーチライトなどを装備している。

 同じ救急用のEC145を、米ヴァンダービルト・ライフ・フライト社も会場で3機発注した。これで米国からのEC145発注数は5機になる。

 欧州では、EC145は公用機関からの受注が多い。たとえばフランス警察、スイス・エア・レスキューREGA,ドイツ警察などで、山岳救難、国境警備、救急飛行などに当たっている。量産数はまもなく50機になる。なおEC145は欧州の最高峰モンブランの頂上4,810mに着陸した記録を持つ。


米国初のEC145を引渡す


 セレモニーはシコルスキーほど派手ではなかったが、
周囲の観客には誰かれなくシャンパンが振る舞われた。
ユーロコプター社から顧客に渡されたのはEC145の同じ塗装をした模型。


リーカウンティに引渡されたEC145メッドスター救急機

大型単発遊覧機EC130B4

 米パピヨン・ヘリコプター社はユーロコプターEC130B4単発タービン機を会場で受領した。グランド・キャニオンの遊覧飛行に使う予定。EC130は単発機ながら高い信頼性をもち、キャビン幅が広くて乗客6〜7人の搭乗が可能。そのため遊覧飛行に多く使われ、最近は海上石油開発にも従事するようになった。

 エンジンはFADEC付きのターボメカ・アリエル2B1(847shp)が1基。


グランドキャニオンの遊覧に使われるEC130B4 


もう1機のEC130B4――キャビン幅が非常に広い。

 

 EC135は救急や警察の需要が多い。引渡し数は320機に達したが、4分の1は警察機である。 

 EC120は受注数が38機。5人乗り単発タービン機の中では8割を占めたという。2003年末までの引渡し数は365機となった。


一段高いところに展示されたEC120

EC155HPの開発

 EC155は1998年に型式証明を取得した。従来のAS365ドーファンを基本としているが、内容は大きく異なり、胴体は0.58m延びて、キャビン容積は4割増となった。これでシコルスキーS-76やベル412を充分おびやかすこととなろう。主ローターは5枚ブレードのスフェリフレックス機構となり、キャビン騒音も減った。機体価格は630万ドルである。

 ユーロコプター社では今、このEC155の改良型EC155HPの開発も進めている。新しいエンジンを装備して、主ギアボックスを強化し、降着装置を改め、総重量を増やすというもの。新しいアグスタAB139に対抗することをねらっている。

 さらに将来に向かっては、EC165の構想が検討されている。MTR390エンジンを装備する予定である。

 
EC155

タイガー攻撃機とNH90輸送機

 軍用機は、今年からタイガー攻撃機の引渡しが始まる。これまでの受注数はフランスとドイツから各80機、オーストラリアから22機、スペインから24機で、合わせて206機となっている。量産初年度の今年は18機を製造する。このタイガーを、ユーロコプター社も米陸軍のコマンチ計画中止の代替機として提案している。

 NATO軍向けの輸送ヘリコプターNH90は仏、独、伊、蘭、ポルトガル、北欧、ギリシアから合わせて325機の注文を受けている。昨年から量産が始まり、20機が引渡された。NH90は米空軍の戦闘救難機にも提案されている。決まれば132機の調達が期待される。

 

HH-65にターボメカ・エンジン

 ユーロコプター機に関連するもうひとつ大きな話題は米沿岸警備隊(コーストガード)が使っているHH-65ドーファンのエンジン換装である。

 HH-65は1984年以来、欧州機でありながら、当時最新鋭のライカミングLTS-101ターボシャフト・エンジンを装備してコーストガードに採用された。20年後の現在96機が飛んでいるが、エンジン故障が多発するようになった。この1年間に発生した不具合は58件に上り、このほどターボメカ・アリエル2C2への換装が決まった。

 HH-65は今のところ飛行制限を加えながら飛んでおり、今年の夏から換装作業がはじまる。この作業と同時に、沿岸警備隊は降着装置の強化、機首の延長、アビオニクスの近代化、尾部ローターの機能向上などの改良を加える予定。さらに7.65ミリ機銃も装備する考えで、全機の改修には2年ほどかかる。換装のための費用は1機あたり150〜200万ドル。

 HH-65に装備されるアリエル2C2-CGエンジンは、ターボメカUSA社のテキサス工場で製造される。いうまでもなくターボメカはフランスのエンジン・メーカーだが、かねてから米国に進出し、アリエル・ターボシャフトも半数はテキサスで製造されている。

 このエンジン換装について、ハニウェル社はLTS-101の故障が沿岸警備隊のいうほど多くはないし、安全性は他のエンジンよりも高いと反論している。またプラット・アンド・ホイットニー社はPT6エンジンも候補に上げて、比較した上で採用を決めるべきだと主張している。確かに対象機数が多いだけに、約200基のエンジンが必要になり、ビジネスとしても大きい。ターボメカが油揚げをさらっていくのを黙って見ているわけにはゆかぬかもしれないが、沿岸警備隊はアリエルで進める方針を変えていない。

 HH-65のエンジン換装と機体の改修は、ユーロコプター社の新しいミシシッピー工場で8月から始まる。

(西川 渉、『航空情報』と『エアワールド』の各2004年6月号掲載記事に加筆) 

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