<HELI-EXPO 2005>

運航会社も活発な動き 

  

 今回のHAI大会で、運航会社の方はどのような動きを見せたか。PHI、CHC、ERA、エバーグリーンなど世界の強豪ヘリコプター会社は、そろって新しいヘリコプターを発注した。いずれも海底油田の開発支援に使う機材が多く、昨年来、原油価格が高騰し、油田開発が活発になってきたことを示すものであろう。

 これでヘリコプター業界も活況を取り戻すことになると見られるが、残念ながら日本は周辺の大陸棚にほとんど石油がなく、したがってヘリコプターも開発ブームに乗れない。尖閣諸島(魚釣島)など、中国にしてやられるばかりでなく、弱腰外交を改めて積極的な開発に着手すべきではないのか。

 考えてみれば、日本はロシアとの北方四島問題に始まり、韓国との間には竹島問題があって、次々と領土を侵食されているばかりでなく、北朝鮮からは国民を拉致されながらミサイルに脅かされて手出しができないまま。おまけに開発援助とか資金協力という名の寺銭(てらせん:ばくちなどのショバ代)ばかり取られるていたらく。外務省を初めとする役人や政治家が「慎重に見極めて」などと無為無策をごまかしながら時間かせぎをしている間に、一種の草刈り場になってしまった。

 さて、米ペトロリアム・ヘリコプター社(PHI)はHAI大会の会場で、ユーロコプターEC135P2を10機発注し、さらに10機を仮発注、契約書に調印した。今年4月から引渡しが始まり、メキシコ湾の油田開発に使われる。運航は計器飛行でおこなわれる。

 さらにPHIはシコルスキーS-92を2機とS-76C+を4機発注した。これでPHIのS-92は6機、S-76は19機になる。


PHIのシコルスキーS-92

 アラスカのアンカレッジに本拠を置くERAヘリコプター社はベル・アグスタAB139を20機発注した。引渡しは間もなく始まり、2009年までに終わる予定。

 ERAはメキシコ湾を初め、サハリン、タイ、ギリシア、バルカン、イタリア、アルゼンチンなどの海洋石油開発にヘリコプターを運航しており、AB139の高速性能、大ペイロード、長航続性能を買ったものという。

 加えてERAヘリコプター社は、シコルスキーS-76C+を2機と、新しいS-76C++を3機発注した。

 さらにERAはHAI大会の会場で、アグスタA119コアラを受領した。これは10機を発注しているうちの4番機。コアラは単発機だが、ERAはこれも海洋石油開発に使用する予定。


ERAヘリコプター社向けのコアラ単発機

 米エバグリーン・ヘリコプター社は3機を発注していたベル・アグスタAB139ヘリコプターの1番機を受領した。引渡しのセレモニーはHAI大会の会場でおこなわれた。エバグリーン向けの機体は、FAAの型式証明を取得した初号機。

 エバグリーンに続いて、シェブロン・テキサコ石油もAB139を受領し、引渡しのセレモニーがHAI大会の会場でおこなわれた。同社も3機を発注しており、受領したのはその1番機で、メキシコ湾の石油開発に使われる。特に同社は陸地から450km以上の沖合にプラットフォームを持っており、往復900kmの長距離飛行もできることからAB139を採用したという。

 FAAの型式証明取得により、今後は米国でもAB139が普及してゆくものと期待される。


AB139

 カナダのバンクーバーに本拠を置くCHCヘリコプター社は、新しいS-76を5機発注した。同社は昨年も10機のS-76を発注している。また同社は今年から3機のS-92の運航を開始する予定。

 CHCは世界最大のヘリコプター運航会社で、現在225機以上のヘリコプターを世界各国の石油開発のために運航している。


CHCヘリコプター向けのS-76C+

 ノルウェーのノルスク・ヘリコプター社はシコルスキーS-92の引渡しを受けた。2月末からノルウェーのベルゲンを基地として、北海の石油開発支援飛行に当たる。春には2番機も受領の予定。

 英ブリストウ・ヘリコプター社はユーロコプター社の新しいEC225をもってシェル石油と契約した。北海の油田開発に使われる。EC225は現用スーパーピューマを基本とする発達型。外観は同じように見えるが、エンジン出力が強化され、主ローターブレードが5枚に増えて、高速、長航続の飛行性能を持つ。また振動が少なく、窓が大きくなって、乗客の乗り心地が良くなった。

 EC225は、昨年初めブリストウ社の2機発注によって開発が決まり、1番機は今年なかばに引渡される。

 イタリアのヨーロッパ・エアクレーン社は2機目のS-64クレーン機を受領した。同社はS-64を4機発注しており、イタリア国内の林野火災の消火活動に使用する。

 なおS-64は10トンの吊上げ能力を持つために、消防ばかりでなく、災害時の緊急重量物搬送にも使われる。2002年アルプス山中の氷河湖があふれそうになったときは、排水用の大型ポンプを現場に運んだ。2003年のエトナ山の噴火に際しては、村に近づいた溶岩の流れを変えるために大型コンクリート・ブロックを運んでせき止めるなどの作業をしている。


イタリア向けのエリクソンS-64

 メキシコのエグゼクティブ航空はアグスタA109パワーを2機と目下開発中のグランドを2機発注した。同航空はメキシコ・シティを中心に、10機のホーカー800XPビジネスジェットをもってフラクショナル・オーナーシップ事業を展開しており、これにヘリコプターを追加する計画。A109は今年中、グランドは2007年に引渡される。

 米CJシステムズ社はユーロコプターEC135T2を4機発注した。同社は航空医療の専門会社で、1年前にも同じEC135を10機発注している。今年の発注分は2006年から引渡しがはじまり、全てが引渡されると同社の救急ヘリコプターは36機になる。

 やや私的な思い出になるが、もはや20年ほど前の当時、筆者の勤務先でも上の各社のように、HAI(当時はHAA、アメリカ・ヘリコプター協会)大会で記者会見を開いてヘリコプターの発注を発表したり、引渡しを受けたばかりのベル212を会場に展示したりしたことがある。

 日本のヘリコプター業界が狭い範囲に閉じこもることなく、新たな市場を広げてゆくには、そうした国際的的な広報活動も重要ではないだろうか。

(西川 渉、2005.2.15)

 

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