<ヘリエクスポ2005>

新しいヘリコプターの動向

 

 国際ヘリコプター協会(HAI)の年次大会「ヘリエクスポ2005」は、かねて本頁でもご報告してきたとおり、2か月前の2月6日から3日間、ロサンゼルス南郊のアナハイムで開催された。参会者は14,200人以上。出展者は481社、展示されたヘリコプターはモックアップを含めて50機を超えた。

 これらの展示から、今後の動向を示す主要なヘリコプターを見てゆくことにしよう。

新たな開発計画ベル429

 ヘリエクスポ会場。ベル・ヘリコプター社のブースには、2つの一段高い舞台が設けられ、それぞれにビジネス乗用機と救急機が展示された。いずれも、大会初日に披露された新しいモデル429軽双発タービン・ヘリコプターである。

 429は407単発機、427双発機と進んできた系列をさらに発展させ、機体を一回り大きくして使い勝手を改善し、経済性と安全性を高めるもの。昨年のHAI大会で発表された427IFRを顧客の要求に合わせて設計変更したもので、キャビン内部は7割ほど広くなった。それに昨年来飛行試験を続けてきた新しいMAPL技術を採り入れ、モジュール構造による設計製造方式を採用して用途の柔軟性をねらっている。4枚ブレードの尾部ローターも新しい設計に変わる。

 キャビンは床面が平らで、スライド・ドアがついている。燃料タンクも全て床下に入れてしまった。

 エンジンはプラット・アンド・ホイットニーPW207Dターボシャフト(730shp)が2基。総重量3,175kg、空虚重量1,950kgで、最大ペイロードは1トン余。設計速度は超過禁止速度が277q/h、最大巡航262q/h、経済巡航速度は255q/h。実用上昇限度6,000m、航続距離670km、航続時間は3.8時間、計器飛行も可能である。

 ヘリエクスポの会場で、このモックアップを見た運航者たちの感想は、おおむね好意的であった。特に救急機としての用途については、これならば使えるという見方が多かったという。

 今後の開発日程は2006年初めに初飛行し、2007年春までにFAAとカナダ運輸省の型式証明を取得、同年なかばから引渡し開始の予定。基本価格は395万ドル。ヘリエクスポの時点で受注数90機余と発表されたが、その後1か月もたたないうちに110機に増えた。そのうち少なくとも15機が救急用という。  

 この開発には、日本からも三井物産エアロスペース社が資金を出し、リスク分担のパートナーとして参加している。


ベル429救急機のモックアップ

ARHをめざすベル407X

 ベル社はもうひとつ、現用モデル407軽単発タービン機(7人乗り)のエンジン強化型407Xの開発計画を発表した。今のロールスロイス250-C47Bエンジン(813shp)の代わりに、新しいハニウェルHTS900(925shp)を搭載、飛行性能の向上、整備費の軽減などをはかる。

 特に夏の高温時でもエンジン出力がほとんど下がらず、飛行能力が改善される。エンジンのオーバホール間隔は3,000時間。将来は5,000時間をめざしている。407Xの型式証明取得は2006年春の予定。

 この新しい407Xは、一方で軍用モデル417の呼称により、米陸軍の武装偵察ヘリコプター(ARH:Armed Reconnaissance Helicopter)をめざしている。ヘリエクスポ会場では、モックアップがベルARHとして展示された。

 こうしたベル社の動きに対して、MDヘリコプター社もMH-6MをもってARH提案競争に参加する予定。これにはボーイング社が協力し、ローター・ブレードや操縦席を改良し、ボーイングAH-64アパッチ工場で軍用機としての装備をする計画。

 このARHの選択を、米陸軍は今年6月に決定する。採用機数は少なくとも368機で、2006〜2011年の間に納入される。


ベル・ヘリコプター社が米陸軍に提案しているARH(407X)。胴体左右に火器を装備

シコルスキーS-76C++とS-76D

 シコルスキー社はヘリエクスポ会場でS-76C++とS-76Dの開発計画を明らかにした。

 S-76C++は現用S-76C+の改良型で、エンジン出力を上げ、新しいギアボックスをつけ、ペイロードが増し、速度が上がり、航続距離が伸びる。また重要装備品の状態を監視するHUMSを取りつけ、ローターのバランスやトランスミッション系統を常にモニターし、整備費の削減をはかる。

 エンジンはターボメカ2S2で、これまでの2Sに比べて出力が5〜6%増加、高温時にカテゴリーAで飛ぶときの総重量が150〜180kgほど増加する。空気取入れ口には異物濾過装置がつくが、これで出力が下がるようなこともない。

 キャビン内部の騒音はヘリコプター・サイレンサーと「静寂ギアボックス」によって、4デシベルほど下がり、旅客機と同程度になる。この静かなギアボックスはギアの形と仕上げの状態を鏡面のようになめらかにしたもので、これで騒音が減ると共に、ギアの寿命と信頼性が増加する。今後製造されるS-76は全て、このギアボックスが装備される。S-76C++は今年末頃からS-76C+と同じ価格で引渡しがはじまる予定。

 こうしたS-76C++を基本として、シコルスキー社はかねて計画中のS-76Dの具体化に取りかかった。エンジンはターボメカに代わって、全く新しいプラット・アンド・ホイットニー・カナダ社のPW210S(1,000shp)が2基。主ローターも高揚力の新しい複合材ブレードを採用、双方相まって高温時の離陸重量は635kgほど増加する。

 なお、ローターブレードの翼型や平面形は廃案となったコマンチの開発研究から得られた技術による。尾部ローターも騒音を減らすための新設計になり、離陸時の騒音は2デシベル、上空通過時の騒音は1.5デシベル少なく、結果としてグランドキャニオンの遊覧機に適用される特別騒音規制にも適合する。

 またS-76Dは、S-92と同じ防氷装備を持つ。機体外観もいっそう流線型化するもよう。引渡し開始は2008年なかばの目標。

 S-76は、最近までの生産数が総計615機になった。2004年の引渡し実績は31機。うち21機が海洋石油開発向けであった。


S-76C++のモックアップ

アグスタ・グランドA109S

 アグスタウェストランド社は、目下開発中のA109Sグランドのキャビン・モックアップを展示した。機内は救急仕様。

 グランドは、昨年夏のファーンボロ航空ショーで開発計画が明らかにされた軽双発タービン・ヘリコプターである。外観は現用A109に似ているが、胴体をやや引き延ばして機内を広くし、標準座席数は8人乗り。

 運航コストが安くて、経済性の高いことも特徴の一つ。たとえばダイナミック・コンポーネントのオーバホール間隔(TBO)が長く、飛行時間あたりの整備工数も少ない。

 もうひとつの特徴は、騒音の小さいこと。これは主ローターも尾部ローターも複合材のブレードを使い、先端の平面形と翼型に工夫を加えたためで、ICAOの騒音基準を下回る。

 用途はVIP輸送、救急、捜索救難、石油開発など。VIP乗用機としては6〜7人乗り、救急機としては患者ストレッチャー2人分と医療スタッフ2人の搭載が可能。

 最大離陸重量は3,175kg、自重1,655kgで、PW207Cターボシャフト・エンジン(815shp)2基を装備、巡航290q/hの高速で航続870kmを飛ぶことができる。カテゴリーAの運航も可能。

 2007年までに型式証明を取って、引渡しに入る予定。


A109を引き延ばしたアグスタ・グランドのモックアップ。内部は救急仕様。

ベル/アグスタAB139

 ベル/アグスタ・エアロスペース社(BAAC)はAB139中型双発ヘリコプター2機をヘリエクスポ会場で引渡した。同機は昨年12月20日にFAAの型式証明を取得、米国その他の諸外国で運航が可能になった。引渡しを受けたのは米エバグリーン社とシェブロン・テキサコ石油会社。いずれも海底油田の開発支援に使用する。

 BAACはさらに、アラスカのアンカレッジに本拠を置くERAヘリコプター社から20機のAB139を受注した。ERAもメキシコ湾を初め、サハリン、タイ、アルゼンチンなどの海洋石油開発にヘリコプターを運航しており、AB139の高速性能、大ペイロード、長航続性能を買ったものという。これでAB139の受注数は100機を超えた。

 AB139は総重量6,000kg、乗客15人乗りで、EC155やベル412より大きく、スーパーピューマより小さい。ヘリコプターとしては唯一、フライ・バイ・ワイヤ操縦系統を持つ。今後は石油開発が活発化する傾向にあるため、年間40〜50機の生産が期待される。米国でも、イタリアと並んで、ベル社が生産を開始、初号機は来年春完成の予定。


今後の売れ行きが期待されるAB139。

ユーロコプター小型機

 ユーロコプター社からは、EC120、EC130B4、EC135、EC145などの小型ヘリコプターが展示された。いずれもよく売れていて、昨年は332機の注文を獲得、タービン機では民間市場の52%を抑えてシェア第1位となった。引渡し数は147機。

 なお、ユーロコプター社はヘリエクスポ会場で、新しいEC175の開発構想を明らかにした。この大型双発ヘリコプターは中国との共同開発により中国市場への進出をめざすと同時に、ベル/アグスタAB139への対抗策をねらったもの。

 EC175は総重量10トン程度。ユーロコプター機の中ではEC155とスーパーピューマの間に位置する。今後数か月のうちに合意ができて、計画が具体化すれば、2010年にも実用化されよう。

 
売れ行き好調のEC135

世界最多のロビンソン機

 ロビンソン小型ピストン・ヘリコプターは昨年690機のヘリコプターを生産、機数では前年に続いて世界最多の地位を保った。2003年の422機に対して、1.6倍の伸びである。690機の内訳は、4人乗りのR44レイバンUが361機、標準型R44が95機、2人乗りR22が234機。

 こうした大きな伸びの陰にはドル安がある。そのため外国通貨から見れば、機体価格は3割減となり、生産量の3分の2が輸出された。今年はさらに伸びる見こみで、昨年の毎週平均15機の生産に対し20機になるという。

 なおフランク・ロビンソン会長は元気いっぱいの75歳。今の2人乗りと4人乗りの小型機に加えて、6人乗りのR66を考えてはいる。エンジンはディーゼルかターボシャフトになろうが、まだ自分の頭の中の構想にすぎず、具体化されているわけではないと語っている。


ロビンソンR44

 

シュワイザー・ヘリコプター

 小型ヘリコプター・メーカーのシュワイザー社はシコルスキー社の子会社となり、今年のヘリエクスポでも両社同じ場所に機体の展示がなされていた。

 機種は333CBi、300C,333の3種類で、現在の受注残高は合わせて73機。今年の生産計画は77機だが、来年は倍増したいという意欲を持つ。シコルスキーの傘下に入って、資金的な余裕が出てきたことを示すものであろう。

 さらにシコルスキー社にとっては、シュワイザー社の無人機「ファイアスカウト」も大きな意味があり、今年は米海軍に4機が納められる。また米陸軍の「フューチャー戦闘システム」(FCS)の一環として8機のファイアスカウトが製造される。


シュワイザー333小型タービン機

 
展示会場出口――来年のヘリエクスポは2月26日から28日まで
「ダラスで逢いましょう」と書いてあった。


今年のヘリエクスポ会場となったアナハイム・コンベンション・センター

(西川 渉、『エアワールド』誌2005年5月号掲載記事に加筆)

 

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